Yondaful Days!

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豪華な作家たちの競演!〜ホラー短編集『八月の暑さのなかで』『南から来た男』

八月の暑さのなかで――ホラー短編集 (岩波少年文庫)

八月の暑さのなかで――ホラー短編集 (岩波少年文庫)

南から来た男 ホラー短編集2 (岩波少年文庫)

南から来た男 ホラー短編集2 (岩波少年文庫)

少年文庫には、講談社 青い鳥文庫に「Kシリーズ」(Kは恐怖、怪奇)というシリーズがあり、『頭だけの少年―タイ民話ほか』『影を殺した男』など魅力的なタイトルが並んでいたのだが、今回、昨年から2冊シリーズで出た岩波少年文庫のホラー短編集を読んだ。
短編集ができるまでの経緯については、1巻『八月の暑さの中で』の解説に詳しいが、ホラー短編集をと依頼を受けた金原瑞人が(自分が原文で理解できる)英語圏のホラー短編を読みまくって、50程度の候補を選び出し、長いものを削って30にしたものから、1巻で17、2巻で11編を編集が選んでできた、すなわち厳選された短編集とのこと。
実際、既読だったり、名前をよく知っている作家も多数おり、とても豪華な本になっている。(また、佐竹美保さんによるカバー・挿画も豪華さに花を添える)

二冊とも冒頭にポーの短編が入るが、これは変わり種で、二編とも原作が駄作という理由で、エッセンスが生きるように金原瑞人が手直しをしているため、クレジットは「ポー原作 金原瑞人翻案」になっている。どちらも主人公が文芸部所属であることが共通しており、恐怖小説を読んだり、書いたりする中でポーの原作短編が使われるというメタ小説になっている。原作を読んでいないので比較はできないが、しっかり面白い作品になっていると思う。


個人的には、全体として「厳選」というほどにはヒット多しという感じではなかった。
しかし、今まで何度もタイトルを目にしながら未読だった「南から来た男」「小瓶の悪魔」の2編がまとめて読めたのはとても良かったし、忘れられない作品となった。また、改めてダールなどを読んでみようと思わせるいい短編集だった。あと、翻訳小説への苦手意識は、短編でもまだ残る。意識して読むようにした方がいいのかもしれない。


「南から来た男」は、本当に面白かった。カイジやライアー・ゲームの大元という感じで、シンプル・ルールによる賭けが中心のストーリー。空条承太郎相手に賭けをするギャンブル中毒のダービーなど、ジョジョで似た話が出てくるが、特に、一瞬気を抜いたあとの、背筋が寒くなるラストが素晴らしい。
ダールの短編集だと『あなたに似た人』に収録とのことで、読んでいると思っていたが、未読だったらしいことを初めて知る。
「小瓶の悪魔」も奇妙なルールを前提にしているという意味で、現代のマンガに近い。持っていると何でも夢がかなうが、持ったまま死ぬと地獄の業火に焼かれる小瓶。手放すには自分が買った価格よりも安い値で売る必要がある。やはりジョジョもしくは『デスノート』に近い設定で、面白くならないわけがない。ただ、ラストはちょっとぬるいかも。


それ以外では、以下が心に残った。

  • W.F.ハーヴィー「八月の暑さの中で」:犯罪者の絵を描きあげたばかりの画家と、墓石を作り上げたばかりの石工の二人が出会う話。これもよくできているし、どうとでもとれるラストの余韻が怖い。
  • サキ「開け放たれた窓」:金原瑞人が書くように「最後のオチでにやっとしてしまう、そんな感じの作品」。短いしスッキリ読める。
  • ローズマリ・ティンパリ「ハリー」:5歳のクリスティンが夢中になって遊ぶ架空の友だちハリー。母親はハリーの正体を追ううちに意外な事実を知り…という話。『ロアルドダールの幽霊物語』の中でも選ばれている話とのこと。
  • アルジャーノン・ブラックウッド「まぼろしの少年」:ギリギリで現実的な小説ながら、そうなっていたかもしれない未来を振り返る哀愁漂う作品。
  • レイ・ブラッドベリ「湖」:これも似たテーマの作品で読みやすい。ブラッドベリは今年の6月に亡くなったので、十数年前に読みかけたままの短編集をちゃんと読み直したい。
  • エレン・エマーソン・ホワイト「隣の男の子」:全編の中で最も新しい1991年の作品ということもあり、読みやすい。現代の若者が主人公で、オチの展開も今風で読めるといえば読めるが、短編集の中では新鮮。