娯楽小説に限っても読まなくちゃいけない本がたくさんある。*1
それにもかかわらず、何故読むことになったのか辿れない本が時々ある。これもそんな本だ。
(あらすじ)
世界(サービス)終了を、止められますか? MMORPG「アクトロギア」のサービス終了が決定。そんななかゲーム世界の〈はじまりの町〉で町長を務めるオトマルは、唐突に自我を獲得する。同じく覚醒した毒舌秘書官のパブリナの説明で、世界の終わりを阻止するためには冒険者たちの満足度向上が必須と理解した町の住人たち。ショップやクエストの最適化、近隣国との交易。NPCたちの奮闘はやがて世界の外側をも巻き込む大事件へ――終わりかけゲーム復興物語!
読み終えてみると、あらすじに書いてある通りの小説で、そういう意味では期待通りだったが、それを大きく超えてくることもなかった。
しかし、この本は、「出オチ」的なアイデアを、ちゃんと小説として成立させていて、そこに大きな快感があった。
いわゆる異世界転生ものにはあまり馴染みがないが、出版点数が膨大で、どんなシチュエーションもあり得るジャンルという認識はある。それでも、典型的なフォーマットは、現代人がファンタジー世界に入り込む形式だろう。
しかし、この本はその逆で、(ファンタジーですらない)ゲーム世界のキャラクターが、外側にあるリアル世界の商業的な都合(サービス終了)に対して立ち向かう、変わった仕組みで出来ている。
馴染みのあるジャンルに当てはめれば、ちょうど「この本の犯人はあなただ」、と冒頭で宣言されるミステリを読んだときと印象が似ているかもしれない。(逆に、最後に主人公がゲーム内のキャラクタだと明かされる小説は、叙述トリック形式のミステリと同じで、むしろ数が多いのではないだろうか)
文庫本をの最初のページには「■オンラインRPG アクトロギア」と題され、「膨大なアップデートで無限に進化していく世界。10年たっても20年たっても色あせないプレイ体験をあなたに!」など、ゲームの宣伝紹介に1ページ割かれる。ページをめくると「■事務局からのお知らせ」として、サービス終了のお詫び文が1ページ挟まり、そこから物語がはじまる。そこだけで掴みとしてはバッチリだ。
主な登場人物が、町長のオトマルと、秘書官のパブリナの2人で大きく広がらないところも読みやすく、オチもちょうどよく風呂敷をたたみ、あっという間に読み終えた小説だった。
ちなみに一番ドキドキしたのは、ゲーム内世界で突如勃発した隣国との戦争で、圧倒的に不利な状況にもかかわらず、パブリナが秘策を持って勝利を確信するシーン。
お、今、改めて見るとレーベルが「ハヤカワJA」ということで、SFのくくりでどこかでオススメされて手に取った可能性がある。全くSFとしては読まなかったけれど、こういうラノベ的な小説はとっつき易いので時々読んでいきたい。
参考
「読者が犯人」というテーマに立ち向かったミステリに、深水黎一郎『最後のトリック』があります。
メフィスト賞受賞時のタイトル『ウルチモトルッコ 犯人はあなただ!』を改題したもので、タイトルとしては元の方が好きだなあ。