- 作者: 蒼星きまま
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2011/10/13
- メディア: コミック
- この商品を含むブログ (10件) を見る
昨年末に某所で行われた居酒屋ビブリオバトルで、ヒミツの動物ネットワークをお持ちの識者(?)の方からオススメいただいた本ですが、とても良い本でした!
愛犬・はなこを亡くして傷心の絵本作家・夕闇ほたる先生。庭に生えたピンクのきのこを眺めていたら、もぞもぞと動き出したそれは実は犬、「きのこいぬ」だった・・・。
幼馴染の担当編集者・こまこや、ガチホモのきのこ研究所員・矢島くんを交えて、止まっていたほたるの時間が動き出す・・・
不思議で生意気で可愛い謎の生き物「きのこいぬ」がきっとあなたを癒してくれる♪
愛犬“はなこ”の四十九日の日に、きのこいぬは、絵本作家・夕闇ほたるに何かを伝えようとして生まれました。が、きのこいぬは言葉を喋れないから、それが何なのか、ほたるには分かりません。
でも、ペットとのコミュニケーションはそれが普通です。
自分は犬や猫を飼ったことがありませんが、言葉を喋り出す前の子どもたちのことを思い出してみれば、キャッチボールよりもブーメラン的なものが、ペットとのコミュニケーションなのだろうと思います。ペットから受け取るメッセージは、元から自分の手許にあったものでもあります。
第一話では「たき火(放火?)」、第三話では「転ばし」という、やや暴力的な手段で、きのこいぬは“思い”を伝えようとします。それは死んでしまった「はなこ」のことは忘れて先に進もう!というメッセージでした。ほたるも、そろそろ動き出すべきと思っていたからこそ、きのこいぬが出てきたのかもしれません。
一方で、第四、第五話でより直接的に「文字」で伝えようとしたのは、“ほたる”と“はなこ”のいた日々を、自分はずっと見てきたんだという主張と、本を書こうと決めた子ども時代の日を思い出してというメッセージです。
「まピンクのきのこ」という形で、庭の“雪柳”の下に現れたきのこいぬですが、庭が半焼したあおりで雪柳も焦げた枝だけになってしまい、その後は雪柳は登場しません。
第五話になって、手紙に書かれた「すきです ほたる」という習いたての文字から目を離し、ほたるが庭に視線を移したその先に、久しぶりに美しい雪柳と、真っ白な“はなこ”の姿が見えます。破壊と再生と書くと陳腐ですが、ここでやっと主人公ほたるが自分を取り戻すことができたのだろうと思います。*1
その他にも、ほたるのことを大好きな「ガチ兄さん」とのやり取りなど笑える要素も絡めて、愛犬の死からの心の回復というメインテーマを描きつつ、何より、雪柳の下のきのこいぬというカラフルな風景が心に残る作品でした。
表紙もいいです。
補足
第一話は徳間書店の漫画新人賞である第7回龍神賞の銅神賞受賞作ということですが、昨年末に第12回にして初の金賞が出たのですね。なかなか重みのある金賞です。
月刊COMICリュウ(徳間書店)が、本日12月19日発売の2013年2月号にて第12回龍神賞の結果を発表。吾妻ひでお、安彦良和の選考により堤谷菜央「バースデイ」が史上初の金龍賞受賞作品に輝いた。
参考(ペットに関する過去日記)
- 生きて、そして、死ぬこと〜谷口ジロー『犬を飼う』(2011年10月)
→これは素直に感動できる名作だと思います。オススメ。
- 泣かなきゃダメ?〜村上たかし『星守る犬』 (2010年6月)
→個人的には「分からなかった」という印象があまりに強い本作ですが、このときの文章を読むと2009年キノベス3位なのですね…。天下の紀伊国屋店員さんの総合的評価から考えれば、絶賛レベルでないとしても酷評レベルの話じゃないはずな気が改めてしてきました。自分の感性に疑問が…。