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宇宙ゴミより海ゴミを〜小島あずさ・眞淳平『海ゴミ−拡大する地球環境汚染』

海ゴミ―拡大する地球環境汚染 (中公新書)

海ゴミ―拡大する地球環境汚染 (中公新書)

米航空宇宙局(NASA)は26日、国際宇宙ステーションにロシアの人工衛星の破片など2個の宇宙ごみが衝突する可能性があるため、ステーションの軌道変更を検討していると発表した。 高度約400キロを周回するステーションには、星出彰彦さんら3人が長期滞在中だが、NASAは「飛行士の安全性に問題はなく、科学実験など通常の任務を続けている」としている。 衝突の懸念がある宇宙ごみは、すでに運用をやめたロシアの人工衛星コスモスの破片と、インドが打ち上げたロケットの破片。NASAなどは当初予定していた欧州宇宙機関(ESA)の無人補給機ATVの離脱を延期し、ATVのエンジンを使って27日にも軌道変更を試みることを検討している。(共同)

宇宙ゴミスペースデブリ)については、漫画『プラネテス』が面白かったこともあり、話題が出るたびに気にして見ているが、ヒヤヒヤしながらも今回も大丈夫そうだ。それよりも問題なのが海ゴミの問題だ。


日経新聞の書評欄で気になった『プラスチックスープの海』。大量のプラスチックごみが海洋を汚染している惨状を暴いた本とのことだが、以前、似たテーマの本を読んだことがあったと思いだし、これを手に取ってみた。
第一章で、知床、対馬、成ヶ島(兵庫)、荒川が取り上げられているように、日本の現状を中心に広く「海ゴミ」について扱った分かりやすい本。特に漂流・漂着ゴミに対処する法律・制度について書かれた第5章は、対策費用をどこから捻出できるか、という現実的にぶつかる問題について、海洋汚染防止法、自然公園法、港湾法、河川法、廃棄物処理法それぞれが実際どのように関わっているか分かりやすくまとめられている。
海ゴミは漂着ゴミ、漂流ゴミ、海底ゴミの大きく3つに分けられるが、本書で取り上げられる海ゴミは主に、海岸に打ち上げられる漂着ゴミ、そして、海辺を漂う漂流ゴミ。漂着ゴミ、漂流ゴミの問題点は

  1. 処理費用の問題
    • 処理施設までの運搬費用がかさむ(特に離島の場合)
    • 種類が多様で燃やすと、炉を傷めるために小型焼却炉では処分できない
    • 次の問題と重なるが、発生源の特定が難しく、排出者に費用負担を求めることができない
  2. 発生源が遠い
    • ほとんどは陸上(河川)が発生源
    • 海外由来のゴミも多い(主に中国・台湾・韓国)
    • 日本から海外へのゴミ流出も多い
  3. 法での規制が難しい
    • 海洋上の不法投棄については監視ができない
    • たばこの吸い殻などのポイ捨ても現状では規制が難しい
  4. 海洋生物の被害
    • からまり
    • 誤飲
  5. 人間への影響
    • 海苔やきびなご等の食料品への混入
    • プラスチック片に吸着した環境ホルモンが海洋生物に取り込まれ、食物連鎖上位にいる人間にも影響

これらの問題に対しては市民、研究者、行政で連携して取り組める仕組みが必要だが、先に進んでいる例として韓国の事例が挙げられている。(p185)この中で「漂流ゴミ買い取り制度」というものが挙がっている。海に浮かぶ漂流ゴミを漁業者らが積極的に持ち帰ることのできるようにするものだ。しかし、これはやろうと思えばいくらでも悪用できる制度で、買い取りに持ち込まれるゴミが海で漂流していたものではなくても、簡単には見抜けないだろう。つまり妙案はなかなか無いように思う。
最終章では、多様な関係者の協議機関(プラットフォーム)についてや世界規模のごみ調査の話題と合わせて、生分解性プラスチックについて取り上げられている。勿論、本書の主旨は、発生抑制が王道であり、かつ全てのプラスチックを生分解性に置き換えられるわけでないことを踏まえて、あくまで補完の位置づけとして、生分解性プラスチックに期待しているという。
と、簡単に内容をまとめたが、『プラスチックスープの海』と比較すると、こちらはやはり優等生的だった。作者が、市民団体の立場を弁えて書いているからだろうか。取り上げている事象は同じでも、それほど危機感を煽らずに、分かっていることのみを淡々と記していく。これはこれで誠実だけれど、これだけだと世間が何も動かない、変わらないというのが『プラスチックスープの海』の苛立ちだ。(つづく)
⇒つづき:じきに海はプラスチックに覆われる〜チャールズ・モア、カッサンドラ・フィリップス『プラスチックスープの海』


プラスチックスープの海 北太平洋巨大ごみベルトは警告する

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参考(過去日記)