- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/06/25
- メディア: コミック
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通常の超能力漫画とは違った呑気な設定はこの巻も同じで、しかも「エスパー魔美」の世界観は完全に固まっているので、クオリティが安定しているのがスリリングさに欠けるように見えるほど。
そんな中で、収録された全11話には、いくつか共通した部分が見え隠れする。
- 魔美が絵を描く、もしくは積極的に美術に興味を持つ(2、6、8、9、11)
- 魔美パパが、絵を描く(ほとんどが魔美含めた女性ヌード)(3、4、5、7、8、9、11)
- 犯罪(自殺)に手を染めるような人を改心させる話(1、4、5、9、11)
- これまで認められずに苦労してきたた人が認められる話(3、6、11)
特に、最終話はこれらの要素を含んだ上で、最後に魔美パパの絵の良さが認められて魔美も嬉しくなるという展開で、いつも以上に、魔美の成長、そして父−娘関係に力の入った巻となっている。
全ての作品に共通するかどうかは分からないが、F先生の魅力は、社会問題の描き方にあると思う。つまり、社会の悪に対する警告や、過去の歴史の反省については、指摘にとどめて踏み込まず、皆が未来に向けて顔を上げていくことができるような話にまとめるというところがその特徴なのではないかと思う。
例えば、2のエピソードに、戦時中に魔美パパが(クオーターであったことを理由に)疎開先で受けた苛めや、戦時中に日本軍の残虐行為についての描写がある。 最近読んだ梨木果歩『りかさん』でも似たシチュエーションの出来事が描かれていたが、物語の中での扱われ方は全く異なる。
自分が梨木果歩に対して苦手意識を持つ部分のひとつは、こと反戦というテーマに関して意識が強すぎて、関連エピソードについて、物語の流れからはみ出ても過去に犯してきた罪を深く追及してしまう、悪を炙り出そうとしてしまう部分だと思う。F先生は、問題を受け止めながらも(水に流すのではなく)、前を向く。常に明るい未来に顔を向けるバランスになっており、これが最善の方法とは思わないが、スムーズに楽しく読み切ることができ、自分の感覚にとてもフィットする。
考えてみれば、それは逆で、藤子・F・不二雄作品の物語展開に身に沁みついてしまったせいで、梨木果歩のような警告モードのアプローチをなかなか受け入れられないだけなのかもしれない。
全5巻という中で、魔美自身も父の影響を受けて、美術に興味を持ち、人間としての成長も感じられ、物語として尻切れトンボ感の少ない、良い終わり方だった。誰もがぶつかる現実社会の問題が扱われていることも多く、もはや小学校高学年〜中学生くらいに必須漫画として読ませてもいい名作だと思う。5巻では、活躍が少なかったが高畑さんという名キャラクターもいて、自分にとっても大好きな作品でした。