- 作者: 江川紹子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2009/11/21
- メディア: 新書
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同様のテーマ(勇気とは何か)を副題に持つ『プラトン対話篇 ラケス』では、最初に二人のアテネ市民の、息子の教育方法(具体的には重装武闘術を学ばせるべきか否か)についての話題から、ソクラテスが参加して、徳の一部分としての勇気とは何かについて議論を続ける内容です。
議論の行きつく先は別として、出発点である重装武装術が現代と大きく乖離しており理解しづらいところがあります。
この本では、そういった哲学的な思索ではなく、まず「勇気がある」行動を選択していると感じられる人を江川紹子さんが選び、インタビューの中から勇気とは何かを考えていこうとするものです。紹介された5人+αの言葉から、勇気とは何かを示す部分を綴ってみました。
- 野口健(アルピニスト):最年少記録をかけたエベレスト登頂時、天候不良で引き返す。清掃登山、チベット応援。
- 自分に正直に:世間に無理に合わせたり、人の期待に振り回されるのはやめて、自分に正直に行動し、考え、発言することが本当の勇気
- 山本譲司(元国会議員):秘書の名義貸しが問題となり、実刑判決が下る。
- 過ちと向き合って:自らの非を率直に認め、苦しい状況の中でも、今のことだけを見るのではなく、将来を見据えて行動することが本当の勇気
- 蓮池透:北朝鮮による拉致被害者・蓮池薫さんの兄。家族会の元副代表。
- 柔軟に考える:自分を率直に見つめ直し、過去の自分の発言や立場にとらわれずに現実に対応できる柔軟さが勇気には必要
- 仙波敏郎(元警察官):愛媛県警察の裏金の問題を、現役警察官として実名で内部告発。
- 信念をつらぬく:誰かが行動するのを待つのではなく、正しいと信じることに対しては自分から積極的に行動することが勇気。*1
- 高遠菜穂子(ボランティア活動家):イラク日本人人質事件の人質の一人。*2
- 「命」にこだわって:周りの同意を得られずに、自分が傷つくのが怖くて、だんだん発言しなくなったり行動しなくなったりするときにも、自分の一番大事な価値(命を使い切る。今の命を100%生ききる)にこだわることが勇気。
- イスラエルの人々:イスラエルの徴兵制に批判的な人々(徴兵拒否を申し出た人々。パレスチナ占領政策の真実を語りだした兵士たち。)
- 自分自身の心に正直な決断を実行に移した(勇気を出した)方が、気持ちが楽。
最後にも述べられていますが、こういった勇気を行動に移せるのはあくまで個人の信念なり思いの強さで、ときには孤独の中でその選択を迫られるときもあります。しかし、勇気ある行動を持続できるのは、やはり仲間の支援、もしくは理解されているという実感があってのものです。どのエピソードも、仲間が気持ちを支えてくれたという内容が入っており、愛と勇気だけではなく、本当の友達が必要*3ということなのでしょう。
あとがきで、江川紹子さん自身が、知り合いのいない岩波書店に企画を持ちかけるのには勇気が必要だったという話が出てきます。本全体の内容と比べると、卑近過ぎる話題で、かなりチグハグな印象を受けますが、自身が定義した内容のミニチュア版として、勇気を発揮する場所は、身近にいくらでも転がっていることを、分かりやすく示したかったのだろうと思います。
エベレストやイラクに行かずとも、誰にでも勇気を持った選択をできる。そういった場面を逃さないためには、むしろ、常に勇気のある選択とは何かについて、日頃からよく考えておかなければなりません。ツイッターを通して江川紹子さんの日々の活動を見ていると、そういった選択を何度も乗り越えてこられた方なんだなと思います。*4
いろいろなものに繋がり広がるようなテーマ選びもされているので、勿論、自分のような大人が読んでも得るところはありますが、やはり若い人に読んでもらいたいと思いました。
- 作者: プラトン,三嶋輝夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1997/04/10
- メディア: 文庫
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