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500年前の六太と尚隆〜小野不由美『東の海神 西の滄海』

東の海神(わだつみ)  西の滄海 十二国記 3 (新潮文庫)

東の海神(わだつみ) 西の滄海 十二国記 3 (新潮文庫)

国が欲しいか。ならば一国をやる。延王尚隆(えんおうしょうりゅう)と延麒六太(えんきろくた)が誓約を交わし、雁国(えんこく)に新王が即位して二十年。先王の圧政で荒廃した国は平穏を取り戻しつつある。そんな折、尚隆の政策に異を唱える州侯が、六太を拉致し謀反を起こす。望みは国家の平和か玉座の簒奪(さんだつ)か---二人の男の理想は、はたしてどちらが民を安寧(やすらぎ)に導くことになるのか。そして、穢れを忌み嫌う麒麟を巻き込む争乱の行方は。
Amazonあらすじ)

これまでの十二国記を読み進めてきて、王が変わってから500年ともっとも安定して何も問題がなさそうな雁国の出来た頃の話。
物語は、親に捨てられ、蓬山に行く前の六太(延麒)と、同様に崖から突き落とされ、「何か」のおかげで助かった更夜(こうや)の話から始まる。その後、六太が延王として尚隆を選んだ時期の物語と、それから20年が経ち、国造り半ばの雁国での元州の叛乱の物語が交互に進む。


今回の見どころは、常に飄々としているように見えた六太が、尚隆を王に選ぶ段階で相当に悩み、雁国の発展についても気に病んでいるところ。一方の尚隆が、自らが主だった一族(小松氏)の滅亡という大きな挫折を経て、王となったところも、順風満帆に見えた雁国の成り立ちに深みを与えている。
全体を通してみれば、尚隆の深謀遠慮と、囚われた六太を救出するという映画の主人公のような活躍が楽しいスペクタクルだが、そこに、尚隆の「国のために王が何をなすべきか」という十二国らしい国家観が骨格をなしており、物語をしてとても巧い。


これを読む前は、何となく尚隆はグイン・サーガでいうイシュトヴァーンなのかと思っていたが、読んでみて、スカールというぴったりのキャラがいることを思い出した。そう考えると、キャラクターが活き活きしているというか、人間的魅力に満ちた様々なタイプの人物を巧く書き分けることができているシリーズなんだなあと思った。(ところで、スカールについてWipipediaで読み返してみたが、かなり記憶と異なっていて驚いた。やはり、読み返さなくては…)
色々と気を揉みはするが、安心して読める一冊。筋も分かりやすいし、「魔性の子」なんかよりは、こちらこそ十二国記の最初の一冊として読まれるべき本と言えると思う。