Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

次の一歩が進められるなら…〜結城浩『数学ガールの秘密ノート 整数で遊ぼう』

3年前に『数学ガール』の一巻目を読んだときは、あまりの「ガチ数学」ぶりに衝撃を受け、全巻読破して新刊発売を心待ちにするような立派な大人になってやる!!…とチャレンジ精神を駆り立てられたものの、その内容の濃密さに足踏みしていた。
その後、『数学ガールlight』とでも言えるような入門編シリーズ(「数学ガールの秘密ノート」)が出ていることを知り、新刊が出るたびに気になりながら様子見…。
3冊目が出て、そろそろというタイミングで、ちょうど小学四年生が授業で素数を習うらしいと聞いて、素数を扱ったこの本の第2章「選べないのに見える数」をよう太*1に読ませてみた。予想通り、よう太も楽しく読んでいた(理解したわけではないw)が、自分にとっても、何か大きなきっかけとなりそうな本となった。

数学ガール』のいいところ

数学ガールのいいところは、「ほーら!エラトステネスのふるいを使えば、素数がどんなものか分かりやすいね〜。ちゃんちゃん♪」で終わらせないところ。一般的に「わかりやすい」と知られている方法の「紹介だけ」には絶対に留まらない、という作者(結城浩さん)の強い意志を感じる。
そして、その作者のポリシーを作品内で表現するのが、メインキャラクター達だ。素数を扱った第2章「選べないのに見える数」には以下の3人のキャラクターが登場する。

  1. エラトステネスのふるいの意味を正確に理解し、説明しながら頭の整理をする「僕」
  2. 人一倍の理解力で、僕の説明を自分なりに解釈し、「ふるい」を可視化するテトラちゃん
  3. 「ふるい」ではなく「素数」自体を観ようとするミルカさん


よくある「分かりやすい参考書」なら、きっと「僕」一人だけの説明で良しとするだろう。
その場合、「僕」と感じ方が似通っている読者しか満足させることはできない。(その他のうち多数が、「ふるい」で落とされる(理解出来ない)か、そもそも「ふるい」に入らない(内容を馬鹿馬鹿しいと感じる)。)
だから、『数学ガール』は、複数の登場人物に議論させ、自分に近い視点・理解度の登場人物を読者に探らせるような構造を取る。同一のものごと(数学的現象)に対して、学校で教えるような「ただ一つの正解」とは異なる複数の見方がある、ということを知ることができるのは大きな意味がある。
読者によって、もしくは扱う内容によって、特にミルカさんの説明は理解出来ないこともある。でも、3人の説明の全てが分からなくても、人それぞれに視点が異なる、ということは分かる。
そこが、数学ガールのいいところだと思う。

数学ガール』のおそろしいところ

その他の章では、「僕」の妹のユーリが出てくる。

  • 第1章「足しても引いても同じ数」
  • 第3章「数当てマジックと31の謎」
  • 第5章「ぐるぐるワンの作り方」


このうち、1章と3章はつくりは同じ。
ユーリが学校の授業で聞いた「3の倍数判定法」、雑誌の付録についていた「数当てマジック」について話してみせ、それに対して「僕」が、「なぜそうなるのか」という原理を単純な例示から始めて証明してみせる。
5章もこれに似ていて、ユーリが作った時計パズルに対して、僕が解き方を考える。1、3章との違いは、最初の段階で「証明しようとする法則」自体が定まっておらず、それを導くところから始める部分。5章は、この言葉を使ってしまうと一気につまらない感じが溢れてくる「最小公倍数」の問題だが、ユーリの「わかりやすさ」に対するしつこさ、理解に対する貪欲さで、楽しい読み物になっている。


そして数学ガールの真骨頂は、他の章に見られる謎かけ風のとっつきやすいタイトルをやめて、あえて「数学的帰納法」と銘打った第4章。
ここでは、2013年のセンター試験の問題を1問まるまる解説する。具体的な一問を、手を動かして考えることで、数学的に証明することの意味を学ぶことができ、最後にミルカさんが出てきてまとめるように「論理の力」の強さを知る。
このような難しい題材も、僕とテトラちゃんとのやりとりを通じて、一歩一歩進んで行ける、というところに『数学ガール』のおそろしさを感じる。
(難しいテーマをとっつきやすい読みものとして成立させているのは、キャラクター達の魅力と、そして何より「論理の力」があってこそだというのも素晴らしい。)

次の一歩

第4章「数学的帰納法」の副題「いつでも次の一歩が進められるなら、どこまでも行ける」で示されるよう、『数学ガール』は、次の一歩を進むためのヒントがたくさんある。よく出てくる「例示は理解の試金石」なんていうのはまさにそれで、利用できるのは数学に限らない。そして、それはたった一歩ではない。その一歩が踏み出せれば、もっと先に進めるのだ。
次の一歩を踏み出すことによって、これまで、そのハードルの高さに少し遠ざかっていた『数学ガール』本編を読み進めることだけでなく、色々なことに挑戦してみようという力の湧く本だった。

参考(過去日記)

新井紀子さんの2冊は、もともとが小学生〜中学生向けということもあり、よう太も何度も楽しく読んだ本。自分も大好きな2冊で、色々な人に読んでほしいです。

⇒自分の感想を読んでみるとやっぱり前向きな感想になっていて、結城先生の強い心を感じます。本家の『数学ガール』は読み進めます!!

*1:物語の形式が取ってあれば勉強本でも楽しく読む小学4年生