Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

吉田修一『パーク・ライフ』*1★★☆

パーク・ライフ (文春文庫)
もともと、WEB本の雑誌で評判の良かった、同じ作者の『パレード』を読むつもりだったが、ブックオフで棚を見ると2冊並んでおり、折角なので芥川賞を取った本作もレジに持っていった。
芥川賞作品という時点で、僕としては「非エンターテインメント系」だな、という構えがあるため、あまり期待していなかったが、悪く言えば予想通りの「何も起こらない」作品。よくいえば、ごく普通の人が過ごす日常の中での気持ちの揺れを、丁寧に描写した作品。
普通の生活の中で訪れるちょっとした「ずれ」、しかし、それが事件に発展することもなく、結局「いつもどおり」がずうっと続く。主人公の職場近くの日比谷公園が舞台*1になっているため「パーク・ライフ」。
本には「パーク・ライフ」と「flowers」の二編が入っている。「flowers」の方が、「何か起こる」のだが、似たような印象。
ここから、かなり憶測だが、いずれも「都市(東京)生活」に焦点を当てた作品であるように思う。特に「flowers」では、地元九州から上京した若い夫婦を中心にした話だが、仕事も、九州では墓石専門の石材屋→上京して飲料水の配送屋と比喩的なものを感じる。家族の束縛から離れて自由気ままな暮らし、そういう都市生活の明るい部分が表に出たのが「パーク・ライフ」で、そういう忙しい都市生活の「空しさ」が滲み出ているのが「flowers」なのだろうと思う。
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直接、話題にはなっていないが、東京のような大都市には「通勤電車文化」とでもいうべきもののが発展している、と仙台に来て強く感じる。仙台に来たての頃は、何故夕刊スポーツ紙がない*2のか不思議だったが、単純に商売にならないからだ。東京のように通勤時に1時間も2時間も電車に乗る人はほとんどいないし、車を利用している人も多い。そんな中では、帰り際に週刊誌やスポーツ新聞を買う人は少ないだろう。仙台の地下鉄のキヨスクは、数が少なく、すぐに閉まるし、雑誌の中吊り広告は東京に比べて非常に少ないのもそういう理由だ。仙台には「通勤電車文化」は存在しない。
日比谷公園というのは、そういった通勤文化を形作る基礎となる地下鉄に囲まれた、ある種、象徴的な場所なのだと思う。仙台にも中心に勾当台公園という公園があるが、規模も小さいことながら、公園が持っている意味が全く異なる。「パーク・ライフ」の舞台となる日比谷公園は、東京が持っている通勤電車文化を背後に控えているからこそ、独特の雰囲気を持つ小説の舞台たりえるのだろう。
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*1:主人公の自宅近くには駒沢公園もある。

*2:東京スポーツなどは翌日の朝にならないと買えない。