Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

戦争ではなく現代日本の問題として〜『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』

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2023最後の映画鑑賞は『ゲゲゲの謎』。

あまりに評判が良い上に、 2回見た知人からも繰り返しオススメされたので行ってきた。

前評判の高さがハードルを上げた部分もあったが、 全体を通して見ると過剰に興奮するような場所はなく、 何となく聞いていたものから類推できる範囲内だった。

しかし、ラスト付近で不意に涙がこぼれてしまった。


涙の理由について、映画を簡単に振り返ってみる。

 

導入から盛り上げ、アクションのバランスが巧い映画で、 メイン2人のビジュアルも確かにカッコいい。

特に良かったのは、トンネルをくぐった先にありながら、海( 瀬戸内海?)を一望できる場所にある、村の景色と、 ゲゲ郎の1対多数のスタイリッシュなバトルシーン。

さらには、ラスト近くで、一連の事件の「意外な犯人」 が明らかになり、一件落着したと見せかけてからの盛り上がり。

前評判で多く挙がっていた「一族の因縁の凄惨さ」は、 中盤までは「こんなもんか」くらいにしか感じなかったが、「 犯人」のこれまでの生い立ちが明らかになって以降は、 酷い話のオンパレードで辛くなる。


ただ、ゲゲ郎が探していた奥さんに会えて、99% 物語が終わるところまでは涙は出なかった。

しかし、鬼太郎が登場する現代パートで、 最後に一匹残った狂骨が「ときちゃん(時弥)」だとわかり、 彼が「忘れないで」 と言って成仏していくのを見て泣いてしまった。実際、 映画の中で、 あれだけ利発にゲゲ郎と会話していた時ちゃんの愛らしい造形を、 そのシーンまで忘れていた、ということもあり、不意を突かれた。


ゴジラ-1.0』や『トットちゃん』、『ブギウギ』等の映画、 ドラマと重ねて、 同時期に集中した戦争を題材にした作品の一作として語られること の多い作品だが、 自分は昔の日本を取り上げたとしては受け取れなかった。


作中でも「この国は今も…」 というようなセリフがあったように思うが、 下に責任を押し付けて、自身は巧いこと切り抜ける上層部、 というような構造のもとに日本が成り立ってきたということを、 2023年の政治、芸能のニュースとして何度見たことか。

12月に入ってからは自民党のパーティー券問題、ここ数日は、 松本人志の文春報道の件がネットを賑わせていている。

権力を維持し、守る仕組みを作り上げ、 最後まで権力にしがみつくゲ謎の黒幕である時貞の姿を見て、 それらのニュースが頭にちらついた。


確かに「政治には金がかかるから(仕方ない)」、もしくは「 芸能界というのはそういう世界なんだから(仕方ない)」とか、 知ったような口を聞いていた時期が自分にもあったかもしれない。 しかし、口を閉じていれば権力を温存し、現実社会の「時貞」は、 ますます犠牲者を出しながら延命していってしまう。

だからこそ、ジャニーズ性加害の問題に対して、 勇気を出して告発する人が現れたのだし、松本人志の件も同様だ。 松本人志の件は「8年も前」と言われることもあるが、むしろ「 8年間も悩み続けていた」と考えれば尚更辛いことだ。

勿論、これが事実無根である( 例えば思い込みの激しい告発者による妄想である)可能性はあり、 吉本興業も反論を出している。

しかし、騒動後の松本人志自身のTwitter(X) への投稿が「いつ辞めても良いとおもってたんやけど… やる気がでてきたなぁ~」というのは、あり得ない。

 

完全に、ホモソーシャルの仲間内でのイキリにしか聞こえない。


同じノリの人に対してのみ、 ひたすら受けの良い言葉で絆を深めようとする仕草は、 杉田水脈議員を思い出す。


事実無根で恥じるべきところがないのであれば、 どこまでが事実なのかも語れば良いし、また、「同じノリ」 ではないファンにはもっと丁寧な言葉が必要なはずだ。


一方、一有権者、一視聴者が何をし、 何をするべきでないかを考えたとき、今年は「 ネット炎上による二次加害」のニュースも目立った。

特に、短い期間に連続した、羽生結弦の離婚、「 ジャニーズ性加害問題当事者の会」 の方の自殺の報道にはショックを受けた。

特に後者は、いわゆる「セカンドレイプ」で、 まさに今回の松本人志の報道に対する視聴者の反応にも少なくない数見られる。 五ノ井さんの報道でのネットの反応も酷かったが、 死人が出てなお変わらないのか、と驚くばかりだった。


勿論、草津町の一連の出来事*1を思い出せば、 現時点で報道内容がすべてが真実として、 一方的に松本人志らを断罪することには慎重になるべきだろう。

しかし、報道されている内容は、性加害事件という以上に、 ホモソーシャルのノリのイジメという、 むしろテレビ番組でよく見た状況*2であり、その意味でむしろ納得感がある。 今回の報道をきっかけにして、 過去の番組での非道な行為を非難されるくらいはあっても当然かと 思う。

自分の感覚も、 かつての出演番組から受けた一方的な印象の影響が大きく、 先入観を持って文春報道を見ていることを意識しつつ、 当面は被害者側に立って、考えていきたい。

 

 

さて、映画ラストの時弥君のセリフに涙した理由の話に戻る。

映画では、時弥と沙代という龍賀一族の新世代2人が、 まさに老害というべき時貞の毒牙にかかり、 その夢が打ち砕かれてしまう。改めて時事ネタと結びつければ、 トー横にしか居場所のなくなった若者たちの絶望と構造は変わらな い。因襲村は歌舞伎町*3にもある。


このような現状に、何かと「日本は、変わらない国だから( 仕方ない)」という感想を持ってしまうことが今年は増えた。 時弥は、そんな自分に「夢や希望を持つことを忘れないで」 と語りかけてきた。

そのリンクに思わず涙が出てしまったのだと思う。


彼は、「可哀想な物語」を盛り上げるための舞台装置ではなく、 映画の中では、希望の象徴として、 物語の一番重要なメッセージを伝えるキャラクターだった。

そして、「日本はどうせ変わらない」と諦めてしまうことは「 自分はどうせ変わらない」 と決めてしまうことと表裏一体でもある。

現代社会、そして人生の辛い面について触れつつも、最後は「 素敵な予感しかない」と歌い上げる、 KIRINJIの傑作アルバム『Steppin' Out』と同様、『ゲゲゲの謎』は、最後に、 観客それぞれの人生への「希望」を思い出させてくれるという意味で、 とても良い映画だった。

*1:こちらに詳しい→https://www.newsweekjapan.jp/ishido_s/2023/04/post-5.php

*2:ここ10年くらいは、 ダウンタウンが出る番組は避けていたので自分自身はよくわかりま せんが

*3:トー横か絡みでは、 colabo騒動こそが、通常では理解しにくい「因襲」が、 界隈に共有されていて本当に怖い。