Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

とにかくしつこい水木しげるネタ〜東村アキコ『主に泣いています』(1)

kindleで本は読まないが漫画は読む。
頻繁に行われている100円セールや無料セールの御蔭で、以前はスルーしていた話題作にもチャレンジすることが増えた。
特に東村アキコは、ママはテンパリスト海月姫、そして、主に泣いてますが、アニメ化やドラマ化などで一気に話題になった3年くらい前にも最後の一押しがなく、手が出なかった漫画家。
今回、能年玲奈主演の映画化でセール中だった『海月姫』(1)(2)を読んでみると、読みやすく面白く、絵柄もツボで、kindleに感謝しきりだった。
しかし感謝はそれだけでは終わらなかったのです。
併せて買った『主に泣いています』(1)が、かなりドツボ。あまりに面白くて短い時間に3度読んでしまったのでした。

死にもの狂いで非モテ道! あり余る美貌が故、絶対的不幸に苛まれる美人絵画モデル・紺野泉(こんの・いずみ)。涙腺、ゆるゆる。幸せ、ぽろぽろ。あの手この手で“非モテ道”に邁進する川沿い美人協奏曲、開演。これこそ、誰も描かなかった不幸――東村ワールド、炸裂です!!(Amazonあらすじ)


『主に泣いています』も『海月姫』も広い意味ではギャグ漫画だが、二つは大きく異なると思う。
(ともに連載初期しか知らないながら)『海月姫』のギャグが意味的な部分で面白いのと比べると、『主に泣いています』は、意味でなく、とことんパロディやナンセンスで勝負し、そのスピード感、テンポ感が絶妙。
ギャグ漫画の解説をするのはどうかと思うが、例えば、美術教室の助っ人講師の美大生・赤松(主人公)が、初めて「武装なし」の泉を見るシーンでのつねちゃんの動き。

  • 見開き2ページの大ゴマで瞬殺(恋に落ちる)
  • 画面左下小コマで、既に倒れつつある赤松の足下をつねちゃんが足払いの体制(スローモーション)
  • 次のページでもスローモーションは続き、「スパアン!」
  • …と足払いしたツネちゃんがかぶせるようにアップになって「泉さん!!!ムトウ!!!」とアドバイス


また、別のシーン。寿司屋の柳さんが泉に告白するシーンでのつねちゃんの動き。

  • 柳さん「泉さん、待ってくれ!」「俺は…」「俺はまだ…」
  • 柳さん「あんたのことが…」「あんたのことが…」(走って逃げる泉とツネちゃんのアップ)
  • 柳さん「好きだ……!!!」
  • …という3ページにまたがる柳さんの告白に対して、コンマ数秒遅れて(3ページ目の下半分で)ツネちゃんが走りながらここでもかぶせるように的確なアドバイス

これらのシーンは、単に「美人がふざけたカッコすると面白いのでは」という小学生的発想をギリギリまで煎じ詰めて、芸術的に昇華させているように思う。


だが、この漫画の「核」は、こういったギャグではなく、紛れもなく、料亭の一人娘で、美大を目指す女子中学生つねちゃん。
他のキャラクターと比べても異彩を放つ外見で、上條淳士キャラのような、切り絵のようなスタイリッシュさは存在感抜群で、写真トレースの背景にもマッチして、画面が締まる。
それだけでなく、ほとんど笑みを浮かべない三白眼は、時にマニアック過ぎて空中分解しかけるギャグの空気も締める。「つね」という名前も外見、性格とよく合っていて、この人なしでは、ここまでこの漫画は面白くならなかったのではないかと思う。


全10巻読んだあとの感想がどうなるかは知らないが、1巻は本当に面白かった。表紙も含めてしつこい水木しげるネタ*1も含めて、パロディが多いので、好き嫌いのある作品だとは思うが、色んな人とこの感動を分かち合いたい作品でした。
東京都墨田区向島を舞台にしていることや、名脇役のコモモのことなど、他にも書きたいことはあるけど次の機会にとっておきます。


海月姫』はストーリー的に次が楽しみです。

*1:第4話で赤松が「結局 今日も水木しげる先生のキャラを木炭紙に大きく描くだけの教室になってしまった」と嘆くシーンが最高です。