Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

今だから4年前の「2人」を追いかける〜中村 計、木村 修一『早実vs.駒大苫小牧』

毎日のように、北海道日本ハムのゴールデンルーキーとして、斎藤佑樹の動きがニュースになる中、以下の本を読んだ。

早実vs.駒大苫小牧 (朝日新書)

早実vs.駒大苫小牧 (朝日新書)

2日間5時間半にわたる死闘、2006年夏の世紀のドラマの舞台裏に迫ったドキュメント。
本の中では、選手や関係者の証言により構成され、早実駒大苫小牧の状況が交互に描かれる。例えば、延長11回での駒大苫小牧スクイズ失敗。両校にとって重要なターニングポイントになった場面だが、投球動作に入ってからの一瞬の間に、スクイズを察し、ボールを地面に叩きつけた斎藤佑樹の神業に対し、滅多にやらないスクイズのサインに驚いた駒大苫小牧の選手の様子が合わせて描かれるため、より多角的にシーンが再現され、よく出来た推理ドラマでも見ているようだった。


両チームの対決は、やはりエース対決、斎藤佑樹VS田中将大に注目が集まったが、この本では、さらに監督に焦点があたる。
究極的には「ノーサイン」−監督のサインに従って動くのではなく、選手それぞれが考える野球を志向した早実の和泉監督(当時45歳)。度重なる不祥事の中、一度監督を辞任しただけでなく、生徒との信頼関係も失いかけた香田監督(当時35歳)。
現在の自分(36歳)よりも年下に当たる香田監督を応援しながら読んでいたが、当時は、やはりハンカチ王子旋風が吹き荒れ、無党派層は皆、早実の応援に回ったため、甲子園球場は、駒大苫小牧にとってアウェイの雰囲気が漂っていたようだ。史上初の4連覇がかかっていた駒大苫小牧(しかも、前年の夏の優勝直後に暴力事件が発覚し、優勝を認めるかどうかという話まであった)を率いていたのが35歳の監督だったということは、純粋に驚きだ。


有名なのかもしれないが、自分は知らなかったこぼれ話もいくつかあった。

  • 14回裏に満塁のピンチを切り抜けたあと、香田監督が「これさ、引き分けに終わったら同時優勝になんの?誰か聞いてきてよ」と呟いていたという話。(高校サッカーのイメージがあったらしい)(P130)
  • 早実の2回戦(大阪桐蔭戦)では、投球フォームによって斎藤の球種がばれていたという話。(セットポジションで構えたとき、グラブが高ければストレート、低ければスライダー。結局「クセ」を見破っていた大阪桐蔭は2-11で大敗)(P145)
  • 勝戦再試合の7回になって、早実のショートとセカンドの動きの「法則」に、駒大苫小牧の選手が気づいたという話。(よく見ると、変化球かストレートかを見分けることが可能)さらに、駒大苫小牧の三木が9回表にこの法則のおかげで、一点差に迫るツーランホームランを放っていること。(P167、P173)


エピローグでは、この年の秋の大会で、両校が揃って地区予選で敗退した話が加えられる。勿論、批判も大きかったようだが、どちらの監督も前向きなコメントを残していて、この本全体の両チームのカラーとも重なっており、かえって上手くまとまっている。
そして、読後には、あれから4年の月日が経っているのだなあ、と感傷的な思いに浸ってしまった。


個人的には、学生時代にスポーツを行うこと自体が必ずしも善だとは思わない。*1実際に、駒大苫小牧では、暴力事件が起きていることもあり、選手だけでなく、それを管理する側(学校、監督)のマネジメント能力も非常に問われるところだろう。しかし、(勿論、この本がのつくりがそうなっているからだが)優秀な成績を残す学校には、魅力的な指導者がいて、その下で選手たちも成長していくということがよく分かる本だった。
今年のプロ野球では、斎藤佑樹VS田中将大の直接対決が勿論楽しみだが、プロ野球を通した二人の人間的成長も垣間見られればと思った。そして自分も成長しないと・・・。

参考>過去日記

当時は、翌日再試合という仕組み自体がおかしいと、上のような日記を書いていたのでした。今でも同じ思いです。

*1:少年スポーツの現状に警鐘を鳴らしたこの本には非常に共感できました。→スポーツは「良い子」を育てるか (生活人新書)