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門脇、瑞垣、海音寺〜あさのあつこ『バッテリー5』

バッテリー (5) (角川文庫)

バッテリー (5) (角川文庫)


アニメは第5話まで見終えたところだが、次回からついに横手の二人が出てくる。
情報を制限しているせいもあり、現時点では、アニメ上でのキャラクター造形がわからないのだが、横手の天才スラッガー門脇秀吾のイメージは、自分は一貫して、早稲田実業清宮幸太郎だ。オープニングでは、イケメン風のバッターが出てくるので心配なのだが、あれでは嫌だ。青波から「おじちゃん」と呼ばれるに値する人物として、門脇=清宮君で行ってほしいと強く願っている。
ついでに言うならば、海音寺一希はイケメンとして描かれるべきだった。既に登場しているアニメの海音寺の外見にはとても納得がいかない。朴訥とした書生風青年では断じてない。
横手二中の曲者・瑞垣俊二の一枚上を行って試合をコーディネートし、新田東のチームメートから一目置かれ、さらには監督的な役回りをするという、この物語で最も美味しいところを持っていくキャラクターが海音寺である。
序盤の暴力問題でチームを去る展西よりも目立たない、あの根暗そうな外見で、これから始まる大活躍を演出できるのかどうか不安でたまらない。


なお、アニメではなく、原作を振り返ってみると、攻守に指導育成、何をやっても上手くこなす万能キャラクターで、チームメートだけでなく、瑞垣の心の動きまで見通してしまうほどの男が海音寺だ。その海音寺が2巻の時点においては、2年間、常に一緒にいたはず(しかも最後の1年はキャプテン・副キャプテンの関係)の展西の心の内を見通せていなかったのは、解せない。3巻、4巻、5巻と、巻を追うごとに、その人間力が輝きを増していく海音寺は、あさのあつこに言わせれば、「予想外に育ってしまったキャラクター」ということなのだろうか。


閑話休題
この巻での主人公である巧と豪の2人については、ピッチャー・キャッチャーの関係は復活しつつあるが、煮え切らないというか、微妙な距離間での付き合いが続いており、イライラしてしまうので触れない。
それ以外では、海音寺も相変わらずの活躍だが、最も焦点が当たるのは横手二中の瑞垣だろう。


3巻で登場し、4巻で大活躍を見せた瑞垣俊二。
百人一首を愛し、原田を「姫さん」、吉貞を「クリノスケ」と呼ぶ、独特のユーモアがあるが、練習試合中にかけた言葉が、豪の精神面に強いダメージを与えるなど、新田東のバッテリーにとって、ある意味では天才スラッガー門脇以上に重要な人物である。豪に使った作戦のように、自分は冷静のままで相手の感情を操作する方法が、瑞垣のいつものやり方なのだろうが、この巻では瑞垣自身が大きく感情を揺り動かすシーンが二つある。 


一つは門脇を怒らせ、殴られるシーン、そしてもう一つは、巧の危険球に感情が抑えきれなくなり、両頬にビンタをしてしまうシーン。
『バッテリー』では、一貫して暴力シーンに強い意味が込められている場合が多いが、特に、後者は、空気(人の感情)の読めない原田巧の真骨頂。触れるものをことごとく怒らせる原田ウイルスが、最大の難敵に一発決めた場面と言え、これ以降、瑞垣は、巧を「姫さん」と呼ばなくなる。
しかし、この巻で屈指の瑞垣の名場面、名台詞は、これらの2つのシーンではない。門脇との話の中で、なぜ野球部のない高校を選んだか、と聞かれるシーンでのモノローグ。

みんな、一途が好きなのだ。一生懸命な姿が、必死に努力する姿勢が、好きなのだ。一途にボールを追い、一途にバットを振る。汗を 流し、泥まみれになって、時に涙を流しながら、成長していく少年達が好きなのだ。それを見ていることが好きなのだ。感動したと泣き、励まされたと手を叩 く。それは、そのまま、何もしない者への批判となる。一途に何かを追い求めない者への叱咤や嫌悪や軽蔑の刃となる。
うんざりしていた。他のやつのことは、わからない。しかし、自分のことだけは、わかる。おれは、もう一途で懸命な野球少年の役に飽き果てているんだ。 p168


敵チームで最も重要なキャラクターが、高校に入ったら野球をやめるという選択も凄いが、この理路整然とした理屈。普通のスポーツ小説、青春小説では、絶対に書かれない文章で、あさのあつこの「書いてやった」というドヤ顔が見えるようだ。


それ以外での捨てがたい名シーンは以下の2つ。

  • 東谷が「原田、おまえもカノジョとか、作れば…」というシーン(p130)
  • 青波が初めて豪に反抗して「豪ちゃんのバカ。バカやろう。大嫌いじゃ」と言ってリンゴを投げつけるシーン(p149)

まさかの青波→豪の暴力シーンは、豪→巧の暴力シーンからの流れで、よく読むと、原田が東谷のアドバイスにしたがって、豪に、(カノジョかもしれない)伊藤さんの話をしたのに、逆切れされるところから繋がっている。ということで、ここら辺は、原田巧がマイペースを貫きながらも、少しずつ姿勢を変えつつある部分なんだと思う。
この5巻は、ストーリー的にはほとんど進まないものの、豪と巧の関係性、門脇と瑞垣の関係性など、少しずつ関係性に変化が生じており、最終巻である6巻に向かっている。6巻でどのような着地を見せるのか、とても楽しみだ。