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パンダと動物園の関係〜阿部展子『パンダ飼育係』

パンダ飼育係

パンダ飼育係

上野動物園で、主にパンダ(雄のリーリーと雌のシンシン)を担当する飼育員として働く阿部展子さんが、パンダに魅せられ続けてから、飼育員になるまでを描いた本。
日本中国友好協会のweb記事が、ちょうど本の概要説明のようになっている。


そちらにも書いてあるが、阿部展子さんは、農業大学卒業後に上野動物園勤務…というような、何となく思い浮かべるイメージとは異なり、もともと文系。パンダ⇒中国ということで、外国語学科の中国語コースから中国に留学して、中国の農業大学で勉強してからパンダ基地で働くという、かなりエネルギッシュな経歴だ。
2、3歳の頃からパンダのぬいぐるみを離さないほどパンダ好きだった阿部さんは、それを職業としようという考えは当初は無かった。高校3年生になって初めて、パンダに関わる仕事を調べ、ちょうどその頃に見た、中国四川省臥龍ジャイアントパンダ保護研究センターのドキュメント番組がきっかけとなって、大学を決めたという。
入学したのは杏林大学国語学科の中国語コース。大学3年生のときに入学当初から決めていた中国留学を決めたあとの歩みはこんな感じ。

  • 2004年夏から中国の河北大学に約1年間留学
  • 春節前後の長期休暇時に四川旅行に行き、臥龍ジャイアントパンダ保護研究センター、成都パンダ基地を見学。
  • パンダに関する論文を書いて卒業後、2006年9月に四川農業大学に留学。
  • 2007年2月に雅安のパンダ基地で1週間の飼育実習。
  • 2008年5月に、四川大地震
  • 2009年2月から成都のパンダ基地で5か月間の実習。
  • 3年生夏休みで卒業論文を書き終え、2009年9月から大学に籍を置いたまま成都パンダ基地で働くことに。
  • リーリー、シンシンを迎え入れるのにあたって、2010年10月から上野動物園で働き始める。

河北大学では多くの留学生の中の一人だったのが、四川農業大学では、外国人自体がほぼいない環境での大学生活というのがまず驚き。どうしてわざわざ訛りの強い四川の大学に入ったのか?という質問に対して、「パンダの勉強がしたかったから」と答えると、「どうしてそんなにパンダが好きなのかわからない。変態だ」と言われたエピソードは面白い。どうも中国にはパンダ好きはあまりいないようで、阿部さんも不思議に思っている。何でなんだろう?


研修から就職までの約1年半の間に60頭以上のパンダを飼育した経験は、上野動物園で活かされる。
4章では、まるまる上野動物園での仕事やシンシンとリーリーの話に割かれるが、一番興味を持ったのは妊娠と出産のこと。
今も続いているが、自然交配での繁殖へのチャレンジはなかなか大変だ。メスのパンダの発情期間は3月〜5月の12〜25日間で、その中で訪れる発情のピークは約3日間。その間に、同じように発情ピークを迎えたオスとめぐり合う必要があるというから飼育下では、ほぼ無理のようにも聞こえる。それでもうまく交配させ、妊娠に結び付けることができたのだから、2012年のフィーバーは、飼育員にとっても喜びは大きかったようだ。しかしわずか1週間で死亡という辛い結果になってしまった。

この2頭については、今年の2月にも10日間ほど展示を中止して様子を見る機会があったものの、発情のピークを迎えることがなかったようだ。ということは、(発情期は3〜5月までということなので)今年はまだチャンスがあるのかも…。阿部さんたちの取り組みが上手くいってほしいと願うばかり。

展示を中止してからは、2頭を柵越しにお見合いさせるなど、行動の変化を注意深く観察してきました。

リーリー(オス)は、シンシン(メス)に対して強い興味を示し、動き回る、恋鳴きをする、匂いつけを頻繁にするといった行動の変化、シンシンにも行動量が増える、リーリーの鳴き声に応える、体の一部を水に浸けるなどの変化が観察されました。

このような発情に伴う行動の変化は現れているものの、発情のピーク時に見られるような、柵越しに同じ動きをする、頻繁に鳴き交わす、メスがオスを許容するような行動は見られませんでした。

尿中ホルモンなどの生理学的データからも発情兆候が確認されましたが、ピーク時のような大きな変化が現れず、行動と生理学的データから総合的に検討して、今後お見合いをさせても、同居および人工授精の機会はないものと判断しました。
UENO-PANDA.JP


一番最後に、パンダの飼育の意義についても語られている。

2012年の調査で、世界各地で飼育されているパンダは341頭ということがわかっています。また、野生のパンダは約1600頭といわれています。
これからのパンダの保護は、ただ数を増やすのではなく、それぞれ個体の質を重視し、少量でも質の良いパンダを繁殖させていき、やがてはそのパンダを野生に返し、野生での生息数を増やそう、という流れになっています。p156

阿部さんの望むのは、動物園のパンダをすべて野生に返して個体数を増やすこと。そのために、パンダの生態を含め基本的なことを、もっとよく知るという目的で、今は飼育というかたちでパンダの保護に携わっているという。
以前、動物園が何のためにあるのか?という疑問を持って、本の感想を書いたこともあったが、パンダについては、生態研究という明確な目的があるのだな、と興味深く読んだ。


次はこれかなあ。

パンダ育児日記

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おつかれっ!  毎日パンダ

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