Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

改札素早く通り抜けろ2人のルールで〜熊倉献『春と盆暗』

まばたき(初回生産限定盤)(DVD付)

まばたき(初回生産限定盤)(DVD付)

改札 素早く通り抜けろ2人のルールで
また ふざけてるんだろう?
雨でまつげが濡れてる
失くしたもの ここじゃないどこかで見つかるから
2人だけの世界 誰にも触らせない

『まばたき』は、ここに来て、自分にとってYUKIのベストアルバムという感じになって来たが、その中でも大好きな「2人だけの世界」。
どうして改札を素早く通り抜けなくてはいけないのかは、歌詞だけからは分からないが、そういう、秘密のルールや、行きつけのレンタルCD*1の話が2人の繋がりを強くする。
しかし、だからと言って2人が「お互いを全て分かり合える」のではない、ということを、ブリッジ部分(↓)で言っているのが面白い。*2

その瞳に映ってた 私は私も知らない
あなただけが知ってくれている
それは必然で 何もこわくはない

「2人だけの世界」は、あくまでも2人の人間それぞれの中にある別個なものだ。ある意味で冷めた視点で2人の関係を分析しつつ、信頼関係があるから、その世界が強固なものだと言ってのける強さが感じられる曲。


春と盆暗 (アフタヌーンコミックス)

春と盆暗 (アフタヌーンコミックス)

『春と盆暗』は、短編集だが、YUKIの歌う「2人だけの世界」のうち、「2人のルール」に特化した内容が全ての話に含まれる。2人の間には、まだまだ強固な信頼関係はないけれど、「2人のルール」が盛り上がっていくところに、これからの恋の進展を予感させる。
漫画としての魅力は、そのルール自体が、どの程度、魅力的かどうか、というところにかかっているが、自分は面白く読んだ。


帯に「ぼんくら男子と不思議女子の片思い連作集」とある通り、短編は4つとも、不思議ちゃん的性格のヒロインが、世界の捉え方に対する個人的なルールを披露して、そのに主人公男性が惹きつけられるという展開。
似た話ではあるが、4編でキャラクターの描き分けを意識的に行っていることもあって、それぞれ飽きずに読める。
特に自分が好きなのは、定番の「水中都市」ネタを含む、そのままのタイトル「水中都市と中央線」。
カラオケ店でアルバイトする男性主人公は、援助交際的な動きを見せる制服女子(実は21歳)に惹かれる。話してみると「街が水中に沈んだら背が高い方が助かるからいいですね」という謎コメントをもらい、水中に沈んだ中央線の風景が頭をよぎる。自分は、都市が水中に沈んでしまうという妄想は大好き過ぎるので、無条件に高評価になってしまうが、ラストでヒロインが主人公にストローを咥えさせるシーンは最高だ。


また、高尾山、布田駅井の頭公園など、京王線ユーザーには馴染みの場所が多く出てくるのも嬉しい。
絵柄はとても好きだが、やっぱり似た話が偏っている気がするので、次の作品は、ボーイミーツガールに重点を置いた話ではなくて、人間同士の関係性に目を向けた話を読んでみたい。
「水中都市と中央線」がまさにそうだが、不思議女子のイメージは、アジアンカンフージェネレーションのジャケの女の子のイメージなのかな。

或る街の群青

或る街の群青

参考(過去日記)

⇒水中都市ネタとして、ポニョのほか、星新一『午後の恐竜』、絵本『東京は海のそこ』について取り上げています。

*1:歌詞に出てくる「友&愛」は自分の住んでいる最寄り駅にもありました…

*2:歌詞に使われている言葉を見ると、ブリッジ部分以降は女性の立場、それより前は男性の立場で書かれているように思う。それも含めて面白い。