Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

民主主義=多数決ではない!〜加藤良平『多数決とジャンケン』

多数決とジャンケン ~ものごとはどうやって決まっていくのか

多数決とジャンケン ~ものごとはどうやって決まっていくのか

先日、ラジオで宮台真司が「民主主義は多数決という考え方はもうやめよ。」というテーマで話すのを聞いた。*1いわく、民主主義とは参加と自治が本義であり、多数決はその一要素でしかないというのだ。自身が関わる東京都「原発」都民投票*2についても、その参加と自治を担うものとして重要だと説く。
住民投票ポピュリズムではなく、公開討論会やワークショップで情報公開と議論を重ねた上で意思決定を行うことで、医療で言うセカンド・オピニオンやインフォームド・コンセントの概念と同様であるという。


一方で、2020年原発全廃を判断したドイツのメルケル首相の論法を例に挙げ、原子力発電所自体が、民主主義の枠に収まらないことも指摘していた。
確かに、少なくとも、原発の問題については、従来のような決め方は限界に来ていることは明らかだ。自分は、宮台真司が最近説いているような原発絶対反対という論には、全面的には賛成できないでいるが、こと「決め方」については、【「原発」都民投票】の考え方は非常に納得できる。

設置・稼働という重大な案件を、首長ひとりや議員に委ねることは誤り。これは、主権者1人ひとりがよく考えた上で決めるべきことです。


さて、この本は、小中学生向けに書かれた「ものごとの決め方」の本。前半部では。多くの人が納得できる「ものごとの決め方」の一例として、民主主義の重要な要素である「多数決」と「選挙」について詳しく書かれている。これに加え、それらとは全く異なる「決め方」=偶然の結果に頼る決め方として「ジャンケン」「コイン投げ」「くじ引き」について、公平に行なうにはどうすればいいかを吟味する。タイトルの『多数決とジャンケン』とは、つまり、ものごとの決め方の2グループそれぞれの代表例ということになる。
クラス委員の決定や文化祭の出し物など、むしろ小中学生の方が大人よりも「ものごとの決め方」に悩む場面が多いかもしれない。その意味では、大人からの押し付けがましい教養本というよりは、子どものニーズに合った本と言える。


多数決の部分では、票割れや決選投票など、テクニカルな部分に触れつつも、民主主義と多数決とは完全に同じではないということについて繰り返し書かれる。多数決以上に重要なことは、十分な話し合いと少数意見の尊重であるとし、それを踏まえた多数決の基本的な考え方は

  • いくつかの案があるときに
  • 十分に話し合い
  • また多くの意見を尊重したうえで
  • 必要なら案を修正し
  • そのうえで賛成する人がいちばん多いものに決め
  • みんなでそれに従う

だとしている。これを読むと、改めて民主主義の基本プロセスはそんなに変なものではないことを知る。大事なのは、意見の修正をしながら対立陣営が歩み寄って合意点を見出していくこと。日本の政治ではそれがスムーズに行なわれていないことが問題だ。というより、議論そのものが不得意なのだろう。宮台真司も挙げているよう、専門家による審議会での意見集約の方法を見ても、実質的な「議論」は行なわれていない。国際化というのは語学力以上に議論できる力が必要とされるのかもしれない。日本人にとっては。
なお、この部分の内容は、具体例を挙げて説明されているので、非常に分かりやすく、類似意見が出ることで票が割れて多数派が負けることがあることも、子どもにもすぐに理解できるだろう。低学年では難しいかもしれないが、小学生4年生くらいから面白く読め、そして役に立つ内容になっている。


なお、後半部のジャンケン、コイン投げ、くじ引きの部分は、確率的なものの考え方を養う意味で面白い。特に、通常3すくみのジャンケンを4すくみにした場合、5すくみにした場合を考える部分が面白い。4種ジャンケンでは、それぞれの種類で1勝2敗と2勝1敗の2ケースが出てくるため、うまくいかないが、5種ジャンケンでは、どの種類も2勝2敗となるようにルールを決められる。(五行説の木、火、土、金、水)Eテレすイエんサーでも「じゃんけん必勝表」の話題を時々扱っているが、「公平に見える決め方」の公平性がいつ崩れるか、というのは知っておいた方がいいかもしれない。

いくらでも枝葉を広げられる内容だが、シンプルな構成にまとめられているおかげでとても分かりやすい内容だった。小中学生には特にオススメ。

*1:金曜日のTBS RADIO 荒川強啓 デイ・キャッチ!podcastです。

*2:都知事への署名提出が最近ニュースになった→原発都民投票求め 32万人分署名提出 来月都議会審議