Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

熱い!楽しい!分かりやすい!〜森治『宇宙ヨットで太陽系を旅しよう −世界初!イカロスの挑戦−』

『イカロス君の大航海』を読んで俄然興味が湧いた小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」の目的や、従来の探査機との違い、特にその新規性について非常に分かりやすく書かれた本。若い読者向けですが、誰が読んでも、知的好奇心を揺さぶられ、生きる力が湧いてくる素晴らしい本でした。今年ベスト級です。
一番驚いたのは、イカロスがもともと金星探査機「あかつき」のためのオモリという位置づけだったという“イカロス誕生秘話”。
世界最高性能の固体燃料ロケットで「はやぶさ」も載せたM-V(ミューファイブ)ロケット。「あかつき」は、M-Vロケットに載せることが前提だったのですが、これが廃止となってしまい、M-Vよりもサイズの大きな液体燃料ロケットのH-?Aに載せることになります。解析の結果、H-?Aの中で500kgの「あかつき」は軽すぎて中で振られて壊れてしまうことが明らかになったのです。機内環境を安定させるためには追加で800kgが必要となり、相乗り衛星を入れることになりました。そのひとつがイカロスだったのです。2.5年という非常に短い期間で極小予算での開発が要求された理由はここにありました。


そのほか、新しいプロジェクトを立ち上げるから成功させるまでの道のりついて、夢への挑戦という視点から繰り返し書かれている言葉が印象的でした。メインの読者層は中学生なのかもしれませんが、一度社会に出た人の方が心に響いてくる内容です。

成功だけにこだわりすぎるのは、決していいことではありません。失敗することを過度に恐れていると、新しいことはできなくなり、やがて夢はなくなります。結局、「ありきたりのことをやっていれば失敗もない」という、一番つまらないことになりかねません。
信頼とリスクのバランスもとても大事です。このバランスが信頼側にどんどん倒れていってしまうと、最後には何がリスクなのかもわからなくなってしまいます。
最近、日本のさまざまな研究・開発で成果が厳しく問われるようになり、挑戦しにくくなっていることを実感しています。しかし私としては、やはり挑戦することは大切だと思っています。
そしてそれ以上に重要なことは、成功・失敗にかかわらず、正しく結果を評価し、次に反映させていくことだと思います。特に、工学・技術については、こういったプロセスをふまえてこそ、大きくステップ・アップしていけると信じています。


森治さんは1973年生まれで同世代。IKAROS計画のプロジェクトリーダーだっただけでなく、これからも「はやぶさ2」や次世代ソーラーセイル探査機(イカロスにイオンエンジンが載るやつ)に携わっていくなど、日本の宇宙分野の最先端を行くということで、良い刺激を受けて自己研鑽に励みながらながら今後の活躍を見ていきたいと思います。