- 作者: 関川夏央,谷口ジロー
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2002/12
- メディア: 文庫
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今回、久しぶりに読み直した本書から「石川啄木を嫌いになれる素敵なエピソード ベスト4」を抜粋した。これらのエピソードは、確かに衝撃的だが、石川啄木自身が書いた「ローマ字日記」が題材になっているようで、ほぼ事実なのだろう。
- 作者: 石川啄木,桑原武夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1977/09/16
- メディア: 文庫
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第4位:借金返済のために文学書を全て売り渡して救ってくれた恩人に懲りずに借金
石川啄木にとって、金田一京助は、彼がいなければ、啄木の名が残らないどころか生活していけたのか、というくらいの「生活必需人物」。
函館に家族を残して一人上京した啄木は、同郷の金田一を頼って同じ下宿に転がり込む。しかし、たちまち生活は破綻し、下宿代も滞納。見るに見かねて金田一が、自分の蔵書を全て売り払ってお金をつくり、啄木とともに別の下宿に引っ越したのだった。
その後も啄木のために、服を質に入れたり、啄木の生活の惨状を見かねて金を貸したり、至れり尽くせりで、かつ自身は言語学の分野で後世に名を残しているのだから、人が良いだけでは無い、相当のスーパーマンのように思う。
そして、啄木は、そんなんで、よく恥ずかしさを感じずに生活出来たなと思う。
第3位:奢ってもらった相手に借金
ある日、啄木は、勤めの帰りに「奢るから」と言って森田草平を飲みに連れ出す。盛り上がった所で会計となり、逆に奢ってもらうことになる。
さらに、森田が「仕事があるから」と帰りかけると「今度こそ僕が」と無理を言って次の店に行き、平塚明子(平塚らいてう)との仲*1についてさんざん語らせた揚句、やはり奢ってもらう。まだ続きがある。
さんざん奢ってもらった森田に、さらに金を借りて、帰りに須田町で途中下車して娼婦を買う。(借りたお金で!)
これが啄木の日常みたい。この人、ダメだ。
第2位:売り渡した芸者に借金
4ヶ月程度滞在した釧路で懇意になった小奴という芸者について、釧路を離れるときに他の男から「これで別れてくれ」と金(15円*2)を受け取る。つまり小奴を売り渡すのだが、その際、小奴からも餞別(5円)を受け取る。(ちなみに、このエピソードは奥さんと娘を函館に残してきて直後の話です。信じられませんが。)
これだけでも十分ひどいのに、別れてから1年以上経ってから、この小奴に電報で借金を申し込むのだった。このエピソードは強烈で、人間としてあり得なさ過ぎると読むたびに思う。
第1位:結婚式をボイコットした挙句、借金
東京から結婚式のために郷里に帰る啄木は、仙台で途中下車。国分町の旅館でぐずぐず何泊かした挙句、宿泊代を払えずに、土井晩翠に(得意技の)無心の手紙を送る。母が危篤で郷里に戻る金が欲しいと嘘をついて。で、お金を持ってきた土井晩翠嫁に叱られる。
しかし、ここで帰らないのが啄木らしいところ。結局仙台に十日滞在して結婚式はすっぽかし、さらに旅館代も踏み倒す、という完全に理解の範疇を超えている。
もはや「憎めない」という言葉で笑って済ますことの出来ないくらいの悪行非道の数々。
『石川くん』でも、これらのエピソードが一部出てくるが、本書で詳しいエピソードを読むと、初めて写真を見た時に抱いた誠実そうな人物像は完全に吹っ飛ぶ。ただ、この本には、石川啄木をずっと悪しざまに描いているわけではなく、良い面も交えつつ、ギリギリで、石川啄木を愛すべき人物と言う印象にとどめているのが素晴らしいと思う。この後、27歳と言う若さで啄木は亡くなってしまうのだから、そういう意味では、悪く言いにくい人物であることは確かなのだが。
なお、この本は、明治時代の著名人が数多く出てくる『坊っちゃんの時代』全五部の第三部で、漱石は勿論、スリの銀次なんかも継続して登場しているらしい。自分は三部しか読んだことがないので、他の巻にも手を出したい。
参考(過去日記)
- 枡野浩一「石川くん」感想(2007年5月)
⇒個人的には『石川くん』は、石川啄木の良い面も悪い面も写した金字塔だと思う。短歌という視点から石川啄木を眺めてみたい人(普通はそうだと思いますが…)には、絶対にオススメの一冊です。