Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

「課金マウンティング」と少年隊ラジオ~劇団雌猫『浪費図鑑 ―悪友たちのないしょ話―』

2017年初刷なので、少し前の本になるが、各種の沼にハマってしまった人たちの「推し」への愛以上にその「出費」に目を向けた本。目次を見ると、どんな趣味が取り上げられているのかがわかる。

◎はじめに

◎第一章 浪費女の告白(匿名エッセイ)

  • あんスタで浪費する女
  • 同人誌で浪費する女
  • 若手俳優で浪費する女
  • 地下声優で浪費する女
  • EXOで浪費する女
  • ロザンで浪費する女
  • 乃木坂46で浪費する女
  • 宝塚歌劇団で浪費する女
  • 東京ディズニーリゾートで浪費する女
  • V系バンドで浪費する女
  • ホストで浪費する女
  • コスメカウンターで浪費する女
  • ●ン十年前の特撮作品で浪費する女(丹羽庭)

◎第二章 竹中夏海(振付師)スペシャルインタビュー

◎第三章 High&浪費ナイトイベントレポート

◎第四章 浪費女2000人アンケート

◎第五章 劇団雌猫座談会

◎おわりに

色んな沼にはまりお金を使う人は実際に見聞きすることもあるので、第一章の匿名エッセイは、そういう人もいるんだろうね~という感じで読んだが、面白いのは第4章の2000人アンケート。
勿論、「浪費」している自覚のある人へのアンケートだから極端な回答は出るであろうが、2000人に対して行ったアンケートで、「クレジットカードが止まったことがありますか?」の質問に「ある(限度額に達して)」11%、「ある(支払いの遅延)」11%はちょっと怖い。後者は、いわゆるブラックリストに載ってしまう状態。そして「貯金額はいくらですか?」という質問に「貯金なし」20%もすごい。
勿論、人生の中の数年の話なのかもしれないが、この辺りを読んで、怖くなってきてしまった。
たとえ自分で稼いだお金だったとしても、自分の恋人や子ども、もしくは子どもの恋人が、趣味に稼いだ金額のうち生活費以外を全て注ぎ込んでいたらどうしようか…。


自分がそうだから趣味にお金を使うのは全く問題ないけど、度を越している場合、どこまで寛容でいられるかと言われると自信がない。
さらに、「ある特定のジャンル」については、やっぱりこれはダメなんじゃないか、というジャンルがあった。そのジャンルに比べれば、ホストで浪費するのは、むしろ理解できる。若手俳優の舞台チケットがはけないことに心が痛み、貯金ゼロにも関わらず「追いチケ」してしまう、というのも分からなくもない。


絶対にハマってはいけないジャンルというのは、ずばり、ソシャゲ。


この本の最初で出てくる「あんスタで浪費する女」が凄すぎる。
あんさんぶるスターズ!」というスマホ向けゲーム、略して「あんスタ」の項で出てくるのが「課金マウンティング」という概念。
つまりは、ファン同士で「課金額を公言し、ガチャを回した記録をSNSにアップし、推しキャラのガチャや誕生日ガチャでは死ぬ気でガチャを回す」という、マウントの取り合いがコアファンの間では重要なゲームなのだという。(2017年当時:今は知りません)

課金マウンティングはしんどいです。Twitterでフォロワーがガチャを何十連もしたスクショを貼っている時、イベントランキング上位の画像を貼る時、コンテンツを愛しているならお金を落とさなきゃと語る時、頭のなかで、生活費をあとどれくらい削ればいいのかの計算がはじまります。けど、私も結局、言い訳しながらも、推しのえっちな絵が欲しい。そんなとき「課金マウンティングが大変だから仕方なく」の旗のもとに、課金のアイコンをタップするのです。
p11


別の場所ではこんなことを書いている。

「あんスタ」は、課金アイテムを使い続け、タップを延々と繰り返し、指紋と貯金をすり減らしてカードを手に入れるアプリです。そこにゲーム性は一切ありません。楽しいかって?別に楽しくねーよ。指紋減らすだけの作業がたのしいわけないだろうが。

そこまでわかっているのに何故…。


自分は高校生の頃に読んだ『メディア・セックス』(オカルト書に近い扱いなのかもしれない)では「サブリミナルコントロール」について繰り返し書かれていて、自分が「衝動買い」に慎重なのは、この本の影響がとても大きい。サブリミナルコントロールについては、コカ・コーラのCMの例がよく出される。

1957年9月から6週間にわたり、市場調査業者のジェームズ・ヴィカリー(James M. Vicary)は、ニュージャージー州フォートリーの映画館で映画「ピクニック」の上映中に実験を行なったとされている。ヴィカリーによると、映画が映写されているスクリーンの上に、「コカコーラを飲め」「ポップコーンを食べろ」というメッセージが書かれたスライドを1/3000秒ずつ5分ごとに繰り返し二重映写したところ、コカコーラについては18.1%、ポップコーンについては57.5%の売上の増加がみられたとのことであった(Wikipediaサブリミナル効果

その後、このサブリミナル的な表現方法は世界的に禁止されているようだが、重要なのは、自分の内から出てきたはずの「ほしい」という気持ち自体が、商品を買わせたい他者からコントロールされているということがあり得るということだ。
実際、サブリミナル広告でなくても、テレビのCMがきっかけで飲食物を衝動的に購入した直後に、あまり飲みたくなかったな、食べたくなかったな、ということに気がつくということはザラにある。
また、よくよく考えてみると、モノが欲しいのではなく、お金を使うことそのものを欲している時もある。
深層心理的には、何か切実な欲求があり、例えばそれは人とコミュニケーションしたり、運動をしたり、何かの表現をしたりすることで満たされるものなのかもしれないのに、安易に消費欲求に置き換えてしまう、ということもある。


勿論、「本当に欲しいもの」ではないとわかっている「無駄なもの」を買うのが楽しいことはわかる。
しかし、欲求を他者からコントロールされていることがあからさまで、かつ、手に入るものが実質的にはコピー可能なデータであることを考えると、やはりソシャゲを楽しむのには節度が必要だと思う。
後半の座談会でも、1つのイベントのガチャで5万、10万、20万とかける方の話が複数出てくるが、他人だったら笑い話だが、家族にいたら勘当クラスだし、ショックで眠れないかもしれない。*1
しかも「課金マウンティング」は、ライバル(推し仲間)同志で命を削り合う、いわばチキンレース。ここから抜け出せないのは、欲望をつかさどる脳の機能がバグっているのだと思う。ギャンブル依存症と同じだ。
この本にはギャンブルが出てこなかったのは、ギャンブルを入れてしまうと凄惨な内容になるからだろう。でもソシャゲは限りなくそれに近い。
…と、ここまで書いてきて思い出したが、最近「あるアニメ」で、ソシャゲ中毒者の暗転する人生を見たから、ソシャゲに敏感になっているのだと思う。
ワクチン接種のように、中高生には、ソシャゲ中毒者のフィクション・ノンフィクションを見せるのがいいかもしれない。


なお、自分の思う、沼にハマり過ぎてしまった人たちの理想的なお金の使い方は、この、少年隊ファンのラジオの話。こんな風に多くの人が幸せになるようなお金の使い方だったら家族だって応援したくなる。趣味へのお金の使い方と、他者(家族)の「浪費」に対する寛容の心をどこまで持てるかという問題は、なかなか難しいなと思った本でした。
togetter.com

*1:いや、前言撤回するが、ホストに一晩でうん十万かけるのも嫌だな…