Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

痛い、怖い、後味が悪い〜『ヒーローショー』

ヒーローショー [DVD]

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【STORY】
気弱な専門学校生ユウキ(福徳秀介)が始めたアルバイトは、ヒーローショーの悪役だった。
ある日、バイト仲間のノボルが、ユウキの先輩の剛志の彼女を寝とってしまったことから
彼らは舞台上でリアルに殴り合いを始める。それだけでは収まらず、剛志は悪友たちを招集しノボルらを強請ろうとするが
ノボルたちも自衛隊上がりの勇気(ユウキ)(後藤淳平)を引き入れ報復にでる。
次第に彼らの暴走はエスカレートし、ついには決定的な犯罪が起きてしまう…。

暴力シーンがとにかく痛い映画。
ダメな道の先が見えていて、なおダメな道を選んでしまう話。
そして、ラストが宙ぶらりんで後味が悪いという意味では、「ぼくらは海へ」にも似た話。

とにかく痛い暴力シーン

別に暴力シーンが嫌いなわけではないですが、これはきつかった。
まずは配役。マイケル・ジャクソンのBeat Itのプロモーションビデオ(ショートフィルム)では、ダンサーに本物のチンピラ(ギャング?)を使ったという話がありましたが、ヒーローショーに登場するゴロツキ達の雰囲気は、(あまり知り合いがいないので本当のところは分かりませんが)作り物感がほとんどありません。作品内の言葉でいえば、「人間のクズ」感が匂い立つような配役です。鬼丸兄弟とか新庄似の爽やかヤンキー(デカレンジャーの人!)とか、本当に街で会いそうです。
彼らの、女性関係のもつれや意地の張り合いが、口喧嘩レベルからスムーズに暴力に移行する雰囲気は、「よく知らなかったけど、日本ってこんなに怖い場所だったんだ。これから夜道に気をつけよう」と、本気で強く感じさせるものでした。
そして、134分に渡る話の中間あたりに来る「半殺し」シーン。
あまりの凄惨さに、加害者側の仲間が眉をひそめ、止めに入るほど。見ている方は、身も心も痛くてたまらなくなります。

何より、ジャルジャル後藤。

ジャルジャル後藤淳平は、自衛隊上がりの配管工で、切れると手がつけられない男、石川勇気を演じます。
この人がいなければ、作品として成立していない、といえるほどの存在感がありました。
これを見ると、俳優の役作りというのは、台詞や表情のような表面的なものではなく、役柄の人生を、ということは、苦悩や希望を、完全に自分のものとして同化させる部分が重要なのだと思いました。自分には、後藤の半生を描いたドキュメント映画にしか見えません。
正直に言って、ジャルジャルというお笑いコンビは、福徳の方だけ顔を見たことがあったくらいで、ネタもほとんど知りませんでした。この映画を見た後、DVDに入っていたジャルジャルinロンドンの予告編を見る限り、後藤にはお笑いは向いていないのではないかと思えたほどです。

ジャルジャル福徳秀介も悪くはありません。物語途中からは、二人の「ゆうき」として、鬼気迫る後藤と行動をともにするので、バランスが取れて息抜きにはちょうど良い(笑)感じでした。「へたれ」を演じるのは、結構難しいように思えますが、はまり役です。多分、この人の本来の性格なのではないかと思いました。

作品テーマ

ヒーローショーがタイトルなので、作品内ヒーローとしてギガチェンジャーも登場します。ただ、物語の中では、それが何を喩えたものなのかについて明確な言及はありません。一方で、作品テーマのポイントとなる台詞というのはあります。

勇気「お前、人間のクズだな。
そうやって適当に生きてっからロクでもない目に遭うんだよ
M-1?徹子がどうした。
お前ら楽して生きたいだけだろ。
妄想ばっかりペラペラ喋ってないで田舎帰って母ちゃんの仕事手伝え」
ユウキ「何が悪いんですか?妄想を喋って何が悪いんですか?」

勇気にも、調理師の免許をとって、恋人と一緒に石垣島にレストランを出す夢=妄想があります。ユウキの言葉に肩を押され、勇気が、これからその夢にどう向き合っていくかを決める重要なシーンです。
作品全体から考えると「ヒーロー」というのは、そういった夢(妄想)を意味しているのでしょう。
しかし、勇気もユウキも、そのほかの登場人物も、皆が、作品内で夢を叶えられないだけでなく、これから先の人生においてもきっと叶えられないだろうなという余韻を持たせて映画は終わります。
つまり、「ヒーロー」は、ただの夢ではなく、「叶えられないだろう夢(妄想)」の喩えとして使われており、だからヒーロー「ショー」なのです。現実には誰もヒーローにはなれないということです。実際に戦隊ヒーロー『デカレンジャー』のデカブルーだった人が、福徳にヒーローの真似事をさせて笑い物にしているあたりも皮肉すぎます。
暴力も怖いけれど、ここが作品の一番の怖いところです。

さらに怖い話

そして、さらに怖いことをAmazonレビューから知ってしまいました。
それを前面に掲げることはしていませんが、ヒーローショーは、実際にあった事件を元にした作品とのことです。
実際、Wikipediaを読むと、映画との共通点が多く青ざめます。

よく知らなかったけど、日本ってこんなに怖い場所だったんだ。これから夜道に気をつけよう、と改めて思いました。