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薬物依存者を「追い出す」のか「救う」のか〜近藤恒夫『ほんとうの「ドラッグ」』

世の中への扉 ほんとうの「ドラッグ」

世の中への扉 ほんとうの「ドラッグ」

覚せい剤取締法違反で逮捕され、先日保釈されたばかりの清原和博被告についてのニュースは、今も続いている。報道の是非はあるが、こういう風に報道されているときは、考えるのにいい機会なので、改めて、薬物依存について、よう太に本を勧め、自分も一緒に読んでみた。


著者は、薬物依存者回復施設「ダルク」を開設した近藤恒夫さん。
小学生向けノンフィクションなので内容は薄いが、ダルクを主宰する人がどのような人がわかって良かった。
これまで、ダルクの存在は耳にしたことがあったが、それが薬物依存者向けの施設であることから、それほど歴史は古くないのではないか?主宰している人は、(20代で薬物依存経験のある)30〜40代の若い人なのではないか?と勝手に思っていた。
しかし、実際には、近藤さんは自分の父親よりも年上の1941年生まれの70代。覚せい剤取締法違反で逮捕されたのは39歳のとき(1980年)、と想像よりもかなり年配の方だった。
逮捕のあと、拘置所で3か月間を過ごし、懲役1年2か月、執行猶予4年の判決を受ける。このとき、近藤さんは、クスリをやめることができない自分の意志の弱さを心配して「このまま刑務所に入れてください!お願いします!」と何度も頭を下げたというが、休廷後、裁判長はこのように言ったという。

刑務所という自由のない場所で、自分の意志によらずに覚せい剤をやめさせられるのではなく、覚せい剤を使える自由の中で自分の意志でやめることのほうを、わたしはあなたにしてもらいたい。


こういった裁判長の温かい言葉に支えられ、また、アルコール依存症の人向けの団体・札幌MACを運営するロイさんの支援もあり、少しずつ前に進んでいけるようになる。
そして、MACでの活動に携わるうちに、薬物依存の人向けにも、受け入れてくれる施設が必要だと感じた近藤さんは、1985年にダルクを設立。ダルク設立は、今の自分よりも年長の44歳のときになる。最初に書いたように、新しい組織は、若い人が作ると思い込んでいたので、44歳でスタートというのは、完全に想定外で驚いた。


ダルクの薬物依存に対する考え方は以下の通り。ラジオ番組などで何度も聞いたことがあったが、改めて書き出してみる。

  • 今の日本社会では薬物依存を犯罪としか考えず、薬物依存者を落後者とみなして社会から追い出そうとする。
  • この方法では、執行猶予付きの判決が下りた多くの人を再びクスリに手を出させ、薬物依存者を減らすよりも、むしろ増やしてしまう。
  • 彼ら薬物依存症の人を受け入れて、守り、救うのがダルクの役目であり、今の日本の法制度に欠けている部分。
  • アメリカやカナダ、オーストラリアのドラッグ・コートは、社会的包摂を意味するソーシャル・インクルージョンの考え方に立っている。ドラッグ・コートは薬物依存者を罰する法廷ではなく、彼らに人間的な尊厳を取り戻すチャンスを与え、社会復帰を助ける法廷。
  • ドラッグ・コートのような司法システムが日本にも必要で、それまではダルクのような団体が薬物依存症患者に手を差し伸べていく。
  • 大切なのは、薬物依存者を社会全体で救おうという意識であり、そのために当事者以外の人たちも薬物依存についての知識を深める必要がある。


この「社会から追い出す」という部分は具体例を考えると分かりやすい。
たとえば、覚せい剤や薬物への誘惑を絶つ「ダメ!ゼッタイ!」もしくは「覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか」のポスターに、これまで全く疑問に感じることは無かったが、問題が大きいという。
これらは、薬物に手を出す歯止めになるという効果はあるものの、一度、手を出した人間にとっては、「自分はもう人間ではないのだ」という社会との隔絶を感じさせるだけで、さらに薬物依存を助長する原因にすらなるという。
今回の件についても、思い入れのあったミュージシャンの時と比べると、清原に対して優しい気持ちにはなれず、自分の目線も「社会不適合者」を見るそれになっていたかもしれない。
勿論、それ自体が犯罪ではないアルコール依存と比べて、所持だけで犯罪となる薬物依存の場合は、社会で包摂していこうとはなかなか難しいだろう。しかし、再犯可能性などを考えた上で、社会全体の安全度を高めるために、どのような方向性がいいのか、よく考えて社会システムが設計されてほしいし、有名人逮捕などの問題が出るたびに考えていきたい。


〔参考〕ポスターのフレーズについては、以下に詳しい。「危険ドラッグ」などの名称問題についても。

  • 薬物問題、いま必要な議論とは(松本俊彦×荻上チキ)|SYNODOS


以前も書いたことがあるが、自分が薬物依存症に興味を持った機会は2度あって、1度目は、中学校時代の道徳ドキュメント番組。薬物を断ち切って更生した主人公が、それまで支えてくれた女性と結婚するというストーリーだったが、結婚式場のトイレを映すラストシーンでは、主人公がクスリを使ってしまう。当時の自分には本当にショッキングな終わり方だった。
2度目は、言わずもがなの岡村靖幸岡村ちゃんは、それこそ皆から受け入れられ、最新アルバム『幸福』のプロモーションでも、幸福の条件として「健康」を挙げていたから、今は心身ともに健康で、薬物の影響からは脱しているのだろうと信じている。一方で、アルコール依存や性依存の本で読んだ通り、「治らない」のが依存症の怖いところなので、いまだに、岡村靖幸の新曲はこれが最後かも、ライブはこれが最後かも、と思ってびくびくしている。


よう太も、自分には直接関係がないと感じたかもしれないが、最後まで読んでくれた。こういった薬物や薬物依存、また、アルコール依存に関する知識は、学校でどの程度教えるものなのかはわからないが、できるだけ若い時期に学んでおくべきものだと思う。その意味では、この本が小学生向けノンフィクションの形で出ていることにはとても意味があると感じた。