「井上雄彦の絵がそのまま動いているアニメ」
そうなんだろうな、と思って、わかって見に行って、まさにそうとしか形容のできない映画が出て来て、わかっていたのに衝撃を受ける。
実際に見るとしょっぱなから心を奪われ、手書きキャラクター5名が向こうから歩いて来て勢ぞろいし、色がついていくオープニング映像を目の当たりにし既に涙していた。
そんな映画。
それは絵が綺麗ということだけではない。
映像がCGということでヌルヌルして不自然なのかと思ったら、不自然なのは(最もデフォルメの効いた)安西先生くらいで、それ以外のキャラクターは、実物としてそこに存在しているようで全く不自然さがない。
だからこその山王戦のバスケットボールの試合をまるまる見せるこの構成が最高だ。
パンフレットでも演出の宮原直樹さんが「アニメ映画という括りを越え、スポーツ映画のスタンダードになる可能性を持った映像だと思います」とアピールする通り、この映像体験は圧倒的に新しく、直前まで見ていたサッカーW杯の試合*1と比べても完全に「スポーツ」の映像で、これまでにない「THE FIRST」なアニメ体験だった。
それに加えて、宮城リョータとその母が亡きソータへの思いを胸に秘めながら眺める沖縄と湘南の海の空気が、エピソードとともに上手く挟まる。沖縄の海辺のバスケットコートは、現地に行く機会があれば聖地巡礼として訪れたい場所だ。(実際にある場所?)
山王戦のその後の話も含めて、宮城リョータの成長の物語としてとても上手く再構成された映画だった。
実は、自分はスラムダンクはジャンプで全部読んでいたが、それだけで、単行本を読み返したりするほどの思い入れを持っていなかった。それもあって、山王戦も、(あれ?これは結局勝ちそうで最後に負けるやつだっけ?それとも勝ってそのあとすぐ負けるやつだっけ?)とうろ覚えが功を奏して手に汗握って試合の行方を楽しむことができた。
併せて『バカボンド』は途中までで『リアル』は未読ということもあり、井上雄彦漫画はしっかり読んでおきたいなと感じた。
なお、メイキング本の『re:SOURCE』は映画への井上雄彦のこだわりがよくわかる本だった。
3DCGが上がったあと直接筆を入れての絵全体の修正、線の太さを変えるなどの微修正、言葉による細かな指示など、全編の細部に渡って制作に携わっていることが明確な内容。これに加えて音楽の選定や声優の演技にも口を出していたというのだから、普通では考えられないくらいの重みをもった「原作・脚本・監督」だろう。
本の中には、モーションキャプチャーなどの現場作業時に監督自身がスリーポイントシュートを決めている写真もあり「この日は何本も連続でネットを揺らしていた。三井のモデルはもしかして…」とキャプションがついているが、55歳という年齢を感じさせない体型もカッコいい。
「最初に依頼が来てから13年。映画化に関わろうと決めてから8年。実際に映画制作作業が始まってから4年。」そうしてつぎ込んだ時間が、こんな傑作に昇華されたのは本当に良かった。
それにしても、映画を観て「バスケがしたいです」という気持ちも湧いてきたし、実際に試合を見てみたくなった。これまでも興味があったが、来年こそはBリーグの試合を見に行ってみたいと思う。
なお、今年はこれで映画は見納めだろう。(もう見る時間がない)たくさん見ました。皆面白い映画でした。
- 大島新監督『香川1区』(1月)
- 『ウエスト・サイド・ストーリー』(2月)※これだけブログ内に感想無し
- 『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』(4月)
- 白石和彌監督『死刑にいたる病』(5月)
- 樋口真嗣監督『シン・ウルトラマン』(5月)
- 『トップガン マーヴェリック』(6月)
- 川和田恵真監督『マイスモールランド』(6月)
- 湯浅政明監督『犬王』(6月)
- ヨアキム・トリアー監督『わたしは最悪。』(7月)
- 豪田トモ監督『こどもかいぎ』(8月)
- 沖田修一監督『さかなのこ』(9月)
- 『ブライアン・ウィルソン 約束の旅路』(9月)
- ジョーダン・ピール監督『NOPE』(9月)
- 深田晃司監督『LOVE LIFE』(10月)
- 竹林亮監督『MONDAYS』(10月)
- S・S・ラージャマウリ監督『RRR』(11月)
- 新海誠監督『すずめの戸締まり』(11月)
- オードレイ・ディヴァン監督『あのこと』(12月)
- 井上雄彦監督『THE FIRST SLAM DUNK』(12月)