- 作者: 堀米薫,スカイエマ
- 出版社/メーカー: 新日本出版社
- 発売日: 2013/02/01
- メディア: 単行本
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山持ちとして代々続く大沢家の長男・喜樹は、祖父・庄蔵の期待を一身に受けていた。家族から「干物」と陰口をたたかれる庄蔵だが、木材取引の現場では「勝負師」に変身する。百年杉の伐採を見届け、その重量感に圧倒された喜樹は―。山彦と姫神の物語。
『神去なあなあ日常』とは全く異なるアプローチながらも、より日本の林業に対して真面目に向き合った物語だった。作者の堀米薫さんのプロフィールを見ると「宮城県角田市で和牛肥育&水稲&林業の専業農家のかたわら、創作を続けている。」とあるから、ご本人の気持ちがよく現れた作品なのかもしれない。
『神去〜』との大きな違いは、『林業少年』の主人公、喜樹(きじゅ:小学5年生)は、林業を営む山持ちの跡取りということにはなっているものの、まだバリバリに働いているわけではない、という点。そんな彼が、林業を目指して英文科から農学部に希望進路を変更した高3の姉・楓の影響もあり、改めて祖父とその仲間たちの仕事に興味を持ち、林業を学ぶ、という、いわば「社会科見学」的な物語になっている。
だから、焦点が当たるのは、生活の中での林業、というよりは、職業としての林業という面が非常に大きい。
例えば、対照的なのが百年杉の扱い方。
『神去なあなあ日常』と同様に、物語中盤で「百年杉」を切るシーンが出てくる。
『神去…』では、これがクライマックスの祭りのシーンに繋がるのに対して、『林業少年』では、あくまで百年杉は売り物として扱う。切る前の山場は、祖父の庄蔵がお客さんとの値段を直接やり取りする「相対(あいたい)取引」のシーンだし、切ったあとは、「地駄引き馬」、という昔ながらの方法での木材の運搬に話題は流れる。
そして、楓の進路変更に異を唱える母親の林業嫌いは、林業が儲からないことを身に染みて知っていることに端を発する。
これを見てみな!二年前の檜山の清算書だよ。檜を育て上げるのに、下草刈りが十回、枝打ちが二回、間伐が二回、それに伐採経費を加えて総額が四百六十万だ。補助金と売り上げで四百万だから六十万もの赤字なんだよ。これが今の林業だよ。こんなことを大学で勉強して、いったい何になるっていうのよ。
p136
それに対して、楓や、楓の先輩の樹里さんは、機械化が進み、女性も活躍できるような、明るい林業の未来を描いて見せる。
つまり、この本では日本の林業の置かれた厳しい現状と、変われば見えてくるはずの明るい未来の両方を見せる。最終的にはちょうど良いくらいのバランスになっているものの、この辺りは、作者も色々と悩まれたのではないかと思う。
なお、この本が児童書だからということもあるのかもしれないが、主人公たちが林業という職に興味を持つきっかけは、近い世代の年長者の変化だ。楓(高3)は、先輩(新社会人)の樹里の影響で農学部を志し、喜樹(小5)は、楓の変化を見て、職業としての林業に関心を持ち始める。
これは実際の社会でも同じかもしれないな、と思った。自分を振り返っても、仕事について考える際に親に直接の影響を受けることはなく、近い世代の背中や言葉を参考にした。その意味で、これから就職する人たちは、少し年上の社会人たちとなるべく多く付き合う機会を増やした方がいいのかもしれない。
うちの子はそれほど社交的に人と付き合うことができるのか、とても心配だが…。
物語は檜の苗木を植えるシーンで終わる。
ここが見事な檜林になるのは50年後。林業が何十年も先のことを考える頭が必要だという話は『神去なあなあ日常』にも確か出てきた。自分の仕事の成果が、後輩の手に委ねられるようなことはたくさんあるだろうが、ここまでスパンが長いとクラクラしてくる。地球の未来に確信を抱いていないと出来ないという意味で、林業を営むような人は、真の意味でのエコロジストなのだろう。
勿論、大人が読んでも楽しめますが、働くということについて考え、身近な環境が、人の手が入って維持されているということを学ぶためにも、小学校高学年くらいにオススメの本でした。(夏休みの読書感想文の題材なんかにもいいかもしれません。)
林業は、少しビジネス的な視点の本も読んでみたい。あと、話題のベストセラーも。
- 作者: 速水亨
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2012/08/23
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- 出版社/メーカー: NHK出版
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里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21)
- 作者: 藻谷浩介,NHK広島取材班
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2013/07/10
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あと、こんなのも…。
- 作者: 山?真由子
- 出版社/メーカー: 山と渓谷社
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