人気報道番組の放送数時間前、ある特集の内容について局の上層部から突然の内容変更を命じられ、現場は大混乱に陥る。 編集長の今森やキャスターの来宮は抵抗するが、局内の“空気"は徐々に変わっていき……。 公演当時、観客の背筋を凍らせ、「社会派ホラー」と評された問題作、待望の書籍化! 第25回読売演劇大賞最優秀演出家賞、同優秀作品賞・優秀女優賞受賞作。
3月に発売になった『ザ・空気 ver.3 そして彼は去った』が気になったので、第一弾を読んでみた。
いわゆる戯曲で、話はテンポよく進み読みやすい。
ただ、演劇で見るのと比べてかなり印象が異なるのだとは思うが、予想以上に「ホラー」や「デフォルメ」はなく、つまり「それは知ってる」という感想に近くなってしまう。
舞台の上演は2017年1月~2月ということで、つい4年前のことなのだが、この4年の間に似た状況が繰り返しあった故なのか、ここで扱われている内容は、テレビ番組制作の「舞台裏」とか「真相」(何~!こんなことが起きていたなんて!)として驚ける内容には全く感じられない。むしろ、毎日のようにtwitterを通して目にするような話だ。
例えば映画『新聞記者』は、「もしかしたらそうかもしれない」という括弧つきの「真実」を扱うことで映画作品として成立していた。しかし、『ザ・空気』は、「これはむしろ再現VTRでは…」と思ってしまうほど誇張がない。
作者もあとがきで語る通り、そして作中で何度も書かれている通り、この話のきっかけは高市早苗総務大臣(当時)の「電波停止発言」(2016年2月)がもとになっているという。
確かに、その後、政権の顔色を窺うような番組作りの事例が目立つようになった。特に、最近も話のあった「クローズアップ現代+」の終了に関するニュースなど、NHKの番組制作に絡めた「忖度」のニュースが目立つ。
調べてみると、「電波停止発言」の直後に、国谷裕子さんの「クローズアップ現代」降板騒動はあったし、それ以外のニュース番組における顔ぶれ変化も同時期のようだ。(たとえば以下のLITERAの記事は、国谷キャスターの降板を扱っているが、結びの文章は以下の通り)
NHKの籾井会長は「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」と、公共放送のトップにあるまじき発言を行ったことがあるが、いままさにNHK全体が、そして民放も、その言葉通りになりつつある。事実、高市早苗総務相の「電波停止」発言に対して抗議声明を出したジャーナリストたちのひとりであるTBSの金平茂紀氏がTBS執行役員から退任すると発表されたが、これもまた粛正人事だという声もあがっている。
国谷キャスターにつづいて、膳場キャスターと岸井氏が25日に、古舘キャスターは31日をもってそれぞれの番組を去る。国谷キャスターは多くを語らなかったが、膳場・古舘キャスターにはぜひ最後に、メディアの危機的状況について言及してほしいものだ。
さて、『ザ・空気』に話を戻す(以下ネタバレあります)が、この本のラストは、番組制作でのトラブルから衝動的に9階から飛び降り、てしまった番組「編集長」が、奇跡的に助かり、番組スタッフと2年ぶりに再会するシーンで終わる。
その2年の間に、憲法が変わり、自衛隊は国防軍になり、緊急事態法も共謀罪も成立している。これからは組織に属さず、一個人のジャーナリストとして調査報道をやっていくという決意を示した主人公に、かつて、番組制作をともにした同志はこう言う。
調査報道なんかして、特定秘密保護法に触れちゃったらどうするの?(略)
さようなら。あなたといるだけで危険なの。もう二度と連絡しないで。私の前に現れないで。
もしかしたら、そういう「空気」は止まらないのかもしれないが、慣れっこになってはいけない。
その意味では恐怖を感じるとともに、第二弾、第三弾がどのような内容になっているのかは、とても興味がある。また、国谷さんなど、実際のテレビ番組制作に携わる人の本も読んでみたい。
- 作者:永井 愛
- 発売日: 2019/12/03
- メディア: 単行本
- 作者:永井 愛
- 発売日: 2021/03/04
- メディア: 単行本
- 作者:国谷 裕子
- 発売日: 2017/01/21
- メディア: 新書
メディアの闇 「安倍官邸 VS.NHK」森友取材全真相 (文春文庫 あ 86-1)
- 作者:相澤 冬樹
- 発売日: 2021/01/04
- メディア: 文庫