Yondaful Days!

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怖い!楽しい!カッコいい!VFX技術ってすごい!山崎貴監督『ゴジラ-1.0』


劇場公開初日に観てきました!
怖い!楽しい!カッコいい!
何度も乗りたくなるジェットコースター的な映像美に満ちた作品でした!

ただ、不満点もありましたので、良かった点(ゴジラプラス)、悪かった点(ゴジラマイナス)とに分けて感想を書いてみました。

ゴジラプラス(特撮)

とにかく想像していた以上にゴジラの登場回数が多く、それが今回の大大大満足な評価に繋がっている。
登場場面それぞれの感想を。


まずはオープニングの大戸島守備隊基地。
ゴジラと言っても『シン・ゴジラ』と『キング・オブ・モンスターズ』*1しか観たことのない自分が言っても説得力がないが、開始数分で全身を見せて大暴れさせてしまう大盤振る舞いに驚いた。*2
しかし、この時点での大きさは「巨大」ではない。
このあとで真の「巨大生物」としてのゴジラが登場するという意味では「お楽しみはこれからだ!」という余裕なのだろう。


2回目の登場は海上
「新生丸」との海での追いかけっこシーンは楽しく怖く、全体的にアトラクション的で、まさに、山崎貴監督プロデュースのゴジラ・ザ・ライド(西武園ゆうえんち:未体験!)で培ったものが生かされているのではないかと感じた。
全体を通して、動き続けているゴジラが全く間抜けに見えず、どのシーンもカッコいい。この場面での白眉は、機雷爆破のあとの顔面再生。そして、「高雄」を一撃でのしてしまう場面。「これはやばい」感が増していく。


そして銀座。
人それぞれ好みはあるだろうが、自分は何といっても、ゴジラの襲撃を受けた山手線列車内の浜辺美波の宙づりシーン。あの場面は本当に「怖い、楽しい」の極致。高所恐怖症の人が絶句しそうなあの絵が観られただけでも、この映画は満点と思う。
また、今回、ゴジラの背びれが映るシーン(海上でのジョーズ的な演出含め)が多かったが、背びれが一本ずつ伸びる「熱線」の事前動作が特徴的で、色の美しさもあり見惚れてしまう。
なお、これはこの映画全体のことだが、ゴジラに破壊された銀座付近の様子を含め、街を映す俯瞰シーンが多く、ほとんど違和感がなかったのは驚き。群衆シーンなども技術的には難しいはずだが、このあたり、メイキングを追っかけた特別番組の放送を熱望。


最終局面の相模湾での戦闘だが、ここで実行される作戦もまさにアトラクション的。
いわば「強制フリー・フォール」をゴジラに仕掛ける内容で、熱線VSフリー・フォールは、見た目的に盛り上がること間違いなしの「映画として完全勝利」の作戦。ただ、ここで単に急浮上させる「次の弾」には疑問。よりダメージを与えるには、深海でボンベからの空気を吸わせてから急浮上(→体内からの破裂を狙う)、みたいな方法が正解だったのでは?


さて、急降下・急浮上からの神木君の「特攻」。流れが完全に読めてしまう、意外性ゼロの展開だったが、それでもゴジラは敗北まで、怖く、カッコいいゴジラのままだった。
なお、ここでの「震電」の登場・活躍には、戦闘機ファンの胸を熱くさせるものもあるのだろう、と、かなり特殊な機体を見ながら思っていたが、その文脈については、映画を観終わってから調べて知った*3


ということで、この映画はとにかく、怖く、カッコいいゴジラが思う存分に見られる素晴らしい映画だと思う。
ここは、『シン・ゴジラ』に感じた興奮とは全く違っている。
『シン』のゴジラは、「カッコいい」要素が希薄で、「恐怖」「崇拝」のイメージ。その演出も、(よく東北大震災を引き合いに出されるよう)自然災害を想起させ、台風の進路と同様にゴジラの具体的な進路を想像させる、防災シミュレーションのような演出だった。上陸経路の周辺地形が気になったりなど、通常の映画を観ているときは機能しない「ブラタモリ脳」を発動させる映画だった気がする。
それに比べると、『ゴジラ-1.0』は、極めてオーソドックスで、王道の描き方だったように思う。パンフレット記載のVFXディレクター渋谷紀世子さんのインタビューと一部メイキング映像から、その一端は知ることができるが、改めて現代のVFXによる特撮技術は、色々なことが出来るのだな、と単純に感動した。(『シン・仮面ライダーのときには全く感じませんでしたが…)

ゴジラマイナス(俳優陣)

映画を観る前の一縷の望みは、どんなにつまらなかったとしても浜辺美波がいるじゃないか!ということ。
個人的に著しく評価の低い『シン・仮面ライダー』は、本当に浜辺美波に助けられた。彼女がいるから大丈夫だ。


ところが、終わってみれば浜辺美波はあまり目立たなかった。
それどころか、神木君すら誰でも良かった印象がある。

むしろ、本編前の予告編で見た『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の福原遥、水上恒司の方が違和感がなかったかもしれない。
というのは、やはり神木×浜辺コンビが、今年上半期の朝ドラ「らんまん」の夫婦の組み合わせそのままだったことが悪く影響しているように思える。特に神木君は、どう頑張っても「神木君、今回も巧いなあ」とか「牧野富太郎(槙野万太郎)のときよりも男前だなあ」とか、役者・神木隆之介を見てしまって、どうしても、彼を、敷島浩一という戦争直後の東京で暮らす若者として捉えることができなかった。

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ということで、ゴジラが満点だったのに比べると、人間側では不満を感じるところがいくつもあった。
個人的に「最大の戦犯」と感じるのは佐々木蔵之介。この人の大袈裟なセリフ回しと、熱がこもり過ぎた喋り方は、作品世界の中でずっとノイズとして機能し続けた。『シン・ゴジラ』が徹底的に排除したタイプの演技だからということもあり、最後まで目立って目立って仕方なかった。クライマックスで「恐れ入り屋の鬼子母神!」とか言われると本当に冷めてしまう。
この辺は、多分監督の好みなのだろうとは思うが。


そして、(子どもなのに)こちらは大変申し訳ないが、明子。最初は、ぶっきらぼうな演技に、むしろ「無愛想可愛い」と思っていたが、それに比べて「泣き」の演技が巧すぎてバランスが悪く、スイッチの入り方も極端で、そこも気になってしまった。泣かないでくれ、と願ってしまった。


また、山田裕貴も、「後輩っぽい演技」が大袈裟で少し引いてしまう。これも今見ている大河ドラマ「どうする家康」での本多忠勝の成長した姿が焼き付いているが故かもしれない。


映画全体のストーリーはとても自然で違和感がない。
「生きて、抗え」というメッセージも良く、いわゆるベタな展開だが、それを伝えるストーリーとして過不足ないと感じた。
ただ、そこに何かを読み解く面白さは、ない。全くない。
佐々木蔵之介は「神木君を叱咤激励する先輩」、山田裕貴は「新生丸チームで唯一戦争を知らない若者乗組員」というキャラクターで、そこに生きている人物のように感じられない。
それどころか、神木君や浜辺美波ですら、ストーリーのために配置された駒に見えてしまう。彼らの台詞は、当時の日本を生きた人間から出てきたものではなく、物語の状況を説明*4し、映画的展開を盛り上げ、伏線を回収するために、必要最小限のことを喋らされているように感じてしまう。*5


ここもやはり『シン・ゴジラ』と大きく異なるところだ。
シン・ゴジラ』は、人間パートのストーリーはほとんど無く、無駄にたくさんの人間が登場する。そこで伝えようとするものが少なく、特に整理の必要がなかったがゆえに、逆に「人間」が感じられた。そこに「人間」を感じれば、観客側としては彼らのことをもっと知りたくなる。その感じは『ゴジラ-1.0』には無かった。

ただし、これまでの山崎監督作品での「悪評」から、人間パートのストーリー80%、ゴジラ20%くらいの割合を想定したが、それがひっくり返るくらいゴジラの登場回数・インパクトが大きく、人間パートほとんど無視できたのは良かった。

総括

何度か書いた通り、アトラクション的に「怖い、楽しい、カッコいい」を楽しめる、良い映画だった。そして、タイトルが本当に良い。これが『BALLAD 名もなき恋のうた』的タイトルだったら、ここまで期待される映画にはならなかっただろう。

一方で、『ゴジラ-1.0』との差を考えることで、『シン・ゴジラ』がいかに異質な映画だったのかを再確認した。
続編は是非ともお願いしたい。
候補としては、『ゴジラ-1.0』からさらに時代を遡って、江戸時代を舞台にした『荒神』とか…

いや、特撮であればゴジラにこだわらず、何でも良いのではないか。例えば『寄生獣』とか…。(未見なので見ます…)


なお、山崎貴監督作品としては、有識者のおすすめもあり、上記『寄生獣』と、比較的最近の作品である『アルキメデスの大戦』、そして初期作の『ジュブナイル』『リターナー』を観たい。後の2作品は現時点で配信がないので、『ゴジラ-1.0』が盛り上がっているタイミングで、配信になってほしいなあ。


*1:厳密には観に行ったが3割くらい寝てしまった映画。今回も朝に21キロ走ったあとで観に行くという、条件的には寝る可能性も十分あったが、最後まで集中できた!

*2:なお、この場面ですでに「ゴジラだ!」とか言わせてしまうんだ…と思ったが、パンフレットを見ると、島の伝説として語られる「呉爾羅」のことを言っているのだという。確かに「呉爾羅」という表記だと抵抗感が少ない。

*3:Wikipediaでは詳し過ぎるので、こういうオタク的知識は、ライトなところでまず理解する>震電 (しんでん)とは【ピクシブ百科事典】

*4:ビルの屋上で実況放送をしてしまう人たちが「物語の状況を説明する駒」の典型だが、ここも含め、何となく「名探偵コナン」感がある。アニメなら違和感ないのかも。

*5:なお、俳優陣の中では、駆逐艦雪風」の元艦長で、作戦指揮にあたった堀田を演じる田中美央さんが1974年生まれの同い年で衝撃を受けた。誤植では...?