Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

『おおかみこどもの雨と雪』で過ごすもう一つの夏休み

おおかみこどもの雨と雪』は、公開一週間後に、よう太と一緒に府中に見に行った。
サマーウォーズ』から想像したものとは全く異なる映画で、呆気にとられた。シネコンが入ったビルを出て、壁面に据え付けられた大型画面で、改めて予告編映像を見ると、今見たばかりの映画の印象とは全く別物で驚いた覚えがある。

  • こんなに普通の感じのアニメ映画じゃなかった。
  • こんなにドタバタしてなかった。
  • 少なくとも、耳がぴょんと出た可愛いキャラが動き回るようなシーンは、映画のほんの一部に過ぎなかったじゃないか。

で、ストーリーを思い返すと、いろいろと花に対して共感できない部分ばかりが思い出されてしまい、書き出すと批判記事になってしまいそうで、でも、それも自分の感じたことと違うと思い、ブログに感想を書くのもお預けになっていた。


さて、ときどき、自分の言いたいことのかなりの部分がわかりやすい言葉で書いてある、と思う文章に出会うことがある。
おおかみこどもの雨と雪」について、ストーリーに関わる点で感動した部分と、気になった部分は、以下のブログ記事に全て書いてあった。


この文章だけで、自分の中のモヤモヤには、ある程度、ケリがついてしまった。
しかし、物語部分について、もう一度振り返ってみると、「これは何を意味しているのか?」というような深読み要素を残す部分はあまりなかった。やはり、上の引用ブログでも書かれているように、むしろ取り上げたテーマの未消化な感じや、「超人的すぎるお母さん」である主人公・花に共感できない部分が目立つ。いろいろ考えていくと、映画館で見たときの感動はどんどん減っていってしまうような気がする。
しかし、クライマックスの花の意志を持った笑顔にはカタルシスがあると思った。
結局、ストーリーだけでは語れない映画なのだろう。


特に「見せ方」はポニョなどとは大きく異なる部分だ。
周囲の人間の子育て風景にヒントを得たという、「おおかみこども」に似た着想部分を持つ『崖の上のポニョ』が、紙芝居的な部分、つまり絵として楽しいし、次めくったらどうなるのかドキドキワクワクハラハラする展開、そしてキャラクターの動きの魅力に相当力を入れていたのと比べると、かなり退屈な展開だ。
それを別の言い方で表すとするならば、『おおかみこども』は、「過ごした感」「暮らした感」が強い映画だと思う。
特に田舎に住むようになってからの展開は、紙芝居を見るというよりは、登場人物と一緒に時間の流れ方を感じるような物語になっていたと思う。SWITCHの特集や、タマフルのシネマハスラーを見て聞いて、その理由を考えると、「引きイズム」*1や「長回し」という演出上の特徴にその理由があるようだ。紙芝居的な物語展開では、考える暇もなく変わりゆく展開を、主人公に一番近い傍観者として、気を揉みながら眺める。ポニョという半魚人を見る目は、親戚の子どもを眺める視点だった。
おおかみこどもの「引きイズム」や「長回し」は、むしろ考える暇を与えられる。主人公の思考を追体験しながら、雨と雪の親の視点で、子どもの成長を見守る。見せ方(演出)の違いは、見る者の感じ方に大きく影響してくるのだろう。そう考えると、子どもたちは、もしかしたら、雨と雪の視点で、つまり自分とは異なる視点で、この映画を眺めているのかもしれない。


それら演出とも関連するのかもしれないが、自然の描き方も面白かった。
畏怖の対象としての自然ではない。
賛美の対象でもない。
昔からそこにあり、共生していくという感じなのかもしれない。あれだけ自然の美しい映画なのに、そこに焦点が当たらない感じは面白い。
また引き合いに出すが、ポニョやトトロとは違って、自分たちの生きている世界とつながっている感じが強い。それはやっぱり「過ごした感」「暮らした感」を促す演出が理由ということになるのだと思う。
ストーリーやキャラクターの魅力だけではない、映画の総合的な部分で、観ている側の人生を肯定する。何だか、映画は凄いんだなあと思った。

…きっとそれは、映画が泣かせているんじゃないんです。観た人が、自分の人生に泣いてるんです。
感謝したこと、感動したこととか、悲しかったこと、そんな人生における様々なことを映画を見ながら思って涙を流している。
だからみなさん映画がよかったと言ってくださるけど、おそらくそれは映画がいいからではなくて、例えばご両親への思いとか、子どもへの思いとか、恋人への思いとか、そういう経験があるから泣けるんだと思う。
それぞれがいい体験を持っているからなんです。そんな風に僕は思います。
(SWITCH8月号 細田守監督インタビュー)

細田守監督の言葉がまさにこの映画の良さを言い表していると思う。
この映画を見ることで、もう一つの(13年間の)夏休みを過ごし、自分を振り返り、そして今リアル夏休みを過ごしている。たかが映画と侮るなかれ。そこには人生が詰まっている。

参考

  • SWITCH8月号

SWITCH Vol.30 No.8 ◆ 細田守『おおかみこどもの雨と雪』はこの世界を祝福する

SWITCH Vol.30 No.8 ◆ 細田守『おおかみこどもの雨と雪』はこの世界を祝福する

細田守監督のロングインタビューも良かったが、原恵一監督との対談がまた良かった。2人の作品はもっと見たいなあ。
河童のクゥと夏休み 【通常版】 [DVD]

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細田守監督に関する参考文献として、以下の雑誌フリースタイルが挙げられていました。買おうか。

フリースタイル VOL.7  特集 細田守──『時をかける少女』を作った男

フリースタイル VOL.7 特集 細田守──『時をかける少女』を作った男

後編では、監督自ら「おおかみこどもの雨と雪」について語る部分もあります。もっといろいろ映画見てみたいです。

台風クラブ [DVD]

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ときめきに死す [DVD]

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*1:動いているものを中心に大きくとらえる普通のアニメとは異なり、引きの画が多く、キャラクターの扱いが小さいことをライムスター宇多丸氏が評して使った言葉。