Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

とりあえずヨーグルト!〜辨野義己『大便通』

大便通 知っているようで知らない大腸・便・腸内細菌 (幻冬舎新書)

大便通 知っているようで知らない大腸・便・腸内細菌 (幻冬舎新書)


健康特集みたいなテレビ番組をよく見るというわけではないが、昨年はNHKの2つの特番がかなり印象に残った。
その一つは、「NHKスペシャル腰痛・治療革命」で、ざっくり言えば、多くの日本人を悩ませている腰痛のほとんどが脳が作りだした幻影というような内容で、ホントかよ!!と何度もツッコミを入れてしまった。


そしてもう一つが、今回の本に関係する腸内フローラ。

お肌の調子が良くない、ダイエットの成果がなかなかでない・・・そんな時、あなたのお腹にいる“腸内フローラ”が影響しているかもしれません。“腸内フローラ”とは、腸の中に住む細菌たちの生態系のことを言います。いま、最新の遺伝子解析技術によって、腸内細菌がもつ知られざるパワーが明らかになってきました。


この番組で驚いたのは、他の人の腸内細菌を移植、平たく言えば、他の人のウンコを大腸に移植する「糞便移植」という治療法があること。つまりは、それだけ大腸内の腸内フローラ(腸内細菌の環境)が、人の健康に直接的に影響するということだ。
さらに自分は、3年前くらいから、しつこくR-1ヨーグルトを飲み続けた結果、学生時代に始まった花粉症の症状がどんどん緩和されて、昨年の春は症状がほとんど出なかったという実体験があるので、そういう意味でも非常に興味深かった。
なお、最近のニュースでは、元サッカー日本代表鈴木啓太の第二の人生で、まさかの「腸内フローラ」が登場するなど、大流行中?の健康キーワードだ。

昨季限りで現役を引退した浦和の元日本代表MF鈴木啓太(34)が新ビジネスの世界に“転身”する。10日にさいたま市内で会見し、注目の第二の人生について「昨年から腸内フローラの解析の事業を立ち上げました」と明かした。

さて、この本は、まさにその腸内細菌について書かれたもので、タイトルは、大便について詳しいという「大便・通」と便通がよくなる「大・便通」の2つをかけている。
作者は、本の中で本人もネタにしているが、「べんのよしみ」という、「大便」の研究のために生まれてきたような名前の研究者の方。1970年代から腸内細菌についての研究をしてきた、いわば分野の草分けの存在だという。(「善玉菌」「悪玉菌」という言葉を広めたのが、師匠筋にあたる光岡知足さん。)
内容は非常に基本的な部分を押さえたものでわかりやすい。特に細菌の分析手法の発達によって、近年どんどん腸内細菌の性質が明らかになってきているというあたりは、医学の進展が感じられて良かった。今後、腸内細菌データベースができれば、それに合わせた健康診断、予防医学が進む可能性があるということで、最新の動向に注目して行きたい。
なお、健康を維持するための食物については、思ったほどには取り上げられておらず、ほとんどヨーグルト一辺倒だったが、本文中でも以下の通りの記述があり、毎度のことながら、それが一番重要だと感じる。

いずれにしろ、私たちは「良い大便を出す」ためだけに食事をするわけではありませんから、いろいろな栄養をバランスよく摂取すべきなのは当然です。いくら大便がたくさん出るからといって、サツマイモやメカブばかり食べて暮らすわけにはいきません。p164


ただ、ヨーグルトと食物繊維は、それほど食べ過ぎるものでもないだろうので、意識して食べるようにしていきたい。(なお、5章によれば、派ピアニューギニアには、サツマイモだけ食べてタンパク質を得ている人たちがいるという!!)
腸内細菌については、NHKの番組の影響か類書も多数あるので、最新の動向を知るためにももう少し読んで勉強してみたい。(この本は2012年刊行)この分野?では以前から藤田紘一郎の本が気になっていたのでそのあたりなど・・・。


脳はバカ、腸はかしこい

脳はバカ、腸はかしこい

ポイント

  • 序章 私はなぜ「大便通」になったのか
    • 大便の重量の80%は水分。固形成分の1/3が食べカス、1/3が腸粘膜が剥がれ落ちたもの。残りが腸内細菌
  • 第1章 大便は何でできているのか−善玉菌と悪玉菌
    • 小腸から大腸に送られた食べカスには、腸内細菌が働くことで、人体に有益な「発酵」か、有害な「腐敗」のどちらかが起きる。
    • 善玉菌は「発酵」を起こす。代表は乳酸菌、ビフィズス菌。(どちらも総称)
    • 悪玉菌は「腐敗」を起こして毒素を算出する。代表はウェルシュ菌。大便やオナラの臭いがきつくなる原因。
    • 日和見菌は腸内細菌全体の70%を占め、優勢な方の手助けをする。いわゆる大腸菌のほとんどが日和見菌。
    • 人間の健康に役立つ生きた微生物のことをプロバイオティクスといい、善玉菌はこれに含まれる。
    • オナラを我慢すると、排出されなかった腸内ガスは毛細血管から吸収される。また悪いガスがおなかにたまると腸内環境の悪化の原因になる。
    • 肉ばかり食べると悪玉菌が増える。
    • 大便の色調が濃いほど悪玉菌の繁殖しやすい環境。腸内での出血で黒くなることもあるので注意が必要。
  • 第2章 腸高齢化社会ニッポン−便秘はなぜよくないのか
    • 年齢とともに悪玉菌が増える。若いうちに善玉菌が優勢な腸内環境を作っておく必要。
    • 便秘だから定期的に出ないのではなく「定期的に出さないから便秘になる」ケースが多い
    • 運動不足や筋力(腸腰筋、腹筋)不足も便秘の原因のひとつ。
    • 大便が腸内に溜まったままだと、腸内環境が腐敗しやすくなれば病気になりやすくなる。
    • 悪玉菌優位の腸内環境を改善するには善玉菌を増やすヨーグルトが有効。
    • 腸内の老化や便秘防止には、乳酸菌やビフィズス菌の餌となる食物繊維の摂取が大切。
    • 食物繊維は有害物質の吸着が多く、有害物質の排出に貢献、結果的に腸内環境がよくなる。
  • 第3章 大腸は病気の発生源
    • 大腸がんのリスク要因は肉、アルコール、肥満
    • 大腸がん発生には発がん物質(イニシエーター:種)、発がん促進物質(プロモーター:水や肥料)の2つが関わる。
    • 動物性脂肪を大量に摂取すると、それを分解するための胆汁が多く分泌、その一部は発がん促進物質である2次胆汁酸となる。
    • 大腸がんは(胃がんのピロリ菌のように)ひとつの菌が引き起こすのではなく、悪玉菌のネットワークに原因がある。
    • 発酵乳やシロタ株(乳酸菌の一種:ヤクルトに含まれる)が大腸がんのリスクを下げる
    • 潰瘍性大腸炎クローン病の原因も腸内環境の悪化にある可能性が指摘されている
    • ビフィズス菌は花粉症の症状軽減に効果がある。辨野さんが食べていたのはロングム菌BB536。
    • シロタ株O-157に感染したときの症状が軽減される。
    • 腸内細菌の研究が進めば検便による健康診断が広がるはず
  • 第4章 腸内細菌研究の最前線−現代医療のトップランナー
    • 1900年代にビフィズス菌が発見され、ヨーグルトと健康の関係が注目される。日本でも翻訳書が出版され、1919年にカルピスが発売、1930年に代田稔博士がラクトバチルス・カゼイシロタ株を発見、1935年にヤクルト発売。
    • 細菌は培養して増やさなければ、その性質を研究できない。1950年代に入るまでは嫌気性菌の培養ができず、「死骸」だと思われていた。1950年代以降は嫌気性菌の研究が盛んになったが職人技が必要で時間がかかっていた。また培養可能な菌のみしか解明されなかった。
    • 90年代に入り、培養法ではなく分子生物学的手法の進展によって、未解明な部分が次々に明らかになっている。
    • 腸内細菌データベースができれば、それに合わせた健康診断、予防医学が進む可能性がある。
  • 第5章 これであなたにも「大便通」が訪れる
    • 健康な大便のチェックに最も重要なポイントは「色」と「臭い」。色は黄色がかった褐色がベスト。臭いは酸っぱい感じの発酵臭。理想の大便を作り出すには、ヨーグルトと食物繊維。
    • パプアニューギニア高地民は、サツマイモしか食べないが、腸内細菌の力でタンパク質を摂取している。(牛と同じ原理)
    • 10年間青汁のみで生活した女性も、たんぱく質を合成できる腸内細菌を持っており、腸内細菌の可能性が示唆される。
    • 腸内に善玉菌を増やすのに役立つ食べ物はヨーグルト以外に、漬物、納豆、味噌や醤油。ただし塩分の取り過ぎに注意。