Yondaful Days!

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十返舎一九の「萌え絵」が楽しい!〜アダム・カバット『江戸の可愛らしい化物たち』

江戸の可愛らしい化物たち(祥伝社新書262)

江戸の可愛らしい化物たち(祥伝社新書262)

江戸時代後期の娯楽本・黄表紙は、当時の世相や流行を巧みにパロディ化した絵入り小説本で、一世を風靡した。
この本で大活躍するのが、化物たちだ。彼らは人間社会とは違った独自の価値観で、人間の生活様式を真似る。
その姿は、庶民の生活を映し出す合わせ鏡の役割をはたし、ユーモアあふれる奮闘ぶりは、今読んでも軽快な笑いを誘う。
本書は、「見越入道」や「豆腐小僧」などの化物たちが繰り広げる奇想天外なストーリーを現代の生活事情に見立てた、新しい「化物案内」である。

ビブリオバトルで紹介されているのを2回聞いて読んでみた本。
「化物」に対する薀蓄よりも、この本の読みやすさを、まずは一番に推したいです。
本の中では、再就職、アイドル、サラ金、セクハラ、ヒット商品、電撃結婚、コスプレ、できちゃった婚など、興味を惹かれる48のさまざまなキーワードについて定型の構成で化物たちが紹介されます。

  • 見開き2ページの絵(草双紙)
  • 絵についての見開き2ページでの解説(この中にも追加の絵が入ることが多い)。

冒頭30ページほどの解説を除けば、この4ページの構成が48のキーワードの分(4×48=)192頁に渡って続きます。文章は軽妙で絵も楽しく、どこからでも読めるので、ほとんどストレスなく読み通せます。


草双紙というのは、江戸時代の漫画本に似た存在で、この本では18〜19世紀に描かれた絵が多く紹介されます。(時代によっていくつかの種類があり、赤本→黒本・青本黄表紙→合巻)
作者の中で特に多く(半数近く)取り上げられているのは十返舎一九(1765〜1831)。『東海道中膝栗毛』(1802)とセットで名前は知っていましたが、驚いたのは絵も描くこと。また、その絵が力が抜けていて、タイトル通り「可愛らしい」。例えば、狐から頼まれた仕事について算盤をはじく(無職の)見越入道、化物に憧れた人間が大頭を被って変装している様子を描いたこれらの絵は、今のゆるキャラに通じるような萌えポイントを備えていると思います。


特に好きなキャラクターは(おそらく最頻出の)見越入道、リーダーでありながら頼りない感じは上の絵からも分かると思います。
また、そんな化物たちを従える、ちょっと威張った坂田金平(金太郎こと坂田金時の息子)も、嫌な感じで魅力的です。
なお、この本を読んで(化物の)狸の金玉は畳の8畳ほどまで広がるのが一般常識*1であることを知りました。化物たちは、それをワンルームマンションにしたり、貸布団にしたり色々な利用を考えます。笑


著者はニューヨークに生まれ、現在、武蔵大学教授(専攻は日本近世文学)を務める方ですが、物言いが明確で爽やかで、とても好感が持てるのもいいです。

ある意味では、江戸の化物たちはアウトサイダー的な存在である。野暮とされており、おしゃれな都会から追い出されていたが、彼らは絶対負けない。私はこの生き方が大好きだ。彼らは確かに失敗ばかりを繰り返しているけれど、いつも明るくて前向きである。何の根拠もないくせに、自信たっぷりで自惚れている姿を見ると、なぜかほっとする。厳しい現代を生き抜くために、私たちが江戸の化物たちから学ぶべきことが多くあるような気がする。P17

楽しく読めて、現代社会を見直すきっかけにもなる(?)この本は誰にでもオススメ出来る本でした。

*1:その前提があるので「狸の子はや金玉も四畳半」などという川柳が生まれるとのこと