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自分の視点から見える世界は限られている~前田健太郎『女性のいない民主主義』(その1)

女性のいない民主主義 (岩波新書)

女性のいない民主主義 (岩波新書)


自分は小池百合子都知事が嫌いなので、小池さんが出馬した2度の都知事選では、いずれも他の候補に投票した。しかし奥さんは違う。
今回、奥さんに「何で小池さんにするの?コロナ対策も不満でしょ」と聞くと、「他に女性候補がいないから」*1と言われて黙ってしまった。


実際、女性活躍を謳っていたはずの安倍政権でも女性閣僚はどんどん減少し、都知事選(7/5)が終わって直後に、「女性管理職30%目標」の断念+先送りのニュースと合わせて「ジェンダー・ギャップ指数で日本は153カ国中121位」という、とても恥ずかしい事実も突き付けられた。
www.bloomberg.co.jp


そんな時期にこの本を読んで、現政権の無策(口先だけ)に怒りを覚えると同時に、自分も他人事ではなく、この問題に向き合うべきだという思いを強くした。
この本には、それだけの強さがある。
以下、「まえがき」と「おわりに」の文章を引用しながら、この本の魅力を2点挙げて説明する。
本編の内容については、自分の勉強のためもあるので、今後、一章ごとに整理していこうと思う。

この本の魅力(1)タイトルが良い

字面を見て「日本の政治」の問題だとすぐにわかり、しかも「そもそも民主主義って何だっけ?」と考えさせる上手いタイトルだと思う。
以下に、「まえがき」 から、タイトルの意味について書かれた部分を引用する。

  • 日本では男性の手に圧倒的に政治権力が集中している
  • なぜ、民主国家であるはずの日本で、男性の支配が行われているのだろうか
  • そもそも、男性の支配が行われているにもかかわらず、この日本という国が民主主義の国だとされているのは、なぜなのだろうか

ここまで考えて著者の前田健太郎さんは、「女性のいない民主主義」を自らの専門である政治学の立場から捉えなおそうと考える。以下、同様に「まえがき」より引用する。

  • 政治学の教科書では、男女不平等の問題は、政治の現状分析と関係がないということで取り上げられてこなかった。
  • 近年は「ジェンダー」を政治的な争点の一種として扱うことも多いが、「環境」「人権」「民族」などといった項目と並んで扱われ、女性にだけ関係のある概念であるかのような誤解を与えかねない。
  • 本来、ジェンダーは、女性と男性の関係を指す概念で、ジェンダーと関係がない問題は存在しない。
  • そこで、本書ではジェンダーを、女性に関わる政治争点の一種としてではなく、いかなる政治現象を説明する上でも用いることのできる視点として位置付ける。

このあたりは、今の日本の政治に欠けていることを、理詰めで説得力を持って明らかにする。だけでなく、(奥さんが小池知事に投票する理由を聞いてハッとした)自分自身にも欠けている視点だということを痛感した。

この本の魅力(2)男性の書くフェミニズム

フェミニズムに関する本を読むと、自分自身の嫌な部分に気づかされてゲンナリすることが多い。しかも、多くの本は女性が作者なので、女性から本を通して糾弾されているような気持ちになる。
一方、この本の作者は男性である。
しかし、作者が男性でも、自虐的なスタンスで書かれた本であれば「ゲンナリ」は変わらないだろう。
本来のフェミニズムは男性を傷つけるためのものではないはずだ。
この本の良いところは、ゲンナリというマイナスの部分よりも多くのプラスの部分が感じられることだ。
「おわりに」の文章が良い。この本で一番気に入り、わくわくする文章だ。

誰にとっても、自分とは違う角度から世界を捉える視点に接することは、新鮮な驚きをもたらすに違いない。ジェンダーの視点を導入すると、これまでは見えなかった男女の不平等が浮き彫りになる。今までは民主的に見えていた日本の政治が、あまり民主的に見えなくなる。(略)
想像もしない角度から自分の世界観を覆されることは、反省を迫られる体験であると同時に、刺激に満ちた体験でもあった。次に、何が出てくるのか。新しい本を読むたびに、未知の発見があった。何よりそれは、自分が今までジェンダーとは関係がないと考えていた数多くのことが、実はジェンダーと密接に関係していることを知るきっかけとなった。(略)
多様なアイデンティティを持つ人々の意見がぶつかりあう問題においては、対立する当事者たちの間で妥協が難しい場合も多い。そのような状況において、自分の視点の正しさを力説し、相手を論駁しても、おそらく得られるものは少ないだろう。むしろ、自分の視点から見える世界が限られていることを認めた上で、他の視点から見た世界のあり方を踏まえ、粘り強く対話を続けるしかないのではないだろうか。本書は、そのような対話に資するような、視点の多様性に開かれた政治学のための、一つの試みである。

大切なのは、「自分の視点から見える世界が限られていることを認める」という部分だろう。ワクワクするような「目から鱗」の体験には、絶対に必要な要素だ。


もっと言えば、「知識」としてフェミニズムという言葉を知っていることは、自分にとって、何の「目から鱗」にも繋がらなかった。フェミニズムの本を読み、「他の視点」を意識することによって、少しずつでも世界が拡がっているように思う。
それは、他のことにも言え、関東大震災での朝鮮人虐殺の話も、『九月、東京の路上で』を読まなければ、「知識」レベルにとどまっていたと思う。
本や映画は、そういった「他の視点」を得るには、一番簡単な方法なので、もっと勉強していきたい。*2
それに加えて、その感動を他者にも拡げることも重要だろう。


最近、せやろがいおじさん(芸人)の、性暴力についてのインタビュー記事があったが、過去の自分の態度を俯瞰して反省し、自らが社会に向けて世界を少しでも良くしていこう動き出す姿勢に感動した。
www.huffingtonpost.jp



政治家にこそ、このような態度を期待したい。というより、「君子豹変」という言葉もあるが、自らの間違いを振り返ってこそ真のリーダーたりうるのではないか。


ちょうど先週、次の日本の首相を決める自民党総裁選の3候補の立候補記者会見があり、政策集も公表されている。安倍さんが掲げていた「女性活躍」が3人の候補にどのように引き継がれているのかを簡単に確認した。

  • 菅さんは 記者会見で東京新聞の望月記者を馬鹿にする回答が印象的。パワハラ体質を隠さない時点で論外だが、政策集にはジェンダー平等に関する記述はない。
  • 岸田さんも同様に政策集に記述はない。しかし、それ以上に、前日Twitterに挙げた夫婦写真が悪く目立ってしまい、そこでマイナス。(個人的には、何故あんな写真?とは思う)記者会見では夫婦別姓は「議論が必要」とのみ述べているが、逃げの回答だろう。
  • 石破さんは政策集にも記載しているが、会見でも「男女フェアな社会」について述べており、選択的夫婦別姓は導入すべきという立場。

この夫婦別姓の問題が典型だが、石破さんは結構意見を変える人のようだ。そこを否定的に捉える人もいるだろうが、自分としては、積極的に「他の視点」を取り入れているようにも感じ、ジェンダーの問題以外の個々の政策の是非は別として、3人の中では、最も人間的に信頼できそうだなと思いながら見ている。
そもそも、女性候補以前に、次の首相が71歳だというのは、国を「代表する人」としてふさわしいようには感じられず、他の先進諸国と比べてもかなり高齢でおかしい(習近平でも67歳。ただしトランプは74歳、バイデンは77歳とアメリカはダントツで高齢)。
何より、石破さんに負けることを怖れて、次期候補を岸田さんより菅さんに据え、選出方法まで変えてしまうという自民党の古い体質のどこに「民主主義」があるのか。


…と文句を言うだけなのは恥ずかしい。
ググって得た「知識」だけに頼って、浅い議論を振り回していると、個人への憎しみが先行してしまう気がする。
求めるのはそこではない。
自分の視点から見える世界が限られていることを認めた上で、新たにジェンダーの視点で世界を見ることができるようになりたい。
そのために、少しずつ意識的に勉強していくことが重要なのだろう。(続く)

*1:厳密には、いわゆる「泡沫候補」の女性候補は存在する

*2:ところが、本や映画を見ても、「他の視点」に無頓着な人もいる、ということを、映画『こんな夜更けにバナナかよ』を見たあとのある人の行動から知りました。(普通に考えれば、作者や同じ病気で苦しまれている方に話を聞きに行くのでは…→安倍晋三 on Twitter: "先日、映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」に出演された、大泉洋さんと高畑充希さんのお二人と、御一緒させていただく機会を得ました。… "