- 作者: 幸村誠
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/02/23
- メディア: コミック
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収束するのではなく、そのメッセージも含めて、閉じずに投げかけて終わる。爽やかさを残した、そんな物語の締め方は、いかにも、この漫画らしいと感じた。
この巻でスポットライトが当たるのは、木星に向けて旅立ったハチマキでも、そのハチマキと結婚したタナベでもなく、地球に息子一人と夫を残し、宇宙空間をデブリ回収船で漂う働く女性フィー。
フィーの葛藤の中心は、軍事目的の軌道機雷が多数存在する中で、自らが仕事(デブリ回収)をする意味がどこにあるかというもの。
これに関しては、物語の中で、ケスラー・シンドロームという言葉が登場する。
衛星軌道上にある人工物(衛星)に人工物が衝突すると、相対速度が非常に大きいために大破して、多数の破片=スペースデブリを生じる。
その破片は衛星軌道上にばら撒かれることになり、そのため衝突確率が上昇する。
その破片が他の人工物に衝突すると、また新たに破片を生み、衝突確率が上昇し・・・という、悪循環に陥る。
ただでさえ、衛星軌道上には多数の人工物があり、それによって、デブリは増え続けることが想定されているのに、意図的に人工物の破壊がもたらされたりすれば、デブリ回収業者の仕事などは、現実的にほとんど効果がないことになってしまう。
相手は軍隊なんだぜ?
言ってみりゃあれだ。デブリ作りのプロだよ。俺たちの正反対。
奴らは仕事熱心だよ。オレ達が10年かかって拾うデブリを10分でバラマく
本気出されちゃ 勝ち目はねーよ
オレらの仕事は ハナッからさ 勝ちのないケンカなんだよ
勝てないケンカにムキになっていいのはガキのうちだけさ
(P121 フィーの同僚の言葉)
しかし、フィーが反感を持ったその言葉は、自らが息子アルバートへ向けた子ども扱いの仕打ちと重なるものだったことに気づく。自分も、忘れてはならない感覚を忘れていたわけだ。
誰の言ってることも まちがっちゃいない
誰が正しいってわけでもない
仕方ないことだ 否定はできない
でもそれで戦争が始まろうとしている
たぶん大人になる過程を経るうちに
何かが鈍くなってしまうんだろう
成長したいとか 立派になりたいとか
そう思ってるうちに忘れてしまう感覚がある
私もそれを忘れた一人だったんだろ?
ねェ アルバート
(P126:フィーの独白)
国の威信をかけてだとか、正義のためだとか、かっこいいこと言っているうちに、だんだんと限られた資源が少なくなっていく構図は、現代世界とおよそ変わらないわけで、最近増えた核拡散防止のニュース*1を見ていると、その共通点の多さを痛感する。
そういう意味では、物語としては、もう少し政治的な方向に偏っても落ち着く内容だったのだが、ラストでは、ハチマキからの「木星到達第一声」に換えて、非常に地に足のついたメッセージが語られる。
ここで、その引用はしないが、つまりは、「最後に残るのは、科学でも国家でもなく人間なんだ」、そういうことを、この物語はいわんとしているのではないかと思った。
人間が一番面白い!そんな当たり前のことを、回り道しながらも強烈に印象付けたプラネテス全4巻は、自分にとっても、特別な作品となった。
作者・幸村誠の漫画も追いかけてみたいし、DVD化されたアニメの方もちょっと見てみたいなあ。
- 作者: 幸村誠
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