Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

怖いムロツヨシを求めて~吉田恵輔監督『神は見返りを求める』

今年のNHK[大河ドラマは『どうする家康』では、8/13放送回で小牧・長久手の戦いの前半部を放映。
ついに対決する徳川家康豊臣秀吉
その豊臣秀吉を演じているのがムロツヨシだ。

これまでも怪演を見せていたムロツヨシ豊臣秀吉にさらに焦点が当たっていく、これからの展開に備えて、「怖いムロツヨシ*1が堪能できる作品としてこの映画を観てみた。


ムロツヨシは、この映画では主役ということになる。
Amazonからあらすじを引用。

主人公・イベント会社に勤める田母神(ムロツヨシ)は、合コンでYouTuber・ゆりちゃん(岸井ゆきの)に出会う。
田母神は、再生回数に悩む彼女を不憫に思い、まるで「神」の 様に見返りを求めず、ゆりちゃんのYouTubeチャンネルを手伝うようになる。
アクセス数 がなかなか上がらないながらも、前向きに頑張り、お互い良きパートナーになっていく。
そんなある日、ゆりちゃんは、田母神の同僚・梅川(若葉⻯也)の紹介で、人気YouTuber(吉村界人・淡梨)と知り合い、彼らとの“体当たり系”コラボ動画により、突然バズって しまう。
イケメンデザイナ一・村上アレン(栁俊太郎)とも知り合い、瞬く間に人気YouTuberの仲間入りをしたゆりちゃん。
一方、田母神は一生懸命手伝ってくれるが、動画の作りがダサい。良い人だけど、センスがない...。恋が始まる予感が一転、物語は“豹変”するーー!

あらすじで「物語は豹変」とあるが、田母神(ムロツヨシ)、ゆりちゃん(岸井ゆきの)2人の本音部分が出て来てるにつれ、その関係は修復不可能なほどに悪化する。
この「豹変」の様子は2人の演技が巧い。


ムロツヨシ演じる田母神は、前半「裏がありそうな人」ではなく「心底いい人」のように見えるが、「いい人」が祟り、借金を背負い、優里に見捨てられて以降は負の気持ちを前面に出し、「見返りを求める男」に変わるが、その振れ幅が大き過ぎる。「怒鳴る」程度であればいいのだが、「GOD T(ゴッティー)」を名乗り、動画撮影の裏側を暴露するなど優里の足を引っ張る動画をあげる*2のを見て、視聴者としても「コイツだめだ…」と思ってしまう。
そして一方の岸井ゆきの演じる優里。彼女の場合は見た目が大きく変わるのが凄い。底辺Youtuberだった前半は「ダサい」「頭が悪い」、でも「人は良さそう」という印象だったが、人気が出てからは「おしゃれ」「機転が利く(芸能人的頭の良さ)」、でも「優しさがない」、「恩を仇で返す女」に変わる。変わったのが服装やセリフだけでなく、仕草や表情に彼女の自信が強く現れるようになり、身にまとうキラキラ感に圧倒させられる。だが、その姿勢の急変が鼻につき、視聴者としてはゴッティーは最低だが、ゆりちゃんも少し懲らしめたいな、と感じる。


そして行き着くのが、あの救いの無い終わり方。
遡って、この映画にどうなって欲しかったのかを考える。


2人は昔のようには戻れない、それは分かっている。でも、和解して、それぞれ前を向いて進んでいって欲しい。
あとは、人気Youtuberコンビの「マイルズ」と、田母神の同僚の梅原に報いが訪れてほしい。
そんな気持ちだったように思う。


それと比べると、2人とも大怪我を負うこの終わらせ方は、現実的な部分はあるが、辛過ぎるものだった。
2人の関係性についてだけは少しだけ願いが叶えられたが、それ以外はすべて悪い方向に行く。田母神と優里は報いを受けるが、もっと悪いやつら(マイルズ、梅原、少年Youtuberのハイパーマリオ)は報いを受けずに逃げおおせる。


全体を通して考えると、田母神含め、主要登場人物のほとんどがYoutuberであることから、Youtuberについて何か物申したかった映画ということは言えるかもしれない。
田母神も、優里も、相手に対して思ったことを直接ぶつけられれば良かったが、そもそもあやふやな「人気」を援軍にして自分の主張を認めさせようとする愚策に出てしまった。人気商売なのはテレビや映画も同じだが、誹謗中傷や暴露を含め、個人的意見が、そのまま公共空間に吐き出され、実力勝負というより博打的な当たり外れが大きいSNSの怖さが描かれていると言える。
マイルズや少年Youtuberが作品内で裁かれないのは、現実のYoutuberもギリギリのラインで人気を取る人たちがいることを反映しているのかもしれない。


そして、Yotuberの人気を支え、またSNSのバズりを支えるのは作り手ではなく、視聴者であることを考えれば、「良貨」が悪化を駆逐するようなネット空間であるように、観る側が振る舞うようにしていきたいなあ、と思ってみたり…。


監督は『空白』『blue』『ヒメアノ~ル』、そして少し昔の『さんかく』が観てみたかった吉田恵輔。ほかの映画もこんな終わらせ方なんだろうか。とても気になります。
それにしても傘は痛い…。痛過ぎるよ。

*1:そういえば、ドラマ『星降る夜に』のムロツヨシも、この作品と似た感じの「怖い」役柄でした…

*2:特定されて住所や氏名、顔までバラされてしまう、のも自業自得なのだが、怖い