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エヴァ・ハイネマンとは何だったのか〜浦沢直樹『MONSTER』(13)〜(15)

Monster (13) (ビッグコミックス)

Monster (13) (ビッグコミックス)

待つ相手がいるってことは幸せなこった。
相手が来ようと来まいとな。(15巻P98)

捕まってからも、テンマにはいくつかの出会いがある。脱獄王のギュンター・ミルヒ、「スパイの息子」である弁護士フリッツ・ヴァーデマン、そして弁護士パウルとして久しぶりに顔を合わせたロベルト。
一方で、13〜15巻の流れでは、(テンマ、ニナに続く)第三の主役は、エヴァ・ハイネマン。テンマのもとへ車を飛ばしてくれと、瀕死の状態で登場する(ブラッド・ピット崩れの)マルティンの登場で、物語内のエヴァの位置づけは格段に上がる。


これまで、エヴァは、テンマの元婚約者であり且つ、テンマの殺人容疑のかかった事件で真犯人を目撃している重要人物という扱いで登場してきた。しかし、物語のラストでテンマと結ばれて大団円という話ではないことは分かっているので、何故、彼女を物語内で泳がせておくのか、作者の意図がよく分からなかった。
しかし、マフィア映画のように暴力シーン満載で進むマルティンのエピソードのラストでそれが分かった気がする。表に出てこなかった、エヴァマルティンがお互いを想う気持ちが、待ち合わせのフランクフルト中央駅でピークに達する。冒頭に挙げた、駅の掃除人のセリフの通り、物語全体の核にあるのは、絶望的な状況にあろうとも「ともに生きる」という意思だけで人は幸せになれる(逆に言えば「誰も死にたがってなどいない…」)ということ。
また、変態男ロベルトへのエヴァの恐怖の表現も、『MONSTER』という物語の一面を象徴するものである。


ただし、最近のヨハンの容姿を知る者としてエヴァがピックアップされ、メガネの男=ペトル・チャペックから、フランクフルトでの首実験をお願いされていたというのは、やや無理矢理かと思う。(他にも適任は沢山いるはずだし、「赤ん坊」との関係から言って、彼らの勢力がこれまでヨハンと直接会っていなかったというのは説明しづらい)

食事シーン

13〜15巻でのベスト食事シーンは、テンマがひき逃げ後にかくまわれたコラーシュ家で7人で囲むベトナム料理。テンマが親子丼の説明をして、7人が爆笑するシーン。(15巻)ひとときの幸せをかみしめるように「こんなおいしい料理…こんな楽しい食事は…本当に久しぶりで…」と喋るテンマのセリフに、読者もほっとする。
また、弁護士ヴァーデマンから手帳をもらい、テンマがバラの屋敷に向かう際にヒッチハイクした運転手からもらう“いつもの”サンドイッチ(バンズ部分がしいたけのようになっていてゴマがかかっているハンバーガー形状のもの。個人的な呼び名は「しいたけバーガー」)も美味しそう。改めて、『MONSTER』における食事表現の重要さを感じる。

大好きなルンゲのチェック

ルンゲは相変わらず絶好調。

  • プラハ署内で、連行されるテンマに、ルンゲがすれ違い際に取り調べへのアドバイスを送るシーン。(13巻)
  • ヴァーデマンに父親が、チェコスロバキアの秘密警察と深い関わりがあったことを告げるシーン。(13巻)
  • ニナと別れたあとの人形使いのリプスキーの家を訪れ、フランツ・ボナパルトの息子であることを告げるシーン。(14巻)

全てが、今後の登場人物の行動に大きな影響を与える重要な役割で、かつ、ヴァーデマンとリプスキーについては、事実が読者にも初めて明らかになるシーン。一種のスーパーマン的に動くことが許された人物に成長してきた。これからもワクワク。