Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

「面白さ」がわかってきたかも…ヤマシタトモコ『Love,Hate,Love.』

Love,Hate,Love. (Feelコミックス)

Love,Hate,Love. (Feelコミックス)


ドントクライ、ガール』『ミラーボール・フラッシング・マジック』『HER』と、ヤマシタトモコ作品を読んできたが、これまでで一番受け入れやすい作品だった。
あとで述べるが、自分がこの人の作品を読む場合、面白い、面白くないというよりは、まずは受け入れやすいかどうかという評価になると思う。
逆に言えば、自分の求める面白さの幅は狭く、ヤマシタトモコはその縁(ふち)にいるので、枠の外にはみ出た部分が多いと、すぐに消化不良になってしまう。

これまで自分が考えてきた「面白さ」

人それぞれ違いがあると思うが、自分の評価が高くなる作品というのは、作者の意図や取り上げたいテーマが分かり、その扱い(メッセージ)に共感できるようにストーリーや構成が練られている本ということになる。
最近読んだ漫画で言うと、以下の2作品の評価が低くなってしまったのは、全く逆の理由による。

  • 西炯子『お父さん、チビがいなくなりました』

 ⇒取り上げたいテーマはわかるが、ストーリーに難あり。

 ⇒ストーリーや構成は練られており、読みやすいが、最終的なメッセージが理解できない。
いずれにしても、ストーリー重視というのは大前提で、そこに登場人物の成長が描かれている作品が好みだ。さらにメッセージや登場人物の扱いから作者の誠実さが垣間見えるととても嬉しい。
ここまでに挙げた点は、そのまま、よしながふみ『愛すべき娘たち』や角田光代対岸の彼女』が面白いと感じた理由になる。

ヤマシタトモコ作品の「面白さ」

さて、ヤマシタトモコ作品は、こういった評価にそぐわないようだ。1冊完結作品しか読んだことがないということも関係があるのかもしれないが、アンチ・ストーリー、アンチ・成長という、ひねくれた印象を受ける。
もっと言うと、登場人物が作品内世界で生き生きと暮らしていれば、それでいいのだ、という開き直りを感じる。ストーリーを駆動させるために、悩みやコンプレックスがあるわけではなく、登場人物それぞれの個性として、自然と悩みが漏れてしまっているだけなのだ。


たとえば、『Love,Hate,Love.』で言えば、主人公の貴和子は28歳で男性経験がないことが1つのポイントだが、作品内では、それは終始変わらず、むしろ「ネタ化」されている。弱点がキャラクターの個性として大切にされ、変化することは許されないようにも見える。


つまり、ヤマシタトモコの作品は、ストーリーテリングの面白さ(意外な展開)や、伝えたいメッセージのためではなく、登場人物の魅力を最大限に引き出すことを目的として作品が作られているように思う。ストーリーは2の次だ。
繰り返すが、自分が好きなタイプの典型は、登場人物が、ぶつかった壁を乗り越えたり、悩みに対して前向きになったりするものなので、それらとは全然違うアプローチになる。


ただ、こういうタイプの漫画は、「巧い」から成立するのであって、そうでないと読むこと自体が難しい。
今回で言えば、貴和子がずっとバレエを続けてきたということが、彼女の魅力を、漫画の魅力を引き立てる設定になっている。
まず長く続けてきたものを諦めようとしているということが、短く髪を切る冒頭の場面ですぐに表れ、さらにこんなにもスキなバレエが自分を愛してくれなかったという貴和子の心の核の部分は、タイトルである『Love,Hate,Love.』にも直結する。
バレエを踊るシーンに絵的に説得力があるからこそ、貴和子がバレエへの愛情が伝わってくるし、踊る場面で強調される長い手足は、やはり貴和子の魅力を引き立てる。(ヤマシタトモコ作品では、長身、短髪、三白眼がヒロインの最大要素か…)
さらには、踊っているところをタクシーの窓越しに縫原に見られるというシーンや、ベランダで縫原と話しているうちに楽しくなって足を振り上げるシーンは、一瞬で貴和子の魅力を捉える映画的な場面になっていると思う。
いずれもコマ割りなどの漫画的な巧さと、体の動きを描写するデッサン力がないと、ヤマシタトモコ作品のようなスタイリッシュなものにはならないと思う。

これからのヤマシタトモコ作品との付き合い方

…というように、この人の漫画で重視されているのはストーリーじゃなくキャラクターなんだと考えると、これまで読んだ中で、『ドントクライ、ガール』や『Love,Hate,Love.』が気に入った理由は、登場人物が好きだから、のただ一点だと気が付く。どちらのヒロインも、可愛らしく、けなげだし、相手役の男性も控え目で、「俺が俺が」というタイプではない。さらにどちらの作品も、年の差カップルなので、男女どちらの良さも引き立てるような関係性になっている。
ドントクライ、ガール』を読んだとき、何でこんなに面白い漫画が、1冊にもならない長さで終わってしまうんだろうか、と思った。しかし、考えてみると、ストーリーが広がってしまうこと、登場人物が変わってしまうこと、はヤマシタトモコ作品にとっては、その良さを消すことに繋がるのかもしれない。
短い旬の美味しさを、まさにそのときに料理して食べてもらうのが、ヤマシタトモコの漫画の良さなのだろう。
なんか、少しわかってきたような気もするので、わからん、と感じた『HER』と『ミラーボール・フラッシング・マジック』を読み直してみよう。

参考(過去日記)

⇒やっぱり今思い出しても面白い漫画。『Love,Hate,Love.』もbonus truckで、貴和子が縫原に「朝のうちに10?くらい走って あとちょっとバッティングセンター行きたいんですけど、一緒に行きます?」と聞くシーンとかは同じ感じかも。

⇒やっぱりこの漫画は大好き。本文中に書いた理由で大好き。

⇒すーちゃんシリーズは、全然ジャンルが違うんだけど、キャラクターが魅力的。キャラクターの思考が魅力的、かつ、テーマがいつも上手。