Yondaful Days!

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色彩あふれる「優しい」小説〜奥田英朗『家日和』

家日和 (集英社文庫)

家日和 (集英社文庫)

先日のブログで、『空中ブランコ』に触れたあと、無性に、奥田英朗の、あの感じの小説〜すぐに読めて大笑いできる小説〜が読みたくなった。しかし、伊良部シリーズは3作目までで続きは無い。Amazonを少し見てみると、連作短編のシリーズものとして2011年に2冊目が出ている「平成の家族小説シリーズ」というのがあるらしく、高評価を得ている。
これこそ今の自分が読みたい小説のはずだと読み始めた。


1話目の「サニーデイ」はネットオークションを題材にした話で、オークションで得た他者からの評価が忘れられない主人公が、隠れて旦那の所持品をオークションに出してしまう。ドタバタだったり、突き放したりするオチも予想していたが、温かい感じのラストを迎える。
同様に、2話目「ここが青山」では会社が倒産し、育児・家事が肌になじんでいく夫、3話目「家においでよ」では、別居を機会に、家の中を自分好みに「改造」した夫、4話目「グレープフルーツ・モンスター」では内職に励みながら、あることをきっかけに淫夢を見るようになった主婦、5話目「夫とカーテン」では、ベンチャー精神が過剰で次々と職を変える夫とイラストレーターの夫婦を描く。全ての話で30代後半〜40代の夫婦が、お互いを見つめ直したり、よりを戻したりする話で、ひとことでいえば「優しい小説」。
そして、6話目「妻と玄米御飯」が面白い。これも最終的には「優しい小説」になるが、内容は、筆の進まない締め切り間近の小説家が、普段感じていた妻やご近所仲間のロハス趣味に対する違和感を爆発させたユーモア小説を書いてしまう話。ロハスな人たちを揶揄する小説を書いた主人公は直木賞作家なので、もし、奥田英朗の奥さんが玄米御飯とヨガにはまるような人であれば、三重構造になっているというメタ的な内容というのがまず面白い。また、かなりロハス的な趣味に批判的な疑問を投げかける内容でありながら、しかし、最終的には夫婦が仲を取り戻し、一方的に誰かを傷つけて笑いを取る内容にはなっていない。
文庫版の巻末に収められたイラストレーターの益田ミリさんによる「奥田英朗鑑賞マンガ」?が、そういった奥田英朗作品の「優しさ」について紹介する内容になっており、これもとても良かった


6編の小説が描く「ささやかな幸せ」は、多崎つくるが36年間手にしなかったものかもしれない。そこには、輝かんばかりのものでないとしても、目を引く色彩があったと感じたのでした。

参考(過去日記)

⇒伊良部シリーズは、ふだん本を読まないような人にでもオススメできるエンタメ小説です。ただ、やっぱり3作目が謎なんですよね。『家日和』で感じたような優しさが少ないのかもしれません。