Yondaful Days!

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前向きな感情と言葉を取り戻すための技術~本田美和子『ユマニチュード入門』

ユマニチュード(Humanitude)はイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティの2人によってつくり出された、知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションにもとづいたケアの技法。この技法は「人とは何か」「ケアをする人とは何か」を問う哲学と、それにもとづく150を超える実践技術から成り立っている。開発者と日本の臨床家たちが協力してつくり上げた決定版入門書!

ユマニチュードという言葉自体は最近知った言葉で、少し前に読んだ鳥羽和久『おやときどきこども』の中に取り上げられていた。本の中では、いじめなど小中学生の問題解決の中で、いじめる側、もしくは、いじめられる側に目を向けるのではなく、その「関係性」に目を向けるべき、との話があり、それが、ケアで使われるユマニチュードの考え方だと紹介されていた。

これについては、『ユマニチュード入門』にも当然書かれている。

ケアを行うのは病気や障害があるからですが、ケアの中心にあるのは病気や障害ではなく、ケアを必要とする人でもありません。その中心に位置するのはケアを受ける人とケアをする人との「絆」です。この絆によって、両者のあいだに前向きな感情と言葉を取り戻すことができるのです。p34

2度目の誕生に欠かせない、まわりの人からまなざしを享けること、言葉をかけられること、触られることが希薄になると、周囲との人間的存在に関する絆が弱まり、”人間として扱われているという感覚”を失ってしまうおそれがあります。
さらに立つことができなくなり、寝たきりになってしまうと、人はその尊厳を保つことが難しくなってきます。つまり人が人として生きていくことが困難になり、つらい生き方を強いられることになります。ですから、その人の周囲にいる人々はその状況を理解し、希薄になっていく絆を積極的に結び直していく必要があります。p36

つまり、ユマニチュードの基本は、人間の尊厳にあり、人は生物学的に生まれるだけでなく、他者によって認められることで「2度目の誕生」を経て、やっとその尊厳を得ることができる。
こう書くと、精神論のようにも聞こえてしまうが、実際にはユマニチュードは「技術」であり、「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの行為を基本としている。
実際、自分は家族や近い親戚にケアが必要な人がいない状態でこの本を読んだが、技術として参考にできるところは十分あったと思う。特に「見る」「話す」は日常的なコミュニケーションを想定しながら読み進めた。

ユマニチュードで、病気や障害ではなく、関係性に目を向けるのは、「話す」技術として書かれているオートフィードバックの考え方にも表れている。
「オートフィードバック」は、「受取り手」からの返答(フィードバック)がない場合に、「送り手」がコミュニケーションを続けられるように、エネルギーを補給する方法として紹介されている。つまり、ケアを行う側が、いま実施しているケアの内容を「ケアを受ける人へのメッセージ」と考え、その実況中継を行うという方法だ。以下にp59の図を引用する。
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本の中では、さらに具体的な場面を想定して、反応がない人へのアプローチの方法が紹介されており、ケアの現場の困難さを改めて思い知る。しかし、その困難との向き合い方が「適性」ではなく「技術」でカバーできる(p117)と考えること自体、ユマニチュードが、ケアを行う側への救いになるのだろうと想像する。

なお、ユマニチュードでは4つの基本にも入っている通り「立つ」ことが重視されている。ベッドで寝たままだと1週間で20%、5週間では50%の筋力低下を来す(p22)ということを考えると、重要であることはわかるが、転倒リスクとの兼ね合いがあり、巻末のQ&Aでも複数の質問に回答している。
また、現場における時間捻出の難しさについても言及されているが、時間がないのが問題ではなく、ケアの優先順位の問題であるとしている。「選択には常にリスクがともないます。リスクをとることを許さない社会であってはならないとわたしは思います。(p101)」という言葉もある通り、人間の尊厳を守ることが最優先であり、転倒のリスクをゼロにする(拘束する)ことをそれより優先すべきではないということだろう。

本は非常に読みやすく、「関係性に目を向ける」という部分について思考を掘り下げるということはできなかったが、今後、自分が介護する側される側になったことを考えても参考になった。
効率性を重視するあまり、尊厳を軽んじると、会社組織であれば離職に繋がるなど、結局、非効率になる。ケアという、もっと直接的に「人間の尊厳」と向き合う職業においても、効率や時間と常に戦わなくてはならないのは、映画『家族を想うとき』などでもまさに描かれていたが、絶対に優先しなくてはならないことがあるということを改めて知った。
コロナ禍で、コミュニケーションの形が大きく変わっていく中で、何を大切にしていくかは、コミュニケーションに関する本をもっと読んで勉強していきたい。

参考(過去日記)

pocari.hatenablog.com
pocari.hatenablog.com