Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

箱根駅伝連覇の源泉に触れる〜原晋『逆転のメソッド』

こういう言いかたも何だが、自分は、スポーツ観戦全般があまり得意ではない。正月の箱根駅伝も、毎年気になりつつも流し見程度だったが、今年は、12月に走った湘南国際マラソンとコースが重複することもあって、少しだけいつもより真剣に観た。結果、優勝は去年に引き続き青山学院大学。毎年強い伝統校が沢山ある中での強過ぎる勝ち方で、このチームの指導に興味が湧き、青学の監督の書く本を読んでみた。


作者は高校、大学の陸上部ではパッとせず、大学卒業後は、陸上部が創部されたばかりの中国電力に入社する。しかし、故障のために選手を引退し、28歳から中国電力の営業所で一サラリーマンとしてスタートすることになる。そこで「伝説の営業マン」として活躍したあとで、青学の陸上部監督という話が出てくる。
青学監督への挑戦を決めたときに、周囲の誰一人として賛成する人がいなかった(p73)ということだが、それもそのはず。本を読んでいてもうまく行くと考えられる要素が非常に少ない。

  • 選手を引退してから十年間、陸上の試合を見に行ったこともないし、テレビ番組を見たこともない。雑誌の記事を読んだことすらない
  • 箱根駅伝を走ったことがない
  • 選手としても輝かしい成績を残したわけでもない
  • 学生時代の在籍は中京大学青山学院大学ではない

もともと青山学院大学陸上競技部監督の話も、青学OBの高校陸上部の2年後輩(卒業後は飲み仲間、中国電力ではビジネスパートナー)向けに来たものであり、その後、原監督含めて数人の候補がリストアップされたのだという。
結果、プレゼンでの熱意も通じて作者が監督の座を勝ち取るのだった。


2004年に36歳で監督就任となった原監督。当初は嘱託職員として3年という契約だったが、登用される際のプレゼンでぶち上げた「3年で箱根駅伝に出場し、5年でシード校、10年で優勝」という目標を少し遅れながらも次々とクリアしていくあたりが、読み物としても面白い。
箱根駅伝出場という約束の3年目には、スカウトした新入部員3人が退部するという危機を迎え、予選会で16位で本選出場も果たせず、なんとか猶予期間を1年与えられる。
4年目の予選会では10位に入るが、ポイント制度の加算で逆転され次点に。しかし、次点になった大学の監督が関東学生連合選抜チームを率いることになり、ここで指導者としての力を世間に示すことになる。

選手十人の予選会のタイムを合計したら、予選会トップのチームよりも上である。
つまり、力は十分にあるわけだ。では、何が足りないかと言えば、心の絆である。選手相互の間に心の通い合いがないから、本番で力が発揮できない。「だったら、それをやればいい」というのが私の考えであった。
p91

目標管理という方法が、原監督の指導方法の一つの特徴だが、このときの目標は3位で、結果は4位。何やかんやで毎年下位に甘んじる学連選抜で4位というのは相当なことだ。
そして正式な職員となった5年目の2008年に箱根駅伝出場を決め、2009年正月の箱根駅伝では出場23チーム中1チーム途中棄権で22位(完走チームの最下位)も笑顔でのゴール。
2010年正月の箱根駅伝では8位でシード権獲得。2011年9位⇒2012年5位⇒2013年8位⇒2014年5位⇒2015年初優勝となる。


こういった快挙をいかにして成し遂げたのか。書かれている内容で特に印象に残ったのは以下。

  1. 「ワクワク大作戦」「駒大を逃しちゃダメよ〜ダメダメ作戦」などの明るいスローガン
  2. 自分の目標を明確に定め、現在の位置を確認しながら目標と結果のすりあわせをやっていく。(p135)
  3. 目標達成に向けた目的と方法について指導者が説明を与える。(レールを敷いて方向性を示す)(p158)
  4. 選手の起用(人事の告知)については、なぜ選んだのか(選ばれなかったのか)という理屈を伝え、相手に人間として成長するきっかけを与える。(p139)
  5. 自分で考えさせたうえで、新たなチャレンジに向けて成長を促す。(箱根駅伝以外の目標)(p150)

そして、理屈より何より「情熱」こそが人を動かす、というのが、この人の根本にある考え方で、これについては「男気」、という言葉も使って繰り返し説明がされている。営業時代のことでも書かれているように、動かしたい相手とウィンウィンの関係を築く、ということも併せて意識しているようだ。人を指導する立場として自分をどう売るか自分のワールドにどう引き込んでいくかを常に意識していると感じた。
タイトルにあるメソッドというものは特別なものというよりは非常に基本的な内容ながら、やはり正月の箱根駅伝での驚異的な強さを見たあとでこの本を読むと、そのパワーに圧倒される。


しかし、一方で、この本のつくりとしてはどうかと思う部分もいくつかあった。
岩波新書から本を出した大学教授が、「以前出した新潮新書がわりと自由に書かせてくれたのに比べて、岩波の編集者は、内容の取捨から段落や単語の順序までかなり細かく見られる」と話していた。それの話からすると、祥伝社新書は、ほとんど編集側で手を入れていないのではないか、と思う。
いずれも好みの問題かもしれないが、自分が気になったのは以下。

  • 自分のことを「伝説の営業マン」と書き過ぎ(笑)。
  • 個人名を出した卒業生の就職先を具体名で書くのはどうか。(講演では良いが本では下品な気が)
  • また、同じく個人名を出した選手のメンタルの強さを説明するのに身内の不幸について取り上げるのもどうか。
  • 箱根駅伝で優勝し、次に何をやりたいか」という質問に対する「相撲部屋の親方になって日本人横綱を育てたい」という、どうでもいい話にページを割くなど、全体的にやや散漫。

ということで、良い本だとは思うが、もう少し味付けをよくすれば、もっと分かりやすい本になるのではないか、と思った。そういう意味では、後発本のこちら↓とかも比較のために読んでみたい。


あと、コアトレが気になるので、こちらも↓。

青トレ: 青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ

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