Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

2023-01-01から1年間の記事一覧

「サービス終了」に町長が立ち向かう~夏海公司『はじまりの町がはじまらない』

はじまりの町がはじまらない (ハヤカワ文庫JA)作者:夏海 公司早川書房Amazon娯楽小説に限っても読まなくちゃいけない本がたくさんある。*1 それにもかかわらず、何故読むことになったのか辿れない本が時々ある。これもそんな本だ。 (あらすじ) 世界(サービ…

2023年上半期の振り返り(音楽)

今年上半期はCDもいくつか買ったのですが、直近聞いていたプレイリストの印象が強過ぎて全部吹っ飛んでしまいました。 なお、サブスクをしていないので、プレイリストは1曲ずつ購入して繋げています。テープとかMDに録音していた時の感じに近いので好きです…

「共感しかない」漫画の読み解き~野原広子『妻が口をきいてくれません』

妻が口をきいてくれません作者:野原広子集英社Amazon数年前から「○○しかない」という褒め言葉が跋扈している。 それほど違和感なく使える言葉だが、あまりにも多く耳にし過ぎるので、自分からは極力使わないようにしている。 この漫画はタイトルに惹かれて読…

村田作品に触れる意味~村田沙耶香『丸の内魔法少女ミラクリーナ』

丸の内魔法少女ミラクリーナ (角川文庫)作者:村田 沙耶香KADOKAWAAmazon4編から成る中編集ということになるが、収録順に、「丸の内魔法少女ミラクリーナ」、「秘密の花園」を読み、3話目の「無性教室」の途中まで読んで、「あれ、これは自分の思っている村田…

反省と今後の読書計画~芦花公園『ほねがらみ』

ほねがらみ (幻冬舎文庫)作者:芦花公園幻冬舎AmazonAmazonのおすすめでこの本の存在を知り、何より(京王線沿線の駅名でもある)芦花公園という作家名に惹かれて、夢中になって一気に読み終えたのが2週間くらい前。 実はその時の印象はあまり良くなかった。 …

ラストを除いて大満足~『M3GAN』

最初に予告編を観たときから数か月、映画館で毎回予告編を見て、「これは絶対に行く!」と決めていた 『M3GAN』を公開初日に観てきました! ラストの違和感を除けば、最高に面白い映画でした。 ケイディとミーガン とにかく、ミーガンの相手役のケイディが素…

悲観的、でも現実的な日本の未来~相場英雄『アンダークラス』

アンダークラス (小学館文庫)作者:相場英雄小学館Amazonいわゆる社会派ミステリというジャンルになるのだろう。テーマとなるのは、外国人技能実習生問題で、このテーマに惹かれて読むのを決めた。 文庫巻末解説で藻谷浩介さんが「誰が下層(アンダークラス)…

ほんとうのさいわい~是枝裕和監督・坂元裕二脚本『怪物』

是枝監督作品はそれほど見ていない。 それでも今作のタイトルにはとにかく惹きつけられたし、少年2人が楽しそうな予告編との「怪物だーれだ」という言葉の組合せはインパクトがあった。 残念だったのは、実際に見る前に「文脈」を意識せざるを得ないキーワー…

徹底した取材が陰謀論を退ける~堀越豊裕『日航機123便墜落最後の証言』

新書885日航機123便墜落 最後の証言 (平凡社新書)作者:豊裕, 堀越平凡社Amazon これまで、青山透子『日航123便 墜落の新事実』(以下、青山本)で衝撃を受け、日航機墜落の原因について「ミサイルによる撃墜」という陰謀論に傾きかけ、これを否定する杉江弘…

陰謀論から抜け出したい~杉江弘『JAL123便墜落事故 自衛隊&米軍陰謀説の真相』

青山透子『日航123便 墜落の新事実』(以下、青山本)の感想をまとめてから比較的早い時期に、「冷静になってみれば、やはり結論が”ミサイルによる撃墜”というのはさすがにないだろう」と思い始めた。そもそも、自分は、子宮頸がんワクチン関連本*1を読んで…

文章からも挿絵からもカヨへの愛が溢れる~内澤旬子『カヨと私』

カヨと私作者:内澤旬子本の雑誌社Amazonこの本には下心(邪念)があって読み始めた。内澤旬子さんの著作で読んだことがあるのは『飼い喰い』という、三匹の豚と半年間一緒に暮らしたあとで食べてしまう実話。その人がヤギと暮らす、その距離感に興味があった…

個人的好みから外れた「絶対安全コナン」~『名探偵コナン 黒鉄の魚影』

公開時期から少し遅れて4/29に観てきました! 総評 展開が早く、隙なくまとまって面白かった。登場人物の豪華さとテンポだけで言えば、コナン映画の中でもベストと言えるかもしれない。 灰原がさらわれて本題に入るのも早く、映画恒例の「楽しく華やかな(で…

陸自ヘリ墜落と陰謀論~青山透子『日航123便 墜落の新事実』

日航123便 墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る (河出文庫)作者:青山透子河出書房新社Amazon宮古島沖での陸自ヘリの墜落事故が起きたのは4月6日で、まだ一か月も経っていないが、新しい事実が出ないからか報道はすでに下火のように感じる。 事故の原因に…

終わらせ方への違和感と「犯人の動機を報じるな」問題~ダニエルズ脚本・監督『EVERYTHING EVRYWHERE ALL AT ONCE』

経営するコインランドリーは破産寸前で、ボケているのに頑固な父親と、いつまでも反抗期が終わらない娘、優しいだけで頼りにならない夫に囲まれ、頭の痛い問題だらけのエヴリン。 いっぱいっぱいの日々を送る彼女の前に、突如として「別の宇宙(ユニバース)…

「所有」しない=縛られない生き方~伊藤雄馬『ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと』

ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと作者:伊藤 雄馬集英社インターナショナルAmazon 就活から逃げ出した言語学徒の青年は、美しい言語を話す少数民族・ムラブリと出会った。文字のないムラブリ語を研究し、自由を愛するムラブ…

イランとトー横と境界線~アリ・アッバシ監督『聖地には蜘蛛が巣を張る』

聖地マシュハドで起きた娼婦連続殺人事件。「街を浄化する」という犯行声明のもと殺人を繰り返す“スパイダー・キラー”に街は震撼していた。だが一部の市民は犯人を英雄視していく。事件を覆い隠そうとする不穏な圧力のもと、女性ジャーナリストのラヒミは危…

何度聴いても飽きないUNION~『SSSS.DYNAZENON』全12話×『SSSS.GRIDMAN』全12話の感想

大好きだったグリッドマンの劇場版。 当初は続編の『ダイナゼノン』を観ていないのでパスするか…と思っていたが、あまりに評判が良いので、『ダイナゼノン』全12話を見て、さらに全部見るつもりのなかった『グリッドマン』全12話を見返し、劇場版に備えた。…

「空気」をめぐる希望と絶望~朝比奈あすか『君たちは今が世界』

君たちは今が世界 (角川文庫)作者:朝比奈 あすかKADOKAWAAmazon 2020年、難関中学の入試で出題多数!教室で渦巻く、悪意と希望の物語。「文ちん、やれるよな?」人気者とつるむようになってから、文也は自分がクラスの中心にいるような気分がする。担任の幾田…

この種の連作短編集では近年ベスト~松井玲奈『累々』

累々作者:松井 玲奈集英社Amazon 本当の私は誰。結婚、セフレ、パパ活、トラウマ……。不穏さで繋がる全5編。大きな話題となったデビュー作『カモフラージュ』の衝撃を超える、著者の新境地といえる意欲作。人間の多面性を切り取る、たくらみに満ちた自身初の…

軽く読むべきだった芥川賞候補作~安堂ホセ『ジャクソンひとり』

ジャクソンひとり作者:安堂ホセ河出書房新社Amazon井戸川射子『この世の喜びよ』、佐藤厚志『荒地の家族』が受賞した第168回芥川賞の候補作が発表になったとき一番気になった作品はこの本のタイトル。 実際に本を見てみると装丁も良く、字も小さい。 これは…

文庫解説に2度救われる~白井智之『お前の彼女は二階で茹で死に』×小野一光『冷酷 座間9人殺害事件』

2冊の文庫本を平行して読んだ。 端的に言うと、救いがなく、途方に暮れるような終わり方をする2冊だったが、どちらも解説に救われてやっと戻ってこられたという感じ。 しかも、読み終えてみれば、2冊をまとめて読むべきではない「混ぜるな危険」案件だった…

ポジティブさに引き込まれる~井戸川射子『この世の喜びよ』

この世の喜びよ作者:井戸川射子講談社Amazon 娘たちが幼い頃、よく一緒に過ごした近所のショッピングセンター。その喪服売り場で働く「あなた」は、フードコートの常連の少女と知り合う。言葉にならない感情を呼びさましていく芥川賞受賞作「この世の喜びよ…

淡々と体験談~奥野修司『死者の告白 30人に憑依された女性の記録』

死者の告白 30人に憑依された女性の記録作者:奥野修司講談社Amazon よく聞く「震災の怪談」に興味があった。 それは、残された者がどう心を癒すのか、死者を弔うとはどういうことなのか、という心の問題として、災害とどう向き合うのかについて知りたかっ…

「可哀想」に流されたくない~山本おさむ『遥かなる甲子園』

遥かなる甲子園 : 1 (アクションコミックス)作者:山本おさむ,戸部良也双葉社Amazon 前回読んだのは大学生くらいのときだと思う。 調布の図書館は漫画が充実していることもあり、借りて途中巻までは読んでいたが、何かのタイミングで最後まで読み終えること…

心に貯まる風景・言葉~映画『エンドロールのつづき』×井戸川射子『ここはとても速い川』

『エンドロールのつづき』 インドのチャイ売りの少年が映画監督の夢へ向かって走り出す姿を、同国出身のパン・ナリン監督自身の実話をもとに描いたヒューマンドラマ。 平日に映画を観に行く場合は、作品以上に上映開始・終了時間が重要で、3つくらいの候補の…

新年の抱負代わりに2冊を読む~三浦知良『カズのまま死にたい』×益田ミリ『永遠のおでかけ』

カズのまま死にたい (新潮新書)作者:三浦知良新潮社Amazon永遠のおでかけ(毎日文庫) (毎日文庫 ま 1-1)作者:益田 ミリ毎日新聞出版Amazon2つの本の共通点は何か。 両方の本のタイトルからイメージされる「死」という答えはハズレ。 正解は、どちらも著者の48…

三浦透子の横顔が印象に残る~玉田真也監督『そばかす』

前向きになれる映画だった。 事前情報としては、主人公がアセクシュアルであるということ以外は、アトロクの年末映画特集(放課後ポッドキャスト)で名前が挙がったことくらいしか知らず、その意味では色んな映画に出ずっぱり*1の三浦透子を見るのが一番の目…

子どもからみる親権~榊原富士子・池田清貴『親権と子ども』

親権と子ども (岩波新書)作者:榊原 富士子,池田 清貴岩波書店Amazonいわゆる「共同親権」の問題に関心があり読んでみた一冊。 元々は将棋の橋本崇載八段(ハッシーと言われて親しまれていた)が、2021年の4月に突然、引退を発表し、その後、原因が「子どもの…

スラムと希望とハミングバード~熊谷はるか『JK、インドで常識ぶっ壊される』

JK、インドで常識ぶっ壊される作者:熊谷はるか河出書房新社Amazon 朝日新聞元旦紙面での川崎レナさん 我が家は新聞を購読していないが、1月1日は、いつもと同じ価格で拡大版が買えてお得なので、朝日新聞を購入した。 11面のオピニオン欄は「『覚悟』の時…

2023不満初め~原恵一監督『かがみの孤城』

最初、『かがみの孤城』をアニメ映画でやるというのを知ったとき、「本屋大賞を取っているし、辻村深月作品はよく映画化されるね」と思った程度で関心は薄かった。絵柄を見ても、全く惹かれない。 ところが、アトロクでアニメ評論家の藤津亮太さんが激賞して…