Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

私たち(男性側)には何が必要か~『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』

私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない

私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない

  • 作者: イ・ミンギョン,すんみ,小山内園子
  • 出版社/メーカー: タバブックス
  • 発売日: 2018/12/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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あなたには、自分を守る義務がある。自分を守ることは、口をひらき、声を上げることからはじまる-
ソウル・江南駅女性刺殺事件をきっかけに、女性たちが立ち上がった。今盛り上がる韓国フェミニズムムーブメント。

いまから学んでも遅くはない。一日でも早く、あなたと、新しいことばで、話がしたい
イ・ラン(ミュージシャン、映像作家)

目次
I. セクシストに出会ったら 基礎編

0.あなたには答える義務がない ― 話すのを決めるのはあなた
1.心をしっかり持とう ― 性差別は存在している
2.「私のスタンス」からはっきりさせよう ― フェミニストか、セクシストか
3.「相手のスタンス」を理解しよう ― セクシストか、フェミニスト
4.断固たる態度は必要だ ― あなたを侵害するものにNOを
5.あなたのために用意した答え ― なにもかも「女性嫌悪」!
6.効果がいまひとつの言い返し ― セクシストに逆効果な対応とは

II. セクシストにダメ出しする 実践編

7.あなたには答える義務がない、再び ― きっぱり会話を終わらせる方法
8.それでも会話をつづけるのなら ― 誤解している相手との会話法
9.いよいよ対話をはじめるなら ― あなたを尊重しはじめた相手との会話法
10.話してこそ言葉は増える ― 練習コーナー
11.ここまでイヤイヤ読んできた人のためのFAQ


この本クラスの衝撃はしばらくないかもしれないという、「強い」一冊でした。
タイトルに「フェミニスト」と入っているように、韓国でも盛り上がっているフェミニズムに関する本で、『82年生まれ、キム・ジヨン』の絡みで手に取ってみましたが、「家に置いてある本を長男が先に読む」という最近のパターンにこの本もばっちりハマりました。
ところが、『キム・ジヨン』を読んだときは、神妙な顔をして男女差別の問題点に向き合っていた よう太(中3)は 、この本については、「自分はセクシスト(性差別主義者)でもいい!」と、苛々した様子を隠さなかったのです。それほどに強烈な内容です。


読んでみると、確かにその通りで、この本は基本的に男性に向けては書かれていません。
キム・ジヨン』は、自称フェミニストの男性も読める隙があった(そして最後に「お前もだよ!」と糾弾される…)のですが、この本では、最初から最後まで男性陣はずっと非難の対象となります。
そもそも、女性嫌悪が原因の江南(カンナム)駅殺人事件がきっかけとなって「声を上げ始めた」女性、そしてまだ「黙っている」女性を鼓舞するために書かれたこの本の立場として、男性にも理解者はいる、というスタンスを少しでも見せてはならないのだと理解しています。
つまり、男性側の、いかにも分かっている風の「説得」を受けて(不満を抱えたまま)黙り込んでしまうような女性に対して、女性であるあなたは、(相手の言うことは無視して)あなた自身が差別を受けたと感じている、その経験だけをもとに声を上げていいのだ、と伝えようとしているのです。「個人の経験」に勝つ男性側の意見や説得は、そもそもあり得ないのです。
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この本のスタンスを理解するには「はじめに」と11章(最終章)を読むといいと思います。

  • この本でたくさんの読者を得るつもりはこれぽっちもありません。これを書いていた頃、私は、話し相手から必死に共感を得ようとすることに、もううんざりしていました。なので本書には、不親切に感じられるところが多々あるかもしれません。しかし、韓国で女性を含むマイノリティとして生きてきた方なら、この本を読むのに必要なくらいの直観はすでにお持ちでしょう。性差別を受けて一度でもくやしい思いをしたことがある方なら、最後までつかえることなく読み進めることができるはずです。(p14)
  • この本は理論書ではありません。会話につまったとき使えるマニュアルだと思ってください。世間に山ほど出回っている「とっさの旅行会話ベスト100」みたいなものと思っていただければいいのです。本書では、「女性が経験する差別」をめぐる会話だけをご紹介します。(p16)


女性として生きている「あなた」は、すでに「直観」を持っているが「ことば」を持っていない、そこに必要なのは「勉強」ではなく「ことば」なのだ、というのがこの本のスタンスです。フェミニズムについて「勉強」したいと考えている男性(当然、女性としての「直観」を持ち合わせていない)は、読者として全く想定されていません。


したがって、この本の面白いところは、そもそも対話を開始することを前提としていない、ということです。女性が、性差別に対して男性を「説得」するのは「善意」であり、そこでの苦労を女性が強いられるのは筋違いなので、どの部分をとっても「答えない」「相手にしない」という選択肢が常に示されます。
そのうえで、実際に対話をした場合にも、「兵役を果たさないのに権利ばかり主張する」と文句を言うステレオタイプから、「俺は断じてセクシストではない」と言い切る理論派まで一刀両断にぶった切り、まさに「とっさの旅行会話ベスト100」の様相を呈しています。

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p165図
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p178表
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p196


11章の「ここまでイヤイヤ読んできた人のためのFAQ」がとても強烈で、この章だけを読んだ男性は皆イヤな想いをすると思いますが、どれもAmazonレビューなどで短い言葉での批評として書かれやすい内容なので、先回りをしているのでしょう。

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p204

この本を読んで、最初は、ここまで対立を煽るのはどうか、とも思いましたが、そもそも「性差別」は「性対立」ではなく不平等です。その不平等を、格差を埋めていくために、女性には「ことばが必要だ」ということなのでしょう。
それでは男性には何が必要なのでしょうか。最初に書いたように、女性に備わっている(差別の体験などを踏まえた)「直観」は、男性は持っていません。
月並みではありますが、常にそのことに意識的になって、謙虚に相手の言うことに耳を傾ける。勿論、できるだけひとりでも勉強は続ける、そうしたことが必要なのかなと思いました。