Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

もっと『メギドの火』っぽいと良かったな~樋口真嗣監督『シン・ウルトラマン』

自分はウルトラマン世代というには少し年代が下で、リアルタイムの放送は「ウルトラマン80」で、再放送(マン、新マン、セブン、タロウ、エース、レオ)をちょこちょこ見ていたが、怪獣大百科はよく読んでいた。
その後、関連著作を読んだことをきっかけに5~6年前に有名エピソードをいくつか見た程度で、ものすごい思い入れがあるというわけではないが、話題作なのでネタバレが怖く、公開から1週間というタイミングで劇場に急いで観に行った。
急いだとはいえ1週間の間で、既にいくつかの情報を耳にしていた。

また、そもそも「重大なネタバレ」があるような映画ではないらしい。『シン・ゴジラ』や『シン・エヴァンゲリオン』『シン・仮面ライダー』との接点があったりはせず、また、ラストも穏当なものなのだろうと想像していた。

感想と「シン」の意味

実際に見た感想は「普通に面白かった」。
「普通に」の意味は、ウルトラマンの既定路線から、デザインもストーリーも大きく外れることなく、という意味。
パンフレットにある樋口真嗣監督のインタビューが全てだと思う。

-『シン・ゴジラ』に続いての”シン”を冠した作品として、繋がっているなにかはあるのでしょうか?

これは『シン・ゴジラ』もそうだったんですが、過去に作られた、僕らが観て育った素晴らしいものを、どうすれば今の人たちに同じような感覚で伝えられるのかを考えましたね。例えばオリジナルの「ウルトラマン」が良かったと僕らが言っても、あの作品は物語自体が未来の話だけれど、今観ると過去のものに見えてしまう。その題材を、オリジナルを知らない新しいお客さんに見せる時に、今の物語、映像としてアップデートして提供することで、僕らが少年時代に熱狂した感じを共有してもらうことができるのではないかと。(略)


ウルトラマンの最大の発明は、宇宙人と人間が一つになることだと思うんです。それによって人間ではないウルトラマンを通して、人間というものが見えてくる。人間とはどういう生き物で、今までどういう風に生きてきたのか。そして人間にはどういう未来が待っているのか。それを観る人に問いかける、『シン・ゴジラ』以上に人間の話だと思いました。『シン・ゴジラ』の場合は、ゴジラの上陸によって起こる状況を積み上げていくことで成立する話でしたが、今回はウルトラマンであり、神永という人間でもある主人公の感情や意識が、物語を動かしていく。そこに大きな違いがあると思います。

まさにその通りで、ウルトラマン=地球人ではないものの存在の判断に、地球人の運命は委ねられる。
ウルトラマンの設定がもともと持っている面白さが存分に発揮された映画だったと思う。
ただ、それならば、人間に対してもっと強い「警告」を与えるような物語であってほしかったという気持ちもある。(後述)

セクハラ騒動

鑑賞時にノイズとして働いたのは「セクハラ」騒動。
どうも作品内での長澤まさみの扱いを、「時代に合わない」「感性がアップデートされていない」というトーンで怒っている人が多いらしく、漫画で言うと「スカートめくり」や「しずかちゃんの入浴シーン」的な内容かと想像していた。
ということで、まずそのことが気になってしまい、映画を見て、どこがセクハラなのか目を皿のようにして見た。

  • おしりを叩いて気合を入れる場面でおしりがアップになる場面が何度も出る。自分は全く効果的とは思わないが、あれが「時代に合わない」表現とは思わなかった。
  • 巨大化シーンも警戒したが、ほとんど問題を感じない。
  • そして「におい」のシーン。物語上の流れとしては自然で、女性蔑視的な扱いがあるとは感じない。浅見分析官(長澤まさみ)が嫌がる様子を面白がるシーンであることは確かだが、そこにあまりセクシャルな内容を感じなかった。(浅見分析官が男性であっても同様に面白がれるシーンと思った)

ということで、騒動になるシーンがどれなのか少しわからなかった。自分の感性がまだ古い可能性がある。

ウルトラマンの造形

当然だけど、とてもウルトラマンっぽかった。
原作との比較で語れるほどウルトラマンを知らないけれど、首から頭にかけての非人間的な感じがたまらない。
ただ、一部場面ではCGならではの「ちゃち」な感じは拭えなかった。この感じは何だっけと思っていたらパンフレットでVFXスーパーバイザーの佐藤敦紀さんが「昔のCMキャラクター・ペプシマンみたいにならないように」*1という表現を使っていて「それだ!」と。

特に、ゼットン戦の最後(異空間に吸い込まれていく?場面)の表現はカッコよく感じず解せない。


ところで「禍威獣」「外星人」ではなく「兵器」として登場するゼットンは、今作の一番のサプライズだろう。しかもそれがゾーフィーが用意した地球への「死刑宣告」という設定が面白いし、何よりデザインが素晴らしい。


なお、禍威獣、外星人のデザインでは、やはりザラブの、正面は普通なのに、背面から見ると極端に凹んだ、びんぼっちゃまのようなデザインが面白い。触りたい。

キャストに関してメモ

『真犯人フラグ』の西島秀俊田中哲司が禍特対の部下・上司として登場。
『鎌倉殿の13人』三浦義村役の山本耕史メフィラス星人として登場。
『ドンブラザーズ』桃井陣役の和田聰宏が神永の公安時代の同僚として登場。
『大怪獣のあとしまつ』の外務大臣・国防大臣が、首相、防災大臣として登場。(嶋田久作岩松了

斎藤工は、自分にとって「Indeed」のCMの人で、観る前は適役なのかよくわからなかったが、とても良かった。何を考えているのかよくわからない雰囲気が最初(ウルトラマンとの融合前)から醸し出されていて、全く違和感が無かった。
メフィストとのブランコ、居酒屋対話シーンも楽しかった。

唐突に『メギドの火』

ザラブ、メフィラス、そしてウルトラマンと3種の外星人が登場する本作品は、樋口真嗣が語る通り、「外」からの視点で地球人類を眺めるところが物語の最大の魅力であるように思う。
一方で、(「ウルトラマン」原典にはあるのだと思うが)突き放したようなエピソードはやや抑えめであることが残念だ。
この種のカタストロフ的作品にあたる時に、自分が思い出すのは、小学校高学年の時に読んだつのだじろう『メギドの火』(全3巻)。この話にも対立する宇宙人が登場する。


かなり前から、なりすまして地球人として暮らし、地球征服をたくらむメギデロス。それに対して、宇宙の平和を守る「宇宙連合」は、それをサポートする地球人・コンタクトマンを全世界に配置し、メギデロスの企みを阻止しようとする。
地球人がその愚かさから最悪の状況に至るラストシーンは、ショッキングであると同時に、1999年を控えた小学生にとっては非常にしっくりくる内容でもあった。
『メギドの火』では、宇宙連合がラスト近くに、コンタクトマンである主人公に対して「愚かな地球人」の切り捨てを提案するが、『シン・ウルトラマン』では、ゾーフィーも「愚かな地球」を滅ぼすためにゼットンを用意する。
皆が見上げる青空に浮かぶゼットン。自分が『シン・ウルトラマン』で一番興奮したのはこのシーンで、とても『メギドの火』的だった。


ところが、ラストでウルトラマンゼットンに勝利することで、この「警告」感は薄れてしまう。「叡智を結集すればすべては解決する」というのも、いつものパターンで、現実にはそうは巧く行かないだろうと、気持ちが冷めてしまう。
同様に「叡智を結集すれば解決する」流れの『シン・ゴジラ』のラストは、「解決していない」ことが明確に描かれるのが特徴的だった。『メギドの火』ほどのバッドエンドではないが、「何も解決していない」ことが「もの」として残るという意味で、観客に強い「警告」を与えるものだったし、震災遺構の問題を抱える中で見る『シン・ゴジラ』は、強く現代日本とのつながりを意識させるものだった。


もちろん、だから『シン・ウルトラマン』はダメだという意味ではなく、『メギドの火』が大好きな自分としては、この終わらせ方は好みに合わなかった。

そのほか

今回、ストーリー等を改めて復習する際には、ピクシブ百科事典が大いに役に立った。分量も多過ぎず、イラストもあるだけでなく、ネタのフォローが豊富で、「はてな」が最も面白かった時代を思い出した。

特に、メフィラスが居酒屋で飲み食いするシーンで「ラッキョウ」を食べていることについての指摘や、にせウルトラマンとの格闘シーンでの原典の迷場面の再現などなど、細かいネタ情報が豊富で読んでいて楽しい。

もちろん、メフィラスやゼットンなどの著名怪獣のシリーズ登場回についても詳しく、Amazonプライムでも近作であれば無料で見ることが出来るので見てみたい。「ジード」は少し見ていたので、とっつきやすいかな。


関連作品は、メフィラスが主人公のこちらや、小林泰三*2の『ウルトラマンF』が読みたい。


過去日記

pocari.hatenablog.com
6年前に読んだこの本は、ティガ、メビウス、マックス、ギンガSなど、平成ウルトラマンのエピソードも多く紹介されており、ウルトラマンに強く惹かれるきっかけとなりました。改めて読み直したい評論です。

pocari.hatenablog.com
シン・ゴジラの感想は、自分の文章にしてはとても読みやすい!こういう軽い文章を書けるようになりたい。これも上の本と同時期の文章か…。

*1:ペプシ・マンのようにつるんとし過ぎないように、ウェットスーツを着せたような感じになるよう加工している

*2:2020年にがんのため58歳の若さで亡くなってしまいました…