- 作者: 結城浩
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2013/12/18
- メディア: 単行本
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その後、『数学ガールlight』とでも言えるような入門編シリーズ(「数学ガールの秘密ノート」)が出ていることを知り、新刊が出るたびに気になりながら様子見…。
3冊目が出て、そろそろというタイミングで、ちょうど小学四年生が授業で素数を習うらしいと聞いて、素数を扱ったこの本の第2章「選べないのに見える数」をよう太*1に読ませてみた。予想通り、よう太も楽しく読んでいた(理解したわけではないw)が、自分にとっても、何か大きなきっかけとなりそうな本となった。
『数学ガール』のいいところ
数学ガールのいいところは、「ほーら!エラトステネスのふるいを使えば、素数がどんなものか分かりやすいね〜。ちゃんちゃん♪」で終わらせないところ。一般的に「わかりやすい」と知られている方法の「紹介だけ」には絶対に留まらない、という作者(結城浩さん)の強い意志を感じる。
そして、その作者のポリシーを作品内で表現するのが、メインキャラクター達だ。素数を扱った第2章「選べないのに見える数」には以下の3人のキャラクターが登場する。
- エラトステネスのふるいの意味を正確に理解し、説明しながら頭の整理をする「僕」
- 人一倍の理解力で、僕の説明を自分なりに解釈し、「ふるい」を可視化するテトラちゃん
- 「ふるい」ではなく「素数」自体を観ようとするミルカさん
よくある「分かりやすい参考書」なら、きっと「僕」一人だけの説明で良しとするだろう。
その場合、「僕」と感じ方が似通っている読者しか満足させることはできない。(その他のうち多数が、「ふるい」で落とされる(理解出来ない)か、そもそも「ふるい」に入らない(内容を馬鹿馬鹿しいと感じる)。)
だから、『数学ガール』は、複数の登場人物に議論させ、自分に近い視点・理解度の登場人物を読者に探らせるような構造を取る。同一のものごと(数学的現象)に対して、学校で教えるような「ただ一つの正解」とは異なる複数の見方がある、ということを知ることができるのは大きな意味がある。
読者によって、もしくは扱う内容によって、特にミルカさんの説明は理解出来ないこともある。でも、3人の説明の全てが分からなくても、人それぞれに視点が異なる、ということは分かる。
そこが、数学ガールのいいところだと思う。
『数学ガール』のおそろしいところ
その他の章では、「僕」の妹のユーリが出てくる。
- 第1章「足しても引いても同じ数」
- 第3章「数当てマジックと31の謎」
- 第5章「ぐるぐるワンの作り方」
このうち、1章と3章はつくりは同じ。
ユーリが学校の授業で聞いた「3の倍数判定法」、雑誌の付録についていた「数当てマジック」について話してみせ、それに対して「僕」が、「なぜそうなるのか」という原理を単純な例示から始めて証明してみせる。
5章もこれに似ていて、ユーリが作った時計パズルに対して、僕が解き方を考える。1、3章との違いは、最初の段階で「証明しようとする法則」自体が定まっておらず、それを導くところから始める部分。5章は、この言葉を使ってしまうと一気につまらない感じが溢れてくる「最小公倍数」の問題だが、ユーリの「わかりやすさ」に対するしつこさ、理解に対する貪欲さで、楽しい読み物になっている。
そして数学ガールの真骨頂は、他の章に見られる謎かけ風のとっつきやすいタイトルをやめて、あえて「数学的帰納法」と銘打った第4章。
ここでは、2013年のセンター試験の問題を1問まるまる解説する。具体的な一問を、手を動かして考えることで、数学的に証明することの意味を学ぶことができ、最後にミルカさんが出てきてまとめるように「論理の力」の強さを知る。
このような難しい題材も、僕とテトラちゃんとのやりとりを通じて、一歩一歩進んで行ける、というところに『数学ガール』のおそろしさを感じる。
(難しいテーマをとっつきやすい読みものとして成立させているのは、キャラクター達の魅力と、そして何より「論理の力」があってこそだというのも素晴らしい。)
次の一歩
第4章「数学的帰納法」の副題「いつでも次の一歩が進められるなら、どこまでも行ける」で示されるよう、『数学ガール』は、次の一歩を進むためのヒントがたくさんある。よく出てくる「例示は理解の試金石」なんていうのはまさにそれで、利用できるのは数学に限らない。そして、それはたった一歩ではない。その一歩が踏み出せれば、もっと先に進めるのだ。
次の一歩を踏み出すことによって、これまで、そのハードルの高さに少し遠ざかっていた『数学ガール』本編を読み進めることだけでなく、色々なことに挑戦してみようという力の湧く本だった。
参考(過去日記)
- 円周率はなぜ3.…から始まるのか〜新井紀子『生き抜くための数学入門』(2012年10月)
- 考えてわかる「体質」に〜新井紀子『ハッピーになれる算数』(2012年10月)
⇒新井紀子さんの2冊は、もともとが小学生〜中学生向けということもあり、よう太も何度も楽しく読んだ本。自分も大好きな2冊で、色々な人に読んでほしいです。
- 今から学ぶ人にこそ〜結城浩『数学ガール』(2011年4月)
⇒自分の感想を読んでみるとやっぱり前向きな感想になっていて、結城先生の強い心を感じます。本家の『数学ガール』は読み進めます!!
*1:物語の形式が取ってあれば勉強本でも楽しく読む小学4年生