Yondaful Days!

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死をきっかけに作家を知るのは辛い~浦賀和宏『彼女は存在しない』

彼女は存在しない (幻冬舎文庫)

彼女は存在しない (幻冬舎文庫)

平凡だが幸せな生活を謳歌していた香奈子の日常は、恋人・貴治がある日突然、何者かに殺されたのを契機に狂い始める…。同じ頃妹の度重なる異常行動を目撃し、多重人格の疑いを強めていた根本。次々と発生する凄惨な事件が香奈子と根本を結びつけていく。その出会いが意味したものは…。ミステリ界注目の、若き天才が到達した衝撃の新領域。(裏表紙あらすじ)

最初に引用しておいてなんだが、これもまた、それなりに進んでからの展開が示されるタイプの背表紙あらすじで、自分としては読まなくて正解だったと思う。
貴治が亡くなったことがわかるのは、120ページを過ぎてからなので、もう読むと決めた人には不要な情報。 でも、売る側としては、関心がない人にも振り向いてもらわなければならず、どこまで知らせておくかの塩梅は本当に難しいとは思う。
ただ、この小説の面白さは、「彼女は存在しない」というタイトルの意味が腑に落ちるラストにあり、その意味では、貴治の死はあくまで前菜に当たる。


この本に興味を持ったのは、作者の浦賀和宏さんの最新作『殺人都市川崎』の新聞書評記事を読んだことがきっかけ。最初はタイトルに惹きつけられたが、それよりも、浦賀さんが今年2月に亡くなっているということに驚いた。調べてみると死因は脳出血。41歳とのことなので、自分より5つも年下で、わが身にも降りかかることかもしれないとハッとする。
なお、記事でもそうだったが、Amazonの紹介(殺人都市川崎)を読んでも「41歳の若さで急逝した天才作家・浦賀和宏氏最大の問題作、最期の挑発&最後の小説」と、作家の天才性が謳われている。
ミステリ作家で「天才」と書かれるタイプの人は、すぐには思いつかないということもあり、これは読まねばという気持ちになった。


さて、元に戻るが、「彼女は存在しない」は、浦賀和宏さんの代表作ということもあり、匠の技が光るミステリだった。
まず、なんといってもタイトルが良い。「彼女は存在しない」という「彼女」とは誰を指すのか。なぜ「存在しない」などということがありうるのか。
そして、あらすじにも出ている通り、この物語の核は「多重人格」…。いや、このように重要なキーワードが出されてしまうと、この時点で謎が解けてしまう気がする。つまり、一人の人間として存在すると考えていた「彼女」は、実際には多数ある人格の一つに過ぎなかった、というオチなのではないか、と当然考える。


しかし、読み進めていくと、どうもその推定は成立しそうにないことがわかってくる…。
それでは、どういう「解」がありうるのか?と右往左往する中での中盤からラストに向けてのオチ、またオチが明かされるタイミングがとても上手い。
まさに「こういうの」が読みたかったんだよ!と満足できる読書でした。調べてみると、浦賀和宏さんは、当然のようにメフィスト賞受賞作家で、受賞作品(記憶の果て)も含めて、他の作品ももっと読んでいきたい。

殺人都市川崎 (ハルキ文庫)

殺人都市川崎 (ハルキ文庫)

記憶の果て(上) (講談社文庫)

記憶の果て(上) (講談社文庫)

記憶の果て(下) (講談社文庫)

記憶の果て(下) (講談社文庫)



それにしても41歳は早いですね…。
読んだきっかけが作家の死にあったので、それがなければ手に取るのはかなり遅れただろう本ですが、もっと早く知りたかった。