Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

2010年代の日本と政治〜石破茂×宇野常寛『こんな日本をつくりたい』

こんな日本をつくりたい

こんな日本をつくりたい

宇野常寛の長い文章を読んだのは、2007年頃のSFマガジンの連載(ゼロ年代の想像力)が初めてで、ちょうど鈴木謙介(チャーリー)なんかの本も読んでいた頃かもしれない。だから、それなりに昔から気になっていた人かもしれない。*1
ただ、そのくらいの時期から、オタク評論や社会学系の文章は読まなくなった。思い立ってそうしたわけではないが、学生時代と比較すると、アニメ・ゲーム・アイドルなどの共通基盤がどんどん減ってきて、徐々に、オタク文化を語る文章は読みづらくなってきたのだ。


しかし、先日、ある方から『リトル・ピープルの時代』を推され、さらに、その他の著書『PLANETS vol.8』も推され*2、その上、ETVで宇野常尋の特集番組を見てしまったので、これはとうとう読むしかないと思って初めて読んだのがこの本。特集番組でも石破さんが登場し、二人の対談の様子が放送されていた。
全く意図しなかったが、“石破”色の強い『尖閣喪失』のあとに、この本を読んだのは運命的なめぐりあわせかもしれない。

リトル・ピープルの時代

リトル・ピープルの時代

PLANETS vol.8

PLANETS vol.8


ここからが感想。
読後感を一言でいえば、少しだけ明るい気持ちになれた。
この本が明るい日本について語っているかと言われれば、何か新機軸が提示されているわけでは全くない。二人の間で何かを合意して方向性を打ち出したりしているわけでも全くない。
しかし、このように多岐に渡る分野のそれぞれで、噛み合った議論が成立していることは、なかなか凄いことなのではないか。うるさ型の若手社会学者と、このように「対話」ができる能力がある、ということは、政治家・石破茂に、ある程度、期待していいのではないかと考えた。(勿論、宇野常寛にも)


この本の軸にあるのは、タイトルにもあるように、つくりたい日本像を探ること。

(『日本改造計画』の中で小沢一郎が「日本は普通の国になるべき」と繰り返していた)「普通の国」という言い方は、要するに「ダメ出し」の発想から出てくる言葉だと思うんです。社会の欠点を見つけてきて、それを直して「国際水準」の「正常」な状態にすること、マイナスをゼロにするという思考法にあの本は縛られているんじゃないでしょうか。「○○であるニッポン」というポジティブな発想ではなく「○○ではないニッポン」というネガティブな発想が根底にある。
(略)
そうではなく、日本固有の社会状況や国民性を考慮した「○○であるニッポン」のビジョンが必要だと思うんです。p25-27

一貫して、二人が異なる立場から、「こんな日本をつくりたい」というあるべき姿を探っている様子は、テレビニュースで のわかりやすい政治解説などとは全く別の次元で心に響くものがあった。一般市民としての政治への関わり方を模索する宇野常寛と、政治家として誠実(一例としてデメリットを隠さなずに説明する)に接することで国民の信頼を勝ち得ようとする石破茂*3
二人がそれぞれ覚悟をもって自分の頭で考え、口に出すから話が宙に浮かない。2人の対談をきっかけに、さまざまな政治課題に興味を持ち考えるフックに、確実になっている。


ただし、和やかな雰囲気で進んだ感じのする対談でも、宇野常寛は釘を刺すところはしっかりと釘を刺す。
年金のパートでは、「年金は現行制度で破綻しない」と言い切る石破に対して、「なるほど、僕とは考えに少し距離があるようですが、石破さんの年金についてのお立場は分かりました。」と議論を打ち切る。(p45)
これは、自分も全く同意で、現行制度に問題ないという意見には納得できないし、この部分は本音が出ていないと考えたのではないだろうか。「石破さんのご意見はわかりました」ではなく「お立場はわかりました」とあるのは、そういう意図があるのだろう。


つまり、ただの仲良しの雑談でも、単にお互いが褒め合うような薄っぺらい内容でもなく、二人が互いに敬意を持ちながら対話できている様子が光る対談本だった。対談は、話が滑ると表面的な内容に終始してしまうこともあるが、ガッチリ噛みあい、理解しやすい内容だったので、各政治課題について気になったら改めて読み直したい。

*1:ただ、思い起こせば、実際の初体験は(第一次)惑星開発委員会クロスレビューが初めての出会いだったようだ。そもそも自分はファミ通クロスレビューが大好きだったので、ネット上のクロスレビューというだけで有難く読んでいたそれが、宇野常寛さんが学生時代にやっていたHPだとのこと。

*2:朱野帰子さんが書評空間でレビューを書いています。

*3:石破茂は、すべての国民が賢くなれる(そして、賢く行動すべき)という理想主義の一面があるが、それも度が過ぎているわけではないから理解の範疇だ。むしろ、より石破の誠実性が浮き彫りになっていると感じた。