Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

公的支援だけでは問題は解決しない~石井光太『本当の貧困の話をしよう』

日本は国民の7人に1人が貧困層。君たちが幸せをつかむために今知るべきこと。最底辺のリアルから始まる「新しい世界」のかたち。人生への向き合い方が「180度変わる」感動の講座。

一度『遺体』を読みかけていたが、辛くて読み切れなかったので、石井光太さんの本は実は初めてだ。
この本は「はじめに」に「17歳の君たちへ」と書かれているように、高校生向けに書かれたもので、イメージ的には岩波ジュニア新書やちくまプリマー新書のような内容。基礎的な部分から語られているだけでなく、読者の「君」に語りかける文体で、読んでいて、石井光太さんの熱にあてられる。


良かったのは、まさに、その「熱」の部分だ。世界をより良くしたいという熱に満ちている。
日本や世界の貧困について、いくつかに分類・図式化して、わかりやすく説明することを心掛けており、読者は、誰もが貧困の問題を自分事として捉え、問題の「認識」だけでなく「改善」の方向に目が向くようになっている。


国内外の事例について相対的貧困絶対的貧困など、用語の説明も絡めながら、繰り返されるのは「自己否定感」。

石井さんは、貧困問題に対する国の「パブリック」な取り組み(生活保護など法制度によって社会制度を整える)だけでは、制度があったとしても日常生活の中で劣等感を積み重ね、自己否定感が払拭できないという。
そこで、子供たち一人ひとりに向き合う「プライベート」な支援を行うNPOなどが重要になってくる。
それらNPO団体の代表的な取り組みである「子供食堂」や「無料塾」は、実は表向きのものであり、彼らがもっとも大切にしているのは心の健康であるという。

なぜ食事や勉強以外のことに力を入れているのだろう。
貧困家庭の子供たちの自己否定感は、質素な食事や教育費の不足だけで生じているわけじゃない。スポーツをする相手がいない、母親が仕事で疲れきって会話がない、誕生日を祝ってもらえない、といったことが積み重なって大きくなっていく。
NPOの人たちは、そのことをわかっている。だからこそ、子供食堂や無料塾という場に子供たちを集めた上で、本来の事業以外でも様々な形で子供たちの生活を支援することで自己否定感を取り除き、自己肯定感をつみ上げてもらおうとしている。
いわば、子供食堂や無料塾は、自己肯定感を構築することによって「心のレベルアップ」を目指す取り組みなんだ。p43


また、支援の手を差し伸べても、すぐに悪い道に舞い戻ってしまう、海外のストリートチルドレンについて取り上げた部分での「学校」についての言及も心に残る。
自分の未来について考えていく力(イマジネーション)がないと、どうしても当面は楽になる悪の道を選んでしまう。
そうしたイマジネーションをはぐくむ場こそが学校だという。

学校生活を通じて身につけるのは次のようなことだ。

  • 学校という社会の中で居場所の見つけ方や自己主張の仕方を学んでいく
  • いろんな家庭や仕事や人を知り、自分にとっての夢や理想を見つける
  • 困難の壁が立ちふさがった時、誰に助けを求め、どうやって乗り越えるかを知る
  • 自分だけでなく、他人を思いやる気持ちが、最終的に自分を救うことに気づく

学校とは単に学力をつけるだけでなく、社会で生きていくために必要なスキルを身につける場なんだ。
当たり前のように学校へ通っている君であれば、先生の言葉や同級生と触れ合う中で、知らず知らずのうちにこのような術を身につけているだろう。p128

そんな大層なことを学校では学んでいない。
と反論したくなるが、全く学校に行っていない子どもたちと比較するとどうだろうか。
ちょうど先日の報道特集で、無戸籍の人たちが取り上げられていた。そのうちの一人は30歳を過ぎても義務教育を受けて来なかったため、足し算や文字の読み書きがままならない。そもそも集団での生活に不安を感じるとのことで、従事できる職業も限定される。
学校にも行きたかったが、何度聞いてもはぐらかされるので諦めてしまったというが、無戸籍者への支援活動をする方のサポートを受けるようになって、止まった時計が動き出す。


石井光太さんのいうように、社会の中での壁の乗り越え方を全く学ばないままに生きてくると、「諦めること」が基本になってしまい、自らトライすることどころか、他人に頼るという方法があることにすら気がつかない。

そこをサポートし、「心のレベルアップ」を図るような働きかけが、実は、読者一人ひとりができることなのだという。
最後に石井さんはマザーテレサの「もしあなたが100人の人に食料を与えることができないのなら、ただの1人の人に与えなさい」という言葉を挙げて次のように説く。

この講義を聞く前まで、君は貧困を解決するには政治家になっていっぺんに全員を救うようなイメージをもっていたかもしれない。でも総理大臣だって、国連の事務総長だって、そんなことをすることはできやしない。一人の力に任せるのではなく、僕たち一人ひとりが自分にできることをしていくことが重要なんだ。それが地域支援なんだ。そうした地域支援が日本各地に広まれば、未来の社会は想像もできないものになるはずだ。
(p252)

ちょうど、自民党公明党子育て支援を目的とした10万円給付を決め、賛否が分かれている。それとは別途、子育て支援以外に生活困窮世帯や経済的に困っている学生に向けた給付も行う予定がある。

貧困「問題」は、こうしたパブリックな支援だけでなく、NPOに限らず地域社会によるプライベートな支援が重要になってくる。そこには政治家でない自分たちがどうかかわっていくかが問われている。他人事のように政権批判をしているだけでは日本の未来は良くならない。

未来のために、自分なら地域社会で何ができるか、そういう視点をこれまでよりももっと強く持っていきたいと感じた一冊だった。

次に読む本

上には書かなかったが、本の中では、貧困の中から成功した有名人が何人か取り上げられている。伝記タイプの本は苦手意識があるが、読みやすいものから読んでみたい。


また、石井光太さんの本もちゃんと読まなくては…