Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

2022-01-01から1年間の記事一覧

「知らない人」と話すこと~津久見圭『障がい者よ、街へ出よう』

障がい者よ、街へ出よう―「網膜色素変性症」で視覚をなくしても、現役プロデュプラチナボックスAmazon図書館の地域図書のコーナーで出会った本。 作者の津久見圭さんは、1970年の大阪万博のパビリオンディレクターとして、携帯電話を初めて世界に紹介した人…

安全保障への理解が深まった~グレンコ・アンドリー『NATOの教訓』

NATOの教訓 世界最強の軍事同盟と日本が手を結んだら (PHP新書)作者:グレンコ・アンドリーPHP研究所Amazon 陰謀論より現実の敵、中国とロシアを直視せよ! NATO(北大西洋条約機構)には、世界で他に例のない実績がある。加盟国の本土が70年間、武力攻撃を受…

新しいタイプのミスリーディング~『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』

備忘録として今年のコナンの感想を。 『ハロウィンの花嫁』総括 今回のコナンは鑑賞直後の満足度が高かった。 ただ、あれ?何に満足したんだっけ?とも思ってしまった。 それは何故かよくよく考えた結果、「それはやっぱり観る前の期待値が低かったからじゃ…

中盤の「対話」シーンに驚き~潮谷験『時空犯』

時空犯作者:潮谷 験講談社Amazon 私立探偵、姫崎智弘の元に、報酬一千万円という破格の依頼が舞い込んだ。依頼主は情報工学の権威、北神伊織博士。なんと依頼日である今日、2018年6月1日は、すでに千回近くも巻き戻されているという。原因を突き止めるため、…

とりとめないけど惹きつけられる~石井遊佳『百年泥』

百年泥 (新潮文庫)作者:石井 遊佳新潮社Amazon すごいものを読んだ。とにかく「とりとめがない」という一語に尽きる。さすが芥川賞。 冒頭は既に豪雨の場面だが、主人公が日本語教師としてインドのチェンナイに来た経緯をさかのぼるところまでは普通の小説だ…

反転すべきはそこじゃない~『月曜日のたわわ』の件

『月曜日のたわわ』という漫画の日経新聞の広告が問題になり、批判側、擁護側で意見が錯綜しています。 自分は、書店で単行本4巻(+青版)の「大きな広告」と面陳の本を見て『月曜日のたわわ』という漫画の存在を知りました。 そのときの感覚は、「このタイ…

死とどう向き合うか~井上靖『補陀落渡海記』×金原ひとみ『ミーツ・ザ・ワールド』

井上靖『補陀落渡海記』 補陀落渡海記 井上靖短篇名作集 (講談社文芸文庫)作者:井上 靖,曾根 博義講談社Amazon4月頭に家族で和歌山旅行に行った。時間の関係から、訪れることが叶わなかったが、旅先の候補として挙がっていた補陀落寺。その予習として読んだ…

忙しい現代人に刺さるロボットSF~チョン・ソンラン『千個の青』

千個の青作者:チョン ソンラン早川書房Amazon表紙イラストから受ける印象の通り、とても爽やか、でも力強い物語。あらすじとしては、Amazon等にある短めのものよりも少し長めの以下の方がストーリーの要点を抑えている。 故障のため安楽死させられる競走馬・…

研究報告風SFの衝撃~柴田勝家『アメリカン・ブッダ』

アメリカン・ブッダ (ハヤカワ文庫JA)作者:柴田 勝家早川書房Amazon もしも荒廃した近未来アメリカに、 仏陀を信仰するインディアンが現れたら――未曾有の災害と暴動により大混乱に陥り、国民の多くが現実世界を見放したアメリカ大陸で、仏教を信じ続けたイン…

F先生作品のような親しみやすいSF短編集~キム・チョヨプ『わたしたちが光の速さで進めないなら』

わたしたちが光の速さで進めないなら作者:キム チョヨプ早川書房Amazon著者あとがき、そして解説が素晴らしすぎると、自分の言葉で考えなくなるから 、 それはそれで問題だ。 特に短編集は、複数の作品に込められた作者の思いを読み解くのが、読後の「振り返…

義時ライジングの流れが理解できた~本郷和人『承久の乱』

承久の乱 日本史のターニングポイント (文春新書)作者:本郷 和人文藝春秋Amazon今年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の放送直前の正月に「鎌倉殿サミット2022」という特番(NHKがあり、番組が立てたいくつかの「謎」に対して複数の歴史学者が持論を戦わせて…

「逃げちゃだめだ!」ではなく~千早茜『ひきなみ』

ひきなみ作者:千早 茜KADOKAWAAmazon この感じ!この感じだよ!小説を読んでる感じは!そう思う読書だった。これまでずっと自分にとって「面白い」のは、どういう本だろうというのが読書のテーマで、今もそれは変わらないが、今年初めの「フィクションが社会…

レジ応援お願いします!~町田康『ギケイキ2』

ギケイキ2: 奈落への飛翔 (河出文庫 ま 17-4)作者:町田 康河出書房新社Amazon 相も変わらずの『鎌倉殿の13人』関連作品。 まだドラマには出ていない源義経が主人公で、南北朝時代から室町時代初期に成立した『義経記』を元に町田康がいわば超訳した小説。 だ…

やはり目立たない北条義時~坂井孝一『承久の乱』

承久の乱 真の「武者の世」を告げる大乱 (中公新書)作者:坂井孝一中央公論新社Amazon 今年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の時代考証担当の坂井孝一さんの著書。 ということは、歴史の勉強になるだけでなく、これから大河ドラマで描かれるストーリーを探る上で…

なぜ北条義時は「学習まんが日本の歴史」に登場しないのか~『鎌倉殿の13人』時代の日本史漫画2冊読み比べ

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が始まったこともああり、小中学生時代に読んでいた『学習まんが少年少女日本の歴史』(以下、小学館版)と石ノ森章太郎『新装版マンガ日本の歴史』(以下、石ノ森版)を比べて読んでみた。学習まんが 少年少女日本の歴史7 鎌倉幕…

熱くなれる新書~中川裕『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』

アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」 (集英社新書)作者:中川 裕集英社Amazon これは名著。タイトルから見ると、漫画『ゴールデンカムイ』の謎本、考察本の類かと思ってしまうところもあるが、著者は『ゴールデンカムイ』のアイヌ語監修を行っている千…

「課金マウンティング」と少年隊ラジオ~劇団雌猫『浪費図鑑 ―悪友たちのないしょ話―』

浪費図鑑 ―悪友たちのないしょ話―作者:劇団雌猫小学館Amazon2017年初刷なので、少し前の本になるが、各種の沼にハマってしまった人たちの「推し」への愛以上にその「出費」に目を向けた本。目次を見ると、どんな趣味が取り上げられているのかがわかる。 ◎は…

百戦百打一瞬の心 VS 脱走~橋本絵莉子『日記を燃やして』

百戦百打一瞬の心 久しぶりにテレビでしっかり高校サッカー準決勝「青森山田(青森)×高川学園(山口)」を見た。 元々スポーツ観戦はそれほど熱を入れて観ることはなく、現地で応援ということもほとんどしないが、高校時代にサッカー部に所属していたことも…

小川淳也の感染力~大島新監督『香川1区』

年末の12/28は、昼間に、いわば聖地のポレポレ東中野を訪れ『香川1区』を鑑賞し、夜はテレビ番組「SASUKE」を見た。 『香川1区』を見るタイミングについては少し考えた。2020年の映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』の続編と言える作品なので、『なぜ君…