Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

圧巻!!!〜園子温『愛のむきだし』

愛のむきだし [DVD]

愛のむきだし [DVD]

キリスト教、罪作り、盗撮、アクション、カルト教団、三角関係、女装、脱出・・・。
世界が認めた衝撃のエンターテインメント超大作(&問題作)
237分の衝撃─。実話をベースに描く、無敵の“純愛”エンターテインメント(Amazon紹介)

女優 満島ひかりを初めて見たのは、モテキのテレビ版第二回。
そもそもは、ライムスター宇多丸の映画評論コーナー「ザ・シネマハスラー」で、連続して取り上げられて気になったのがきっかけだったが、そのときは顔と名前が一致しなかった。
しかし、モテキのドラマで見た「いつかちゃん」役での存在感たるや、物凄いものがあり、『愛のむきだし』流に言えば、自分は、そこにマリア様を見つけたのだった。


つまりは、『愛のむきだし』を見たのは、その評価の高さもさることながら、満島ひかりを観るため、というのが何よりも一番の理由だ。
しかし、映画を見始めると、その人から目が離せないような登場人物が、満島ひかり演じるヨーコの他にも2人いた。『愛のむきだし』は、物語以上に、ユウ、ヨーコ、コイケ3人の魅力が爆発した作品だ。
映画を見た後で、過去のpodcastから、シネマハスラーでの「愛のむきだし」評を聞くと、この3人で別のストーリーも観たい、という話が出ていたが、全く同感。4時間と言う長さも、この映画の特徴ではあるが、3人を堪能するには、もっと長い時間が必要だ。
以下、3人の紹介を中心に、なるべく直接ストーリーに触れないように、映画の感想を書く。

ユウ

まずは主人公ユウ。ユウを演じるのは西島隆弘。映画を見た後、Wikipediaで知ったが音楽グループAAAのメンバーだという。
ポイントは、アクション、女装、勃起。
映画前半を盛り上げる、アクロバティックな盗撮シーンや、運命の出会いにつながる喧嘩シーンを構成する重要な要素であるアクション。
そして全般に渡り、鍵となる女囚サソリの女装。見た目も重要だが、ヨーコに女性だと勘違いさせた重要な要素は「声」。男が甲高い声を出しているユーモラスさを残しつつ、女の人の声にも聞こえる絶妙なバランスは、西島隆弘で無ければ無理だったのではないかと思う。
そして、勃起。この映画では、非常に重要なキーワードであり、勃起=愛を意味する。「勃起を恥じるな。愛を恥じるな。」は、映画の中での名台詞ナンバー1だと思います。
とはいえ、セリフとしても多く登場するだけでなく、シティハンターの「モッコリ」を思い起こさせるような映像演出もあり、一つ間違えればコメディになりかねない。それを嫌らしくなく見せるのは、勿論、物語の筋と登場人物の性格付けにもよるが、やはり西島隆弘のハンサム過ぎず、素朴さ、純粋さを醸し出す外見によるところが大きい。

コイケ

次にコイケ。新興宗教ゼロ教団の幹部で、いろいろな側面を持つ謎の女コイケを演じるのは安藤サクラ。これもWikipediaで知ったが、奥田瑛二の娘。
ポイントは、狂気、グロ、エロ。
盗撮中のユウと出会ったコイケは、自分と共通する部分をユウの中に見つけ、狂気の世界に引き込もうとする。それはコイケなりの愛情表現でもありながら、「好きな子だからいじめる」という小学生的論理が暴走しているので、とにかく怖い。でも気になる。
この映画には、グロテスクなシーンがいくつか登場し、大体コイケが関係しているのだが、その中でも忘れ難いのが「ちょん切る」シーン。安藤サクラ演じるコイケ以外では、漫画みたいになってしまうかもしれないが、この人がやるとひたすら怖い。
そしてエロ。父親に「何でお前の体はこんなにいやらしいんだ!!!」と罵倒されるシーンがあるが、実際には、顔もスタイルもA級と言うわけではない。が、表情と動きが艶めかしく、後半部は、かなりドキドキするシーンが多い。この人が『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』ではブス役で出ているというから、こちらの作品も逆に気になる。
テニスウェアのような白の上下のコスチュームと手乗り文鳥も、この人が演じなければやはりコメディのようになっていただろう。また、この映画で一人だけ浮いていると感じる教団のミヤニシが薄っぺらい感じなのも、むしろコイケの存在感をさらに増す効果を与えている。

ヨーコ

最後にヨーコ。ユウにとっての運命の人、探し求めていたマリア様であるヨーコを演じるのは、冒頭で触れた満島ひかり満島ひかりは、Folderのメンバーで、ユウと同様、ダンスの素養がそのままアクションシーンの魅力に繋がっている。
ヨーコのポイントは、マリア様、エロ、感情表現。
ヨーコは、(ユウから見ると)マリア像にそっくりという設定なので、見た目のハードルがやや高い。安藤サクラが、ヨーコを演じたとしたら、初登場シーンから、やや疑問符がついてしまう気がするが、満島ひかりだったからすんなり入り込めた。
そしてエロ。パンチラ、パンモロ、オナニー、レズシーンとエロの要素満載ながらも、全て真っ向勝負で完璧に演じる。役者魂があり過ぎて、ちょっと怖くなってくるほどだ。
最後に、感情の動き。ヨーコは、前半は、シネマハスラーでの満島ひかり評で必ず出てくる「感じ悪い」女の子を名演。そして後半部は、感情がはじけるシーンが多々あり、これが物凄く巧い。浜辺でユウに馬乗りになりながら「コリント人への第一の手紙・第13章」を延々と絶叫する長台詞シーン。セリフの内容とともに、その名演に感動するシーンだが、それと同じくらい凄いと思ったのは、ヨーコを連れだしたユウを教団が確保して、車の中でコイケにナイフでチョン切れと命令されるシーン。セリフは無いが、頭が混乱し、引き攣るように嗚咽を続ける名演は鳥肌ものだ。

小説版「愛のむきだし

園子温監督による小説版「愛のむきだし」を読んで改めて思ったが、この映画はストーリーも面白いものの、やはり「映画作品」としての完成度が高く、映像が必須である。
あの3人が、この映画の面白さを引き出しているのだから当然だろう。
最初に小説版を読む人はほとんどいないとは思うが、映画は必ず見るべきである。そして映画を見た人ならば、復習がてら、小説版を読むのもいいと思う。

愛のむきだし

愛のむきだし

ゆらゆら帝国『空洞です』

この映画は音楽の使い方もうまくて、プロローグに当たる、ユウとヨーコが出会う前のシーンは、ひたすらボレロが流れる。その後、シーンシーンに挿入されるのは主題歌でもあるゆらゆら帝国「空洞です」や「美しい」。これらの曲は、歌詞の内容にゼロ教団の教えとリンクする部分があり、教団の合宿所でも歌われていたりし、映画との結びつきが非常に強いものとなっている。
こういった曲が好きかどうかと問われれば、よく分からないし、以前もよく分からなかったからゆらゆら帝国には深入りしなかったのだが、映画を見た人にとっては、耳から離れない名曲だ。

空洞です

空洞です

まとめ

映画の力を感じた。
俳優の力を感じた。
見ていない人は、まずは予告編だけでも。