Yondaful Days!

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傑作アニメVS実写の魅力~『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』VS『フラッシュ』

6/16(金)公開の2つの映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』、『フラッシュ』は両方ともアメコミ原作ということで、公開前から何となく比較してしまっていたが、実際に見るとテーマの共通点・相違点がはっきりしており、両方見て良かった。
それではどちらがより面白かったか。

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』


前作『イントゥ・ザ・スパイダーバース』を直前に配信で復習し準備万端で公開初日に挑んだ本作。期待度MAXで観に行き、そのMAXがさらに割り増して返って来る、「やっぱり」大傑作だった。


新キャラクターも多く、訪れる世界も多い。それなのに迷子にならない物語づくりが素晴らしい。今期のアニメで1,2を争う話題作で、実際面白かった『水星の魔女』は、毎回毎回、人物相関や設定についてガンダムに詳しい息子に聞いて理解しながらでないとついていけなかったが、そんなことは全く無い。
例えば本作は、メインの敵キャラであるスポット以外に、本来身内のスパイダーソサイエティの親玉でモラレスと敵対するミゲル・オハラ、さらにはラストで登場する別世界のモラレス自身、と、結局モラレスは最終的に3チームと敵対するが、それぞれの物語(事情)も無理なく、スッと入って来る。


さらに、物語のテーマ設定が絶妙で、その掘り下げ方も多面的。
つまるところ、ヒーローの孤独と家族がテーマなのだが、一つの事例ではなく、グウェンとモラレス(そしてミゲルやピーターBパーカー等他のスパイダーマンにも当てはまる)の異なる事例を通じて扱うことで立体的に示す。
しかも、ほぼ同じテーマを扱う『フラッシュ』では、「母と子」といいつつも、主人公(バリー・アレン)の母への一方的な愛なのに対して、『スパイダーバース』では、グウェンもモラレスも親の立場から子を見る視点が含まれており双方向的だ。

2作は、運命を受け入れる『フラッシュ』に対して、運命を乗り越えようとする『スパイダーバース』という見方も出来なくはないが、過去・未来という観点でみれば、両作品とも、過去は変えられないけれど未来は変えられる、という前向きな作品になっていて、そこは共通していると思う。

それよりも、安易に「家族」をテーマにせず(安易に「家族」に逃げずに)、普遍的なテーマを探ろうとする製作陣の真摯な姿勢を『スパイダーバース』の方により強く感じた。


新キャラクターで好きなのはミゲル・オハラ。性格に難ありだがデザイン的にはカッコいい。ジェシカ・ドリューは見栄えもいいけどバイクに乗ると迫力が増す。
物語世界(アース)のデザイン込みでなら、ムンバッタン(アース50101)にいるスパイダーマン・インディアがスタイリッシュで印象的。
そして何と言っても可愛すぎるピーターBパーカーの娘(メイデイ)。次作でも何かしらの活躍の機会を期待したい。


唯一、文句を言うとすれば、絵が素晴らしいのは前作で体験済み、今回さらに「その先」を見せてくれているのは分かるが、冒頭のグウェンのシーンと、グッゲンハイム美術館でのヴァルチャーとの戦闘シーンには、くどさというか「ドヤ感」を感じてしまった。特に後者は時間的にも長過ぎたように思う。


ただ、やっぱり圧倒的に面白い映画だった。過度な期待はかけてはダメだ、と思って観たが、取り越し苦労だった。

『フラッシュ』


そして1週遅れて観に行った『フラッシュ』。
DC作品の予習がどの程度必要なのか分からず行くのを迷ったが、知人から「マンオブスティールをWikipediaで予習すれば、それだけで大丈夫」と聞かされ、その言葉通り観に行った。(結局、それで何の問題もなかったように思う。逆に話を知らなかったら理解が難しかった可能性がある)
公開直前にWEBなどで流れまくった橋本愛による宣伝がカッコ悪くて、高過ぎる前評判を相殺したが、観終えてみれば大好きな映画となった。


絵や世界設定、物語の展開においても革新性は劣るが、観てみるとスパイダーバースに大きく勝る点があると感じた。それは「実写」であること。*1

勿論、アニメ作品に対して「実写」であることが勝っている、と言うのはおかしいことはわかっている。それでも、以下に挙げるよう、『フラッシュ』における「一人二役」「動き」「顔」は、実写だからこその魅力だ。


まず、エズラ・ミラー(フラッシュ=バリー・アレン)の一人二役は、この作品の最大の魅力だし、これがアニメだったらスルーされてしまう要素だ。
同じ顔なのに、性格も喋り方、年齢も異なり、結果として別の人間に見える。
その二人がほとんどのシーンで会話をして話を進める。
凸凹コンビだった二人によるクライマックスでの協力シーンは本当に心強くカッコいい。
そして、最初にバリーが過去の世界でトマト缶を移してから戻る際に、出会った(そしてバリーを若いバリーにめぐり合わせた)謎の怪人の正体が明らかになるラストへの展開。
これらすべてをエズラが演じていると思うと本当に驚きだし、無理なく共演が実現しているのは本当に不思議だ。この直後に『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』を見て、それ以上の映像マジックを体験したが、このあたりの映像技術の進化には怖さすら感じる。(いわゆるディープフェイクと紙一重ではあるが)


次に、フラッシュの動きの面白さ。
ただ走るだけなのに、こんなに面白さを感じる、歌舞伎っぽい走り方があるとは驚き。
位置について!の状態でのポーズも面白いし、いざ走り始めても、腕の振り方がひらひらしていてあまり見たことがない走り方。エズラ・ミラー演じるフラッシュは、『スーパーマンVSバットマン』や『ジャスティス・リーグ』でも見られるということなので、そちらでも同じ走り方なのか確認してみたい。
なお、自動車道を駆けていく様子も気持ちよいが、風を感じるという意味でバイクやロードバイクのイメージなのかなと思った。(お腹が減ることを考えると、ロードバイク?)


そして自分にとってのエズラ以外の映画の魅力はカーラ・ゾー=エルことスーパーガール。演ずるサッシャ・カジェの魅力ということになるのかもしれないが、彼女の髪型、表情、姿のカッコよさは、バットマン、フラッシュのカッコよさを遥かに凌駕していた。
あれだけ強い*2のにゾッド将軍には歯が立たないのが苛立たしく、活躍のシーンは多くないが、その姿は目に焼き付いた。今後の活躍に期待したい俳優!
なお、一番最後のジョージ・クルーニーは不要でしたね。アレがあると、物語のすべての前提(過去は変えられない)が崩れてしまうため。

判定

『フラッシュ』を観た直後は、サッシャ・カジェの圧倒的なパワーに『フラッシュ』に軍配を上げかけていたが、やはり完成度の高さと次作への期待、そしてテーマ設定の巧さから『アクロス・ザ・スパイダーバース 』の勝利です。半年くらい待てば『ビヨンド・ザ・スパイダーバース』が!
ただし、『フラッシュ』は、観たい過去作がかなり増えました。エズラ・ミラーがフラッシュ役で出た2作は絶対に見たいです。(あ、ジャスティス・リーグは2作あるのか…?)


※※参考(過去日記)

ヤッターアンコウがいるからこそ物語は楽しい~『スパイダーマン: スパイダーバース』感想 - Yondaful Days!

*1:過去作を知っている人にとっては、過去作へのオマージュが満載というのが追加になると思う

*2:スーパーマンをあまり見たことがないので、目からビームを出して暴れまくる様子に、「ゲームバランスが崩れる強さでは…」と不安になってしまった。恐怖を感じるくらいの怖さを感じて、『ザ・ボーイズ』をやっぱり観ないと…と思った。