Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

痛い!でもまた観たい~白石和彌監督『死刑にいたる病』

これは宮﨑優の映画

W主演の阿部サダヲ、岡田健史の演技は勿論、印象に残る。
それでも、やはり、加納灯里役の宮﨑優さんの映画だったでしょう。この映画は。
それなのに、パンフレットを買ったら、期待していた彼女の情報がほとんどなくて残念。
パンフレットに掲載されているキャストのインタビューは

それ以外の7名が2ページにわたってプロフィール+数行のコメントのみで、宮﨑優は、そのうちの1人。
座談会は、白石監督×阿部サダヲ×岡田健史で、これはこれで良かったけど、個人的には、宮﨑優×岡田健史の対談を見たかった。

映画が始まってからしばらくの間、W主演の二人に注目して映画を見ていると、途中で出てくるのが宮﨑優。登場した最初の印象は、「美人!」「可愛い!」という印象ではなく、まさに「異性の同級生」というそれだけの役。
その後の登場シーンも、彼女の仲間と筧井雅也とのやり取りにイライラするも、わざわざここまでしてあげるのは好意があるからなんだろうな、と、雅也の視点から見て、彼女の存在が大きくなっていく。
髪をかき上げる仕草がスローになり、爪に目が行ってしまう場面は、(もちろん、「爪」はこの作品で特別な意味を持つとはいえ)少し性的なニュアンスが含まれる。雅也にとっての心象風景の描写なのか、彼女がわざとそう見せているのか…。
そして、土砂降りの雨の中を家の前で待っていた灯里が、手の甲の傷を舐めるシーン*1で、ドキッ!としてその後のラブシーンで一気に持っていかれ、衝撃のラストシーンに至ると、灯里の存在の大きさは初登場時の10倍、100倍のレベルだ。

魅力的なヒロインは色んなパターンがあると思うが、「可愛い」「いやらしい」「悪女的」「小悪魔的」、そんな言葉では括れないくらい、映画の中の灯里の存在は魅力的だった。灯里の全登場シーンを確認するだけのために映画全編を見返したい。


見返したいか、と問われれば…

でも、やっぱりこの映画は、見返すには厳しい。
そもそも、冒頭から目を背けてしまった映画だ。(なお、冒頭のシーンは、奇しくも最近読んだ漫画『チ。』の冒頭シーンとよく似ているが、本当にああいうのやめてほしい)
そして何より、最後の犠牲者である根津かおるが「真犯人」から必死に逃げ出そうとするシーンは、怖過ぎるし、辛過ぎる。
雅也が榛村大和に翻弄され、信頼した挙句に父と誤解してから、その正体を暴くまでの流れももう一度見てみたいが、あまりに「痛い」シーンが多い映画だった。

そのほかの役者

中山美穂は最初から「宙に浮いた感じの頼りなさ」がよく出ていて魅力的だった。
しかし、岩田剛典がなぜあの役をやる必要があったのかは本当に疑問。自分には長い髪がどこかコスプレっぽく映ってしまい、集中できなかった。

パンフレットでの白石監督の言葉

パンフレットには、当然白石監督のインタビューがあり、ホラー部分についての留意点についても記載があった。こういう時代だからわざわざ聞いているという部分もあるのだろうが、とても安心できる言葉で、これを読めただけでもパンフレットは買う価値があった。

回想パートでは、若き日の大和がコントロールした子供たちが傷つけられるシーンを撮る必要がありました。カッターや血などはCG処理です。子役の皆さんには負担のないように、撮影現場では細心の注意を払いました。本当に子供って、大人が思っている以上に心のダメージを受けたりしますからね。

~「作品としての攻め」を目指すからこそ、撮影現場ではデリケートな配慮、仕事環境としての健全さが不可欠になると。
はい。また今後、たとえ現場では同意や了解のもと撮影していても、もう世界がその描写を受け入れないようなものはダメですね。こちらの意識も常にアップデートしていく必要があると思っています。

タイトルの違和感

そもそも、この映画は、見に行く予定がない作品だった。
池袋で開催されている桂正和展に行くことが決まっていて、その前に、行ったことのないグランドサンシャインで映画が観たい→ちょうどいい時間にやっている映画は?という流れで探した映画だが、タイトルがいただけない。


キルケゴール死に至る病』がまずある。死に至る病は「絶望」のことだ。
それを踏まえて、我孫子武丸『殺戮にいたる病』がある。これも、連続殺人犯がなぜ殺戮を繰り返すのか、という心の流れを書いたものだろう。(未読…なのか…?記憶にないが…)
それらがあっての『死刑にいたる病』。
いやいや、死刑は殺人犯が決めるのではなく、周りが決めるから、「病」に喩えるのは無理筋だろう。かっこよくつけたようでいて外しているタイトルに見えるし、映画を見ても、このタイトルがしっくりこなかった。

これから読むもの、見るもの

ということで、櫛木理宇の原作がどうなっているのかは読んでみたいと思う。パンフレットには、櫛木理宇のインタビューや犯罪心理学者との対談もあったが、ネタバレ回避のため未読。パンフレットの残りをよむためにも。そして、読んだかどうか忘れてしまった我孫子武丸の作品も。あ、『恋に至る病』と言う作品も!


白石監督×阿部サダヲは『彼女がその名を知らない鳥たち』をやっぱり観ないとですね。原作も読んでいるし。


岡田健史は堤幸彦監督『望み』とドラマ『MIU404』(あ!一時期プライム見放題に入っていたのに…)


宮﨑優はTVドラマ『女子グルメバーガー部』か。

*1:撮影中に本当に手の甲に怪我をして、それによって増えたシーンだというが驚き。このシーンがあるかないかで大きく印象が変わると思う。