内容もさることながら挿絵とつくりが素晴らしかった『素数ゼミの謎』。そのシリーズに当たるのか、石森愛彦さんが挿絵を担当しており、同じ文藝春秋から同じ大きさで出ている2冊と、絵本を1冊読んでみた。
『言葉はなぜ生まれたのか』
- 作者: 岡ノ谷一夫,石森愛彦
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/07/13
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 214回
- この商品を含むブログ (33件) を見る
さて、それはなぜか?どこからやってきたのか?
最初に、ことばの4条件が示される。それぞれの条件を満足する動物はいるが、すべて満足する動物はヒトしかいないというものだ。
- 発生学習ができる(オウム、スズメなど鳥類、クジラ、イルカなど鯨類)
- 単語と意味が対応している(デグーというネズミ)
- 文法がある(ジュウシマツなどの鳥類)
- 社会関係の中で使い分けられる(ハダカデバネズミ)
それぞれの条件の説明後に、どこから言葉がやってきたのかの仮説が示されるのだが、そのヒントが動物のエピソードの中に散りばめられている。すなわち
- 発生学習ができるのは息を止めることができる=呼吸をコントロールできる動物に限られる
- ジュウシマツのオスは、自分の親を含めた複数のオスの歌の部分部分を切り貼りして独自の歌をつくる
- ミュラーテナガザルは、歌を歌ってコミュニケーションするが、規則性がなく、言葉には成っていない。
- ヒトの赤ん坊は、(外敵に襲われる心配がないため)大声でいろいろな泣き方をして親をあやつる
これらの要素を組み合わせて「ヒトの祖先は歌うサルだった」という仮説に辿りつくのがこの本の内容。無から言葉が生まれる(映画のヘレン・ケラーのイメージ)のではなく、音の流れの中から共通の意味を持つチャンクを切り取って言葉が生まれるという過程は、なかなか面白く、またロマンチックで素晴らしい。
素数ゼミと同様、石森愛彦の挿絵も充実しており、家に一冊置いておきたいような本。これも小学校高学年〜中学生にオススメ。
『多賀城 焼けた瓦の謎』
- 作者: 工藤雅樹,石森愛彦
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/07/01
- メディア: 単行本
- クリック: 12回
- この商品を含むブログ (8件) を見る
基本的には内容は、高橋克彦『火怨−北の燿星アテルイ』などで扱われている時代のものなので、当然、それらを読んでから読むと肩透かしになるのだろうが、入門編にはいいと思う。(というか、自分は『火怨』は未読・・・)
文章以上に、とにかく石森愛彦の絵の魅力が圧倒的で、突然現れる見開きカラーページ、さらに驚く見開きページ2連発など、他の本では見られない構成が楽しい。挿絵の点数は「素数ゼミ」や「言葉はなぜ」よりも少ないが、絞って見開きを多用した結果として、「焼けた瓦」が記憶していた走馬灯的なイメージの連なりが、強く感じられる、タイトル通りの本となっていると思う。
これも歴史に興味のある小学校高学年〜中学生にオススメ。
『地球でくらす人と生き物のかかわり(4)微生物を利用する』
地球でくらす人と生き物のかかわり―絵物語で感じ資料でわかる (4)
- 作者: 石森愛彦
- 出版社/メーカー: 文研出版
- 発売日: 1998/03
- メディア: 大型本
- この商品を含むブログを見る
抗菌グッズ大好きな健太君が、「バイ菌なんか消えてしまえ!」と言ったことから、微生物たちがストライキを始める。発酵食品が消え、人間を始め動物たちは、腸内細菌の働きが途絶え、消化不良に苦しみ…と、これまで知らなかった微生物の役割を確認する話。
「地球でくらす人と生き物のかかわり」という全6巻のシリーズで、巻末に総索引があるため、横断的に他の巻を参照しやすいようだ。
ただ、ブレイク前?のためか、石森愛彦本の「クセ」は少なく、つかみは面白いものの普通の絵本という感じなのは残念。
ということで、おそらく『素数ゼミの謎』でブレイクした石森愛彦さんをプッシュする作品として、『多賀城…』、『言葉はなぜ…』が作られているようだ。『多賀城 焼けた瓦の謎』の見開きカラーの連続とかは、この人の絵柄があってこその工夫で感動。こういう癖のある本、作るまでにはとても時間がかかりそうだけど、もっと読みたいなあ。